大人になるということ

 やさしくするってどういうことだろう。ぼくはそのことをうまく言葉にすることが出来なかったから,これは賢いとは言えない。やさしいっていうのはぼくよりもうんと小さい幼稚園児でも理解できそうなことだけど,簡単そうに感じられることの方が案外難しいのだ。世の中そんな風にできているのだ。なぜなら,お父さんがそう言っていたからだ。

 でも,分からないことを分からないままにするのはいけない。お父さんはそう言うし,ぼくもそう思う。だから,学校でそのことについて研究したいと思う。聞くのではなく,研究するのだ。なぜ研究するのかというと,学校の先生にも分からないことがあるからだ。学校の先生は,教科書のことをよく知っている。算数のこととか歴史のことを聞くといろいろなことを教えてくれる。だけど,どうして人は殺し合いをするのだとか,空と宇宙の境目はどうなっているのだとか,お父さんがお酒を飲むと別人になるのはなぜだとか聞くと,全く要領を得ない解答をする。要領を得ない解答というのは,なんだかよく分からない困った顔をしながら答えを言わないということだ。簡単そうなこととか,大人なら知っていそうなことほど,自分で調べないといけないらしい。そのことおばあちゃんに言ったらとても褒められた。何でもまず自分で考えてみることと,研究することが大切なのだ。そして,大人になるといろいろのことに興味を持たなくなるから,子どものうちに興味を持ったことを調べる癖をつけることが大切だと言っていた。ぼくはまだ子どもでよかったと思った。こんなに分からないことがたくさんあるのに,大人になると興味を持たなくなってしまうなら,ぼくはできるだけ子どもののままでいたい。大人になるというのは怖いことなのだ。

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