第31話


 管理ルームに集結した能力者たちは各々の特性に合わせて分けられた。


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールとサンシャイン・ダイナはエネルギー排出口の封鎖へ。

 ハンド・メルト・マイトはエネルギープラント本体の守備に。

 ザ・パーフェクトは管理ルームで状況を伺う。

 そして敵を排除するために戦いに赴く遊撃隊にはラック・ザ・リバースマンとハート・ビート・バニーが選ばれた。


「頼んだぞ、ラック・ザ・リバースマン」


 ウーバー・ワンがラック・ザ・リバースマンの肩をガッチリと握る。 


 大きな手。

 力強い握力。

 そこから伝わってくる熱。


 ラック・ザ・リバースマンは笑顔で頷いた。


 遊撃隊は四人。

 ラック・ザ・リバースマン、ハート・ビート・バニー。

 そして、ハニー・バレッツからは自分の吐き出した空気を操るポンプ・キッス・ガール。

 圧縮した空気はかなりの攻撃力を誇り、空気の密度を換えることにより、光を屈折させて一方向から自分たちの姿を見えなくするという事ができる。

 もう一人アタック・ザ・ファイティング・ゴングからスイッチ・バック・パックマン。

 背中から吸引力を出し、どんな壁面でも吸い付き、自分の体重より軽い物なら引き寄せることもできる。

 髪の脇をペッタリと貼り付けたリーゼントのスイッチ・バック・パックマンは、ハート・ビート・バニーに擦り寄って話しかけた。


「彼氏とかいるんスカ?」

「え。え?」

「フリー?」

「いえ、私、そういうのじゃ……」

「いない? いる? いない? いる? どっちー?」


 スイッチ・バック・パックマンはリズムを取りながらそう聞く。


 チームのメンバーであるハート・ビート・バニーにそういう馴れ馴れしい口を利くのが少し気に障った。


 ハート・ビート・バニーも困った顔をしてる。

 だからと言って咎めていいものか。

 急造とは言え、今はチームメイトなのだ。

 スイッチ・バック・パックマンは当然ラック・ザ・リバースマンよりも評価が高いスーパーヒーローだ。


「ほっといた方がいい。吸い付く能力のやつって、だいたい性格が粘着質なのよね」


 ポンプ・キッス・ガールがそういう。


 そんなもんか、と納得してしまった。

 ラック・ザ・リバースマンにとっては、スイッチ・バック・パックマンよりもポンプ・キッス・ガールの能力のほうが格好良く興味があった。


「言うほど便利じゃない。もちろん破裂させて人を倒せるし、いざとなったらちょっと空中を駆け上がることもできるけど」

「すごいね。めちゃくちゃ格好いいさ」

「フン、そんなことないわ。普通よ普通。ただ難しい能力だから使いこなすのにセンスがいるだけ。能力だけじゃないの」

「それがすごいのさ。特にこれ。ミラージュ? なんとか? 空気で透明になるなんて普通考えつかないさ」

「ま、まぁね。蜃気楼の応用よ。確かにたとえ他の人がこの能力を手に入れても、これは思いつかなかったでしょうね」

「そういう一捻りある能力の使い方って憧れるのさ。自分の能力を使いこなしてるって感じ」

「ラック・ザ・リバースマンのフレッシュも悪くないと思うわ」

「そうだよね。いいよね。ボクも気に入ってるさ。捻りはないけど」


 そう話しているとポンプ・キッス・ガールが尻餅をついた。


 同時にラック・ザ・リバースマンも足を滑らせて転ぶ。

 見るとハート・ビート・バニーとスイッチ・バック・パックマンも床に伏せていた。


 通路の先には片手を床についてスーパーヒーローランディングのポーズをとる男が一人。


「なんだか滑る! 床をヌルヌルにする能力かも知れないさ」

「それなら俺だね。俺の出番だね。だって俺は壁につく」


 そう言ってスイッチ・バック・パックマンは背中から壁に飛びついたが、ゆっくりと壁からずり落ちた。


 「ダメだ。吸い付けね。なんでなんでー」

 「これ、頭の痛くなるような重低音ですね」


 ハート・ビート・バニーがそう言った。


 意識をすると確かにムーンと響く低い音が鳴っている。

 エネルギープラントという場所柄、そういったノイズはあるものだと思いこんでいた。


「床の材質は変わってない。これ、振動ね。床や壁が細かく振動してる。アイツはそういう能力よ。床につけた片手でやってるわ」


 ポンプ・キッス・ガールが落ち着いてそう言った。


 さすがラック・ザ・リバースマンとは踏んでいる場数が違う。

 一瞬にして相手の能力を読み切ってしまった。

 しかしわかったところで対処法がすぐに思いつくわけじゃない。


 細かく振動する床は、摩擦抵抗を限りなくゼロに近づけ、踏ん張るどころか立ち上がることすらできない。

 何度か転がりながらポンプ・キッス・ガールに尋ねた。


「空中を駆け上がれるんだよね?」

「駆け上がれるっていうか、それっぽいことはできるけど」

「それしてみてよ」

「簡単に言う。やってみるけど! 駄目かもしれないからね!」


 どこか不満そうにポンプ・キッス・ガールは言った。


 ゆっくりと息を吐きだし飛び上がる。

 数秒空中に待機した後、ポンプ・キッス・ガールは落下した。


 ラック・ザ・リバースマンはそれを抱きとめる。


「フレッシュ!」

「だってしかたないじゃない! 空気は振動をつたえるんだから!」

「一回戻った方がいいと思う」

「それがいいね。絶対いいね」


 そう言いながらすでにスイッチ・バック・パックマンは背中から滑るように移動を始めていた。


 その時突然、建物自体が震え、内臓に響くような大きな音が鳴る。


 滑っていたスイッチ・バック・パックマンが飛び上がった。


 見るとハート・ビート・バニーが能力を使って超力化していて床を両拳で叩いていた。


 大きく床が揺れ、その間あの細かい振動は収まっていて立ち上がることができた。


「バニー! やっぱりそれ最高さ」


 ラック・ザ・リバースマンはハート・ビート・バニーに声をかけながら振動を起こしていた男の元に駆け寄る。


 男はラック・ザ・リバースマンの接近を見て、立ち上がりナイフを構えた。


 走る勢いのままタックルをして男と一緒に縺れて転がる。


 特殊なナイフなのか、ナイフに振動を与えているのか、防刃のスーツが簡単に裂かれて腹にナイフが突き刺さる痛みが走る。


「フレッシュ!」


 相手はナイフを突き刺したまま、呆然とラック・ザ・リバースマンを見た。


 もちろん、ラック・ザ・リバースマンはいつものように笑顔で返した。


 どんな状況でも笑ってやる、それがしぶとさを武器にするスーパーヒーロー、ラック・ザ・リバースマンだ。

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