第45話 なんだ、こいつら魔族と魔物じゃあ随分反応が違うな

 なんだ、こいつら魔族と魔物じゃあ随分反応が違うな。魔族というだけで畏れ慄いていたくせに、魔物となると、まるで不良の喧嘩自慢話のような伝説を口走りやがる。

 俺がそんな感想を持ったところで、さっきの受付嬢がロープを羽織った魔術師風の男を連れて戻って来た。


「ソーン師、この魔石なんですが」

 受付嬢にソーン師と呼ばれた男は、魔石の上に魔法陣を展開した。

「京介さん、あの方は鑑定士ですね。鑑定の魔法陣、です」

 エムが俺の耳元で囁いてくれたけど、俺もそれくらいのことは分かったので、黙って見守っていた。


「おおっ、これは本物だ!! こちらはヒュドラの魔石、それにこの三つはメタルスノーマン、それにサイクロプス、オーガ、レイズ……、全部買い取るとなると……、百億ポリーは下らんぞ」


「おい、百億ポリーって」

「そうですね。日本円で百億円って所、です」

 俺が小声でエムに尋ねると、エムはしらっとそう返してきた。

「一生遊んで暮らせるな」

「このポリティーア王国が存在し続ければ、です」

「エム、不吉なことを言うな……」


「京介、エム、なんの相談? それで買い取ってもらうの?」

 サリーが俺とエムがこそこそ話しているところに口を挟んでくる。

「そうだな、買取りを希望するが……」

 俺の声を聞いて、受付嬢は少し慌てている。

「すみません。これだけの大金すぐにはこのギルドでも用意できませんので……、一週間後に来てくれませんか。少なくともヒュドラの魔石を購入するのは王家かそれに近い貴族になりますので」

「それは困る。今一文なしなんだ。それ以外ものでも、適当に買い取ってもらえないか?」

「それなら、魔石のいくつかを買い取らせていただきます」

 受付嬢のそんなやり取りの後、結局、魔石を数十個買い取ってもらい、1億ポリーを受け取った。

 ついでにギルドで宿も斡旋してもらい、俺達はそこに一週間滞在することにした。

 これで、マリーたちに借りた借金は片付いた。後は身分証の話だ。この話もドラゴンスレイヤーの実績から簡単に話が進んだ。

 ランクは初級ランクのFランク。まあ、冒険者としてクエストを達成していないから仕方がない。クエストを達成していけば、徐々に上がっていくらしいし、サリーやマリーとパーティを組んで合同で受注をするとCランクまでのクエストなら受けられるらしい。

 まあ、金に困っているわけじゃないし、しばらくはのんびり暮らそう。それが元々の俺の願望でもあったわけだし。

 そうして、ギルドの手続きが終わり、俺たちはギルドを後にした。

 宿に到着して、異世界の料理を堪能して久しぶりの暖かい料理に舌包みを打ったのだった。

サリーとマリーはこの王都を拠点にしていて、家が別の所にあるということで、食事の後別れたのだった。


 俺たちがギルドを出た後、ギルド内は騒然としていたらしい。「スパールーキー登場とか」

「奴は大魔法使いの大賢者なのか」とか「あの獣人は超上玉だ」とか「あの獣人の着ていた服はそそる」とか「異次元の美しさだ」とか……。

 まあ、最後の方はどうでもいい情報だけど……。


 そんな騒然としたギルドをさらに大騒ぎにするニュースが飛び込んできたのだ。

 一つは魔族の四天王ドゥリタラーが、勇者により討伐されたこと。また、ドゥリタラー討伐に協力した金城京介なる勇者と同じ黒目黒髪の冒険者を王宮が探しているということだ。

 当然、その捜査はギルドにもやって来た。

 そんなわけで、京介たちは真夜中にキャロライン王女や充希の訪問を受けることになったのだ。


 ここは京介たちの止まっている宿のラウンジ。

 京介とエムそしてキャロライン王女と充希はテーブルを挟んで睨み合っていた。

「だから、あなたたちぐらい強いのなら私たちに協力してくれてもいいでしょ!!」

「さっきから何度も言っているけど、魔王なんぞに関わり合いたくない。それに、冒険者といっても俺は駆け出しFランクなんだ」

「くっ」

 王女の高圧的な要求に正論で答える京介。話は平行線だ。業を煮やして充希が間に入る。

「キャロライン。まあまあ、それで京介さんはうちと同じ召喚された転生者なんですよね。でも転生の女神にはお会いになっていない。なら、誰に召喚され、どうやってその力を手に入れられたんですか?」

「それは……、たまたまいた場所が悪かったというか……、最初にいきなり強力な魔物に襲われて、それを倒したというか……」

 言葉を濁す俺に変わって、エムが話を続けた。

「そうです。ビザール・カブ・ダンジョンの最下層に転移させられた京介は、偶然その部屋にあったニトログリセリンでダンジョンの主ヒュドラを倒していきなりレベルをあげたの、です」

「なるほど、最初に召喚された場所がダンジョンの最下層……。良く生きていられましたね。それにニトログリセリンって何なんですか?」

 呆れたように答えたキャロライン。

「まあ、京介はこの世界に本来居るべき人ではありませんから……。かかわりのない場所に偶然いて、京介の居た世界の科学ごと転移してきたんです。ニトログリセリンはそのうちの一つです。この世界を作った神(無意識集合体)も、混ざり込んだ異分子にはすぐに消えて欲しかったはず、です。

だからその場所ごと、創造初期のうちに滅ぼすつもりで絶対に生きて帰ることが出来ないダンジョンの最下層に召喚したの、です。でも、科学ごと転移したことで、神の思惑を粉砕したの、です。

私は断言します、です。この世界はつい最近、京介が転移した数時間前に造られた時空なのは間違いありません、です」

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