第21話
駆けつけたザ・パーフェクトはハンド・メルト・マイトのヘッドギアを取り去った。
幸い外傷はなく、髪の毛を僅かに焦がした程度ですんでいた。
「マイト、ブロッコリーのような頭になっちゃってるよ」
ザ・パーフェクトはちょっと笑いながら言ってしまった。
ヘッドギアのおかげで火を逃れた部分が頭部の中央を縦断し、こんもりとアフロヘアのような塊が二つできてた。
ハート型の綿菓子のように見える。
普段の彼なら自嘲気味に笑って受け流すところだろう。
しかし、彼の目はまだ険しく闘志を秘めていた。
「追うぜ」
ハンド・メルト・マイトはすぐに立ち上がってそう言う。
「えー、悪いけどこれもう無理だよ。うちらの手には負えない」
ついた手枷のせいでもうザ・パーフェクトは能力を使えない。
唯一の勝機はザ・パーフェクトの能力で相手の動きを封じることだけだったのに。
「鉄がない場所に追い込めればね」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが言った。
「そんな場所は現代にはないよ」
ザ・パーフェクトは諦めを促すために主張する。
「でもマイちゃんのおかげだよねー。ああ言ったせいで、あの子、女の子に手を出せなくなったんだよ」
サンシャイン・ダイナは起き上がるなり、また小さな鉄球に足を取られて転んだ。
確かに彼の能力ならば、あの時にザ・パーフェクトたちを戦闘不能に追い込めた。
こんな枷を作るよりも容易だったはずだ。
そこまで考えてたのかわからないけど、あの一言は有効だった。
しかしそれもここまで。
十分に戦った。
決して悪い結果だったとは思わない。
現状のスタイル・カウント・ファイブにしては満足してもいいくらいだ。
すでに戦いが終わった気持ちになっていたザ・パーフェクトの前でアフロが動いた。
「俺に考えがあるぜ」
ハンド・メルト・マイトがそう言った。
地下駐車場に移動してザ・パーフェクトたちは待ち構えていた。
壁はコンクリート打ちっぱなし。
しかし、鉄がないわけではない。
天井には配管がむき出しで出ているし消火器も壁に目立つ。
そして何より車が停まっている。
腕に枷のついたザ・パーフェクトは状況を見守るしかできなかった。
待っていると、身体中に棘の生えた人物が入ってきた。
「フレッシュ!」
そう言いもつれるように走るラック・ザ・リバースマンの身体には、針のような細さから太いものは鉄パイプのようなものまで蔓のように絡みつき、刺さっているものもある。
少年はラック・ザ・リバースマンを追って入ってきた。
風で前髪がめくれ上がり、憎悪に満ちた目が顕になる。
少年が駐車場の中央あたりに来たところで声が上がった。
「ねー。あーしが相手になるからさ」
突然姿を表したサンシャイン・ダイナに少年は足を止めビクッと身体を震わせる。
サンシャイン・ダイナはゆっくりと、微笑みながら近づいていく。
少年はあたりを見回した。
「ってか、話し合おうよ。それが絶対いいって!」
近づくサンシャイン・ダイナから逃げるように少年は振り返って駆け出した。
その先には自動車が停まっていた。
この追い詰める役はサンシャイン・ダイナが自ら名乗り出た。
特殊能力を使うことができない彼女にとって、どれほど勇気のいる行動だろう。
「でもあーし、あの子のこと信じてるから。女性は傷つけないんでしょ? ね?」
信じる、という言葉を敵対する相手に使うことにザ・パーフェクトは驚いた。
彼女にとってはそれは当たり前のことなのかもしれない。
女性であること、そして少年が苦手そうにしていたこと、なによりも相手に能力がバレていないことで恐怖心を煽れる。
彼女の言い分を最初はみんな反対したが、決意は固かった。
「あーしだってみんなの仲間だよ」
そう言って微笑む彼女の言葉を最後は飲むことになった。
少年はサンシャイン・ダイナを振り返りながら車に駆け寄って手を伸ばす。
車体に手が触れた瞬間に、それは武器へと形を変えるはずだ。
しかし少年の手に触れたのは、鉄でできた自動車ではなかった。
車体のすぐ後ろに隠れていたハンド・メルト・マイトが彼の手を握っていた。
「裏をかいたぜ」
思いもよらない感覚だったのだろう、少年はすぐ自分の手を確認する。
そしてもう片方の手をのばす。
その手をハンド・メルト・マイトは握った。
まるで力比べをするような形で二人は手を握ったまま対峙する。
広く見通しのいい駐車場には鉄でできたものも多い。
しかしコンクリートに囲まれ、さほど明るくない照明の中で、鉄を意識したら誰もが自動車に向かう。
ハンド・メルト・マイトは自信満々で言ったが、それは賭けだった。
もう一つ問題があった。
鉄に触れて変形させるような相手をどう拘束するか。
ロープなどでは鋭いナイフ状にした鉄で切られてしまう。
超本営に引き渡すまで、彼の能力を封じる方法。
「なんだよぉ、離すもん!」
「お前の左手は、今右手とまったく同じ物質になっているんだぜ。ということはだ」
ハンド・メルト・マイトが手を離すと同時に、彼の両手のひらを合わせた。
「は、離れないもん!」
「くっついちまうんだぜ」
いつもならポーズを決めて自分の手柄をアピールしそうなものだったけど。
その時のハンド・メルト・マイトは本当に静かに、クールに言い放った。
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