第42話
改めてローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンは二人を迎い入れた。
ハンド・メルト・マイトとサンシャイン・ダイナはスペース大遊撃ロケット部隊に志願した。
特殊能力者の選りすぐりからなる、隕石破壊を目的とした部隊だ。
世界六カ国によって同時に開発された六台の宇宙船に乗りこみ、隕石に向かう。
それぞれの国の中でも指折りの特殊能力者だけが選ばれるエリート中のエリートだ。
スペース大遊撃ロケット部隊は、成功したところで帰ってくる見込みは薄い。
それを承知の上でも応募は殺到し、そしてハンド・メルト・マイトとサンシャイン・ダイナが宇宙に行くことが決まったと報を受けたのだ。
「でもすごいことよ。スペース大遊撃ロケット部隊に選ばれるなんて。普通じゃ絶対になれないんだから。あたしも嬉しいわ」
ローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンがそう言うと、みんなの顔色が曇った。
確かに命がけの任務で嬉しいばかりではないのはわかっている。
だけど、それを踏まえた上で、仲間である自分たちは精一杯笑顔で祝福してあげなくちゃいけない。
そう思って無理にでも明るい声を出す。
「フッ……。少し説明が必要なようだぜ、ポップル」
「あたし今はローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンなの」
「そうか。わかったぜ、カメアリ」
「……ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールでいいわ」
「あの、ピンキーさん。違うんです。そうじゃないんです」
ハート・ビート・バニーが今にも泣きそうな声をだす。
「うん。わかってるわ。だけど、今は選ばれたことを喜びましょうよ!」
彼女の気持ちはわかる。
誰よりも優しく、人が傷つくのが我慢できない子だ。
ただ、それでも湿っぽい顔はするべきじゃない。
「いえ、そうではなくてですね……」
「バニー。それはあなたの悪いところよ。あたしたちは仲間なんだから、こんな時にどういう顔で送り出してあげればいいか。二人の気持ちを考えて」
「……はい」
「まじうけるんだけど。ピンちゃん、あのね。あーしたち落ちたの」
サンシャイン・ダイナが吹き出して言った。
「うん。……ふぇ?」
「やー。頑張ったんだけどね。あーしら普通だったから。やっぱすごすぎだよ、スペース大遊撃ロケット部隊って。もう全然違うから。肌の色ツヤからして違ってたから」
「え? だって宇宙に行けるって」
「それはそうだけどー。選抜はダメっぽかったんだよー。訓練機ぶっ壊しちゃったし。試験官八人病院送りになっちゃったし」
サンシャイン・ダイナのドジの連鎖によって試験場が阿鼻叫喚に巻き込まれる光景が目に浮かんだ。
「おっと、ここからは俺から話させてもらうぜ。そう、俺たちは惜しくもギリギリのところで合格ラインを割った。ただやはり天は俺を見放さなかったようだぜ。民間企業の開発したロケットで同行できるようになったんだぜ」
スペース大遊撃ロケット部隊は地球の威信をかけた国家レベルのプロジェクトだ。
それだけの労力や資金を注ぎ込んでも、成功の確率は高くはない。
しかし、それにしても隕石の破壊に同行できるだけでも喜ばしい話だ。
「でも、すごいことだわ。二人とも地球を守るために戦えるんだもの」
「あの、ピンキーさん」
ハート・ビート・バニーがおずおずと声をかける。
「なに、まだ何かあるの?」
「戦わないらしいです」
「え……」
「スペース大遊撃ロケット部隊の活躍を記録する係で、隕石には接近もできないらしいです」
「あ……そう。でも! すごい!」
「もうピン子、無理しなくていいよ。引き際が肝心だよ」
ザ・パーフェクトの言葉になぜか心が反発した。
自分でもそれがどんな感情かはよくわからなかった。
鼻の奥がツンとして涙が浮かび上がってきた。
「だってすごいじゃない! あたしたちの仲間なのよ。誰にもすごくないなんて言わせない! あたしは誇りだもん。すごいことなのよ! あたしは、あたしは……」
涙声になって訴えかけたところをサンシャイン・ダイナが抱きしめてきた。
「ピンちゃん、ありがと」
仲間をけなされた悔しさかもしれないし、もっと別の感情かもしれない。
考えてみればこのメンバーの中で訴えることでもなかった。
ここにいる仲間はみんなわかっている。
だけどやっぱり、抑えきれないものもあるのだ。
「それにしてもこの二人とはね。うちは不思議でしょうがないよ」
確かにザ・パーフェクトの言い分もわからないでもなかった。
攻撃に参加しないとしても、もっと宇宙に適した能力者はいるだろう。
でもそのことは考えないようにしていたのだ。
サンシャイン・ダイナが選ばれたと聞いた時から、彼女がどんな理由で隕石に向かわされるのかを想像してしまったから。
それが攻撃に参加しないとなると、選考理由がよくわからなくなる。
「なんで? ボクは最適だと思うさ」
ラック・ザ・リバースマンが気の抜けた顔でそう言った。
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