17.お手本


 依頼主:ピケット


 取引場所と時間:ギルドの受付カウンター近く、正午くらい


 依頼ランク:D


 報酬:金貨1枚 銀貨2枚


 依頼内容:都から北北西およそ10キロ先にある巨大地下牢迷宮の一階層から三階層にて、覆面をつけた二人組のプレイヤーキラーが暴れていて大変迷惑しております。出没するのは夕方から夜にかけての時間帯が多いみたいです。自分たちのパーティーも被害を受け、仲間が斬られ重傷を負ったので是非捕まえていただきたい。


 ※三日後には都を発つ予定ですので、期限は今日の朝から明後日の正午くらいまででお願いします。


「……」


 なるほどなるほど。見た感じ、数あるDランクの依頼の中でも一番報酬が高かっただけでなく、緊急性も要しているように思えたのでこれに決めることにした。


「迷宮の浅い階層で被害者が出捲るってことは、初心者の冒険者を狩ってイキッてやがるんだな。ふざけやがって……」


「ディルの旦那、また小悪党退治っすか? んー、さすがにこんだけ離れた迷宮が縄張りってわけもねえだろうし、これじゃあ、まるで……」


「うんうんっ、ラルフの言う通り、これじゃまるでディル様って正義の味方みたいだよぉ」


「そういえばそうですわね。ディル様の意図がどうであれ、結果的にはそうなっていますし……」


「こんなこと言いたくないけどー、ディル様って、実は正義の味方なのかもー?」


「くっ……」


 おいおい、ラルフたちが俺のことを正義の味方なんじゃないかと堂々と疑い始めやがった。さすがに人助けの依頼ばかりやってるからか? しかし、俺のことを恐れてる割りにちと図々しい気もする。おそらく、こいつらにしてみたら俺と長く一緒にいることで、悪党の怖さに慣れてきたっていう面も大きいんだろうなあ。


 うーむ、このままじゃ舐められてしまうぞ。ここをどう切り抜けようか……ってそうだ、があった。


「ハッハッハ!」


 俺が腰に手を当てて高笑いを始めると、みんなびっくりした様子で押し黙った。


「正義の味方だあ? 笑わせるなよ、お前ら。俺が自ら悪の手本ってやつをこいつらに見せてやるってんだよ!」


「あ、悪の手本……!? なるほど! ディルの旦那が直々にお手本を示してやるってわけっすか」


「確かに、浅い階層で弱い人をちまちまといじめるのかっこわるう」


「ですわねえ。小心者で小物の小悪党さんみたいです」


「あははっ、マジキモー、ちょーサイテー」


「ハッハッハ! そいつらは俺にしてみたらどうしようもないバカ弟子みたいなもんだが、やり方がみみっちくて気に入らねえ。ちっとお灸を据えてやらんとなあ……」


「「「「ごくりっ……」」」」


 よしよし、額に青筋を浮かせた俺に対してみんないい感じにビビってるし、失った分の威厳はちゃんと補充できたようだ。これで俺の脱力系召喚術がより冴えるというもの。


 しかもガチャ系なので何が飛び出すかは俺でもわからないが、舐められる可能性があるのが問題であって召喚術自体は最強だからな。見てろ、プレイヤーキラーなんてやってる愚かな二人組に天誅……いや、本物の悪党の流儀ってもんをこれでもかと刻みつけてやる……。




 ◆◆◆




「むんっ……我の至高の召喚術を見よっ……!」


「「「おぉっ!」」」


 勇者マイザー、戦士バイドン、僧侶ミーヤが目を輝かせるのも無理はないことであった。神殿内に現れたA級モンスター、クリスタルスパイダーに対して召喚術師エルグマンが出現させたもの、それは大きな剣の形をしたモンスター、オーガブレイドであり、赤黒い目玉が刀身に覗く不気味な容姿だったが、あっという間にモンスターを駆逐したのだ。


「さ、さすがエルグマンさんだ、ディルとは違う」


「あんなゴミ野郎とは比べものにならねえぜ!」


「ホント、最高――って!?」


 僧侶ミーヤがギョッとした様子になるのも仕方なく、オーガブレイドはクリスタルスパイダーを倒しただけに飽き足らず、暴走した様子で剣を振り回し、勇者たちに対しても牙を剥いて攻撃し始める始末だった。


「「「――はぁ、はあぁ……」」」


「まあ、たまにはこういうこともある。気にしないでくれたまえ」


 オーガブレイドからようやく逃げ切り、酷く疲れた様子のマイザーたちだったが、一方でエルグマンは涼しい顔をしていた。


「エ、エルグマン、お前っ、気にしないでって……外れ召喚師のお手本みてえなあんな狂暴なモンスター召喚しておいて、よくそんな無責任なことが言えるな!?」


 耳まで赤くしたバイドンが怒り狂った様子でエルグマンに詰め寄り、その胸ぐらを掴む。


「ふむ……? 我のおかげで倒したのにその言い分はないだろう。それに、大きな力には代償がつきものなのだよ。ま、君みたいな雑魚にはわからんだろうが」


「は、はあ? 俺が雑魚だとおぉ……!?」


「ちょ、ちょっと、やめないか、バイドン」


「そ、そうよ、仲直りっ。ね?」


「フン……」


「ちっ!」


 マイザーとミーヤが割って入ったこともあり、不満そうに握手し合うエルグマンとバイドンだったが、直後に目の前でお互いにすぐ手を拭く等、不穏なムードはいつまでも続くのだった……。

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