第2話

「アラユル情報カラ計算シテ 予測ヲ立テマシタ。サァ、オ選ビ 下サイ!」

「選べって言ったって…地獄とか訴訟とか…どうしてそんな物騒な名前が付いてんのよ! 怖くて選べないじゃない!」

「アクマデモ 未来予測ナノデ 必ズシモ ソウナルトハ 限リマセンガ、AIニヨル

計算デハ 99.9%ノ確率デ 起コリ得ル ト ナッテオリマス。」

「えー! 何なのよ! 今日はせっかくの初温泉お泊りデートだっていうのに!」

私は涙目になった。もうナビを使うのを止めようかと思った。


「ナビ ヲ 使ウ ノヲ 止メヨウ ト 思ッテ イマスカ? ソレハ トテモ 浅ハカ ナ 選択デス。転バヌ 先ノ ナビ ッテ 言ウデショ?」

言うかいっ! ナビの5ルートをよく見ると、最後のルートに希望ルートというのがあった。なんだ、マシなのもあるじゃない。

「じゃあ、希望ルートで。」

「了解シマシタ。希望ルート ニ 沿ッテ 目的地ヘ オ連レ 致シマス。」



 それからこのヘンテコなナビは普通のナビの如く、順調に麗しヶ丘公園に向かって誘導していった。30分ほど運転すると、前方に麗しヶ丘公園が見えてきた。


「麗シヶ丘公園 到着デス。」

私は公園入口横の歩道に車を止めた。入口近くのベンチに座っていた裕一郎さんは、私に気付いて手を振ってこっちにやって来た。彼は助手席のドアを開けようとした。しかしドアは開かなかった。裕一郎さんはドアの鍵の方を指さした。した覚えは無かったけど、いつの間にかロックされていた。私はすぐロックを解除しようとした。が、解除出来ない…。何度やっても無駄だった。裕一郎さんはしょうがなく後ろの席に入ろうとしてドアを開けようとした。が、開かなかった。後ろのドアのロックも解除出来なかった。やっぱり中古車だから不具合が出たのかなと思い、とりあえず車から出ようと運転席のドアを開けようとした。…開かない。どういう事なんだ! 突然ナビが話し出した。


「エミカサンノ 安全ノ為、只今 全扉 ロック シテオリマス。」

「何でロックすんのよー! あの人は私の彼氏なの! これから二人で温泉に行くんだから! 速く開けてよ!」

すると助手席側の窓が5センチほど開いた。

「絵美香~! 冗談はこのくらいにして速く開けてくれよ~!」

5センチの隙間から裕一郎さんが困ったような顔をして話しかけた。

「違うの! 開けようとしてる…」

私の話を途中で遮り、ナビが勝手に叫び出した。しかも私の声で!!!


「おい! 裕一郎! キサマ妻子ある身で私に近づいて何考えてんだよ! しかも一銭も払わずタダで温泉旅行なんて、心底腐ってんな! この〇×△□ピーーーーー野郎! 冗談は〇×△□ピーーーーーだけにしやがれ、クズ人間がーーーーーー! 〇×△□ピーーーーー 〇×△□ピーーーーー!!!!」


「絵美香! おまえ…俺の事、そんな風に思ってたの? 汚い言葉使って下品な女だな。もういい! 金輪際、俺に近づくな!」

裕一郎さんが去っていく。待って! 私は彼を追いかけようと車から出ようとした。しかしドアは頑として開かなかった。

「何で? 何でよ! 今、彼を追いかけないと私たち終わってしまうじゃない!」

私はハンドルを叩きながら泣いた。



「画像ガ 検出 サレマシタ。」

ナビが言った。そしてナビの画面にSNSらしき画像が浮かび上がってきた。いかにも高級そうなレストランで家族らしき集まりの集合写真。真ん中に年配の夫婦らしき二人が並び、その横に…裕一郎さん? まさかと思って目を擦ってみたけど確かに裕一郎さんだった。横にはキレイな女の人が彼に寄り添っていた…。そしてその写真には、こんなキャプションが…。


“〇月〇日 義父の還暦祝い。夜景の美しいこのレストランにして大正解でした。妻も褒めてくれたよん♡ 僕らもお義父さんとお義母さんみたいな素敵な夫婦になろうな♡”


さらに別の画像が浮かび上がった。誕生日ケーキのろうそくを幼い女の子が吹き消そうとしている写真。後ろにはその子のお姉ちゃんくらいの年齢の女の子。その子の肩に手をやっているさっきのキレイな女の人…きっと彼の妻だろう。そしてその横に浮かれた裕一郎さん…。キャプションはこうだった。


“今日はルキアのお誕生日! ママが手作りのバースデーケーキを焼いてくれたお! ママは何でも出来る魔法使いだね♡“



裕一郎…キサマッ!

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