第9話 婚約者とボートに乗ったら事故りました

 今日は湖の散策予定ですが朝から私の婚約者様の目が死んでいます。昨日夜中にドタバタとアーベル様をボコボコにしてましたからね。ちょっと睡魔に襲われて朝食をボソボソと虚に食べています。そう言えばこの方朝が弱いらしいのです。


「太陽が憎い…」

 とか言ってます。


「一度しっかり見れば体内時計も復活しますわよ!」

 と私は言い、レックスも


「キャン!」

 と吠えた。

 ちなみにアーベル様は申し訳なさそうに隅っこでちょこんと控えております。反省してるんでしょう。

 意地悪くケヴィン様が


「アーベル?君も折角着いて来たんだからラウラのお土産でも買っておいでよ?近くに村があるだろう?」

 と言うと


「えっ…あっあの…よろしいのですか?」


「よろしいと思うよ?応援してるって言ったじゃないか」

 とニヤリと笑う。目はやはり死んでいる。

 ようやく朝食を終えて私達はレックスを連れて湖までやってくる。

 レックスは元気に湖の辺りを走り回っている。


「レックス!ほら!」

 とその辺に落ちてた枝をブン投げて遠くまで飛ばしたらレックスは物凄い勢いで枝を追って拾って持ってくる!凄い!

 さらに死んだ目で容赦なく枝を上に放り投げるとレックスはジャンプしてキャッチを遂げる。

 凄い!

 さらに次々と横に、縦に、後ろにと枝を放り投げレックスは全部拾って持ってくる!すごっ…というかレックスが疲れ始めてる!!


「ふ…まだまだね。仔犬だからね」

 いや、解っててやります?

 ケヴィン様は手頃な木にレックスを繋いで餌と水を置いて休ませた。


 そして死んだ目でボートを見た。


「子供の頃落ちた記憶が…今頃来たわ…」


「大丈夫ですわよ…流石に大人になりましたし落ちませんわよ?」


「いや、落ちるかも知れない…。乗らない方がいいかもしれないわ。何か嫌な予感する。ネッシーとかいないわよね?ここ?」


「ネッシー?」


「なんか湖に棲む巨大な未確認生物というかね…」

 私が湖を見るとキラキラ反射した穏やかな水面に時折水鳥が舞い降り仲良く泳いでいたりしている。平和そのもの!!これこそ休日な優雅なひと時ですわ!!


「大丈夫ですわ!乗りますわよー!」

 と腕を引っ張り連れて行くが少し抵抗しつつもケヴィン様は


「あああーっ…」

 とか言いながら観念してボートに乗る。


「オールってどう使うんだったかしら?」


「一度乗ったのでしょう?」


「乗ったわよ落ちたけど!めっちゃ深くて死ぬかと思ったわ!いや…別に死んでも良かったけど…」


「またそんなことを!私やってみますわ」


「えっっ!?無理よエル!」


 しかしオールを両手で掴み水を頑張って掻く。


「くっ!!」

 意外と重いしあんまり進まないわ。


「ほら、その細腕じゃ無理ってものよ…私がやる!」

 とオールを渡したらケヴィン様は


「あれ?こ、こう?あれ?」

 とガッチャガッチャ動かしてボートがグラグラ揺れ始める!


「ちょっと!落ち着いてくださいませ!ケヴィン様!!」


「いや、待ってもう少しでコツが…あっ!揺れてる揺れてる!!怖っ!!」

 揺れが収まるまでケヴィン様がガタガタとボートにしがみつく。


「はぁ!何これ私また落ちるかもしれないわ!死ぬ?ここで?」


「死にません!私が漕ぎますよ!」


「それはダメ!エル女の子でしょ!?筋肉痛になるわよ!?」

 貴方も中身女の子ですけどね?


「いやっ、私が漕がないと…」


「漕いだってちろっとしか進まないじゃない?」

 ぐうっ!!


「ケヴィン様なんてオール握っただけでボートひっくり返りますよ!私のがマシです!」

 もうなんなの?絶対に私の方が上手いですわ!


「エルも解らず屋ね!もうちょっとでマスターするわよ!」


「それで転覆したらどうするんですかっ!!」


「しないわよっ!」


「自信無いくせに!!」

 と私は立ち上がりオールを奪おうとしたら


「ちょっと危ない!私に任せなさいってば!」

 とケヴィン様と立ち上がりオールを奪おうと睨み合う。とうとうボートが揺れだして


「ひいっ!」

 と情けない声を出すケヴィン様。

 ぐらりとボートが傾き体制も崩れて私は水に落ちそうになる!

 ケヴィン様がそれを後ろから引っ張りそのままドタリとボートに倒れ込んでしまった!!


 ガツ!


 ケヴィン様は頭を打って


「痛いっ!」

 と叫ぶが私はしっかりとケヴィン様に抱き抱えられていて無事だったけど…。

 ケヴィン様の手が…私の肩ともう一つは偶然にもむ、むむむ胸を握っていた…。


 ケヴィン様は死んだ目でそのままボーっとしているが少し起き上がると私の胸をそのまま一回だけモミっとして


「きゃっ!!?」

 と声を上げて私は赤くなった!!

 どうしよう?引っ叩いた方がいいのかしら?

 と思ってるとケヴィン様は


「懐かしいわね……前世エルよりはあったけど私…もう男になってから自分の触っても無いし…」

 と死んだ目で昔を懐かしんでいらっしゃる!!

 ていうか何気に失礼ですけど。


「あの…ケヴィン様…ノスタルジーに浸る所申し訳ないのですが…痴漢です」


「あっっ酷っ」

 と言って手を離した。

 でも私は赤くなりちょっとだけパシャリとケヴィン様に水をかけた。仕返しのつもりだったのだけれど!


「!!!」


「冷たっ!」

 と言うケヴィン様が…な、何これ!?み、水も滴るいい男とはこれ!?凄いもの見た!色気がとんでもない事になっていた!!目は死んでるけど湖の光の反射でうまい具合にキラキラと見える。

 私は思わず手を組んで祈りを捧げてしまった!


「ちょっ!?何してんのエル?何で祈ってんのよ!それよりよくもやったわね!?」

 とパシャリと水をかけられてムッとした私もまた水をかけ、かけ合い結局服が濡れてくる!


「いい加減にして下さい!ケヴィン様!強情ですね!」


「はあ?やったのそっちからでしょーが!」

 とまだかけ合い、いつの間にか風でボートが流されて岸から遠くなっていて気付いて青ざめた。


「あら…どうしましょう」


「アホなことしてた報いだわ…とにかく岸に帰らないと!」

 ケヴィン様はボートに積んであった毛布を取り出して私にかけた。


「ケヴィン様!貴方が風邪引きますわ!」


「私よりエルの方が風邪引くから…」


「いえ、片方だけ風邪引くなんて私罪悪感が後から来ますけど!」

 と言ってケヴィン様に渡そうとするが


「いいから私は!エル被ってな!」

 と押しつけまたぐらりとボートは傾き


「きゃああ!」

 とケヴィン様の方に倒れかかるがケヴィン様も足を滑らせて派手に倒れてその拍子にケヴィン様と私の唇がゴチンとぶつかった!

 たぶん歯がぶつかった。


「「いったーーーー!!!」」

 2人して痛がった!!……けどこれきききキス!?


 チラリと見るとケヴィン様は顔を赤くして口を押さえる。そしてモゴモゴと


「エル…大丈夫?歯茎から血出てない?」


「た、たぶん」

 と私もモゴモゴ言いながら赤くなる。


「見せて…」


「えっっ!?じゃあ私も見ます!」

 とお互いに確認し始めた。

 どこも切れてない。うん、良かった。あ、綺麗な唇ですわ…。

 しかし至近距離で確認していたからバッチリと目が合いドキっとした。

 何故かケヴィン様の目が…水面反射効果で煌めいて見えて死んでない!!

 それになんか近づいてくるよう…な?

 と思ってると私はケヴィン様にキスされていた。


 えっっ!?


 えっっ!?


 えっっ!?


 数秒時が止まった後、

 ハッとケヴィン様は離れて


「あ、あれ?あはは…な、に?」


「いえ、何はこっちです…」

 と2人とも赤くなって黙る。


「…………」


「…ゆ、百合じゃないわよ!?」

 と言い訳がましく言うケヴィン様は


「とりあえず岸に戻ろう」

 とオールを握り始めて真剣に漕いだらスイッと進んだ!


「!!!?」


「出来るじゃないですか!」


「知らない!今出来た!!」

 と言うとスイスイコツを掴み岸にあっさり着いた。助かった!!湖の真ん中でポツンは嫌でしたしね。あのまま2人きりで赤くなっていても身が保ちませんし!

 というか何故あの方はキスを!?


 ケヴィン様はギュッと服の水を絞っている。


 クシュンと私はクシャミをする。


「落ちなかったけど水には濡れたわね…やっぱりボートはもう嫌だわ……」

 とまた死んだ目になった。

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