第4話 ちょうせんを うけますか?

2020/10/30に大幅に改訂しました。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


「なんと……」

「すげぇ……」

「ブラムゴンを……」

「なんというお力じゃ!」


 おおおおおおおお!


 村人の歓声が自然と沸き上がった。

 先ほどまでブラムゴンに怯え、死を待つか、ブラムゴンの奴隷になるしかなかった村人たちが、あらん限りの声で叫んでいた。


 その声を聞きながら、俺は少女に声をかける。


「君、名前は?」

「あの、そのぉ。ありません。名前は禁じられているので」

「あ。そうか。ごめん。じゃあ、俺が名前を付けてもいいかな?」


 尋ねると、ちょっと戸惑いつつ、少女はこくりと顎を動かした。

 俺はしばし黙考した後、少女の肌の色を見て名前を思い付く。


「ちょっとだけ我慢してくれ」


 俺は少女に向かって手を伸ばす。

 一瞬少女は怯えたような顔をしたが、俺はただ少女の頭の上に手を乗せただけだった。



 【言霊ネイムド】――――ルナ。



 俺の手が光り始める。

 その輝きを浴びた少女もまた光り始めた。


「君の名前は、ルナだ」


「ル…………ナ……」


 ルナと俺に名付けられた瞬間、白色の光が周囲を満たす。

 やがて霧のように腫れていくと、暗黒大陸の荒涼とした大地に戻った。

 そして俺たちの前に、光り輝く数行の文字が現れる。




 名前   : ルナ

 レベル  : 1/99

    力 : 6

   魔力 : 18

   体力 : 5

  素早さ : 7

  耐久力 : 15


 ジョブ  : 聖女


 スキル  : 大回復LV1




 これが【言霊ネイムド】のもう1つの能力。

 生物に名前を付けることによって、その隠れたポテンシャルを数値化し、具体的な能力を明らかにする能力だ。


「これは……?」

「君の潜在能力だよ、ルナ」

「私の……能力…………?」

「保証しよう。君は強くなる!」



 魔族よりもね……。



 だが、その歓喜は長く続かなかった。


「げぇぇえぇえぇえぇえぇえぇえ!!」


 気合い一閃とばかりに、雄叫びが轟いた。

 山の地面が隆起し、空へと吹き飛んでいく。

 その地中から現れたのは、ブラムゴンだ。


 先ほどとは打って変わって表情が違う。

 目を尖らせ、口から吐き出す臭気は湯気のように白く濁っていた。

 一方で、その体表は熱した鉄のように赤くなっている。


「ぶ、ブラムゴン様!」

「「「「おおおおおおお……!」」」」


 少女が顔面蒼白になれば、村人たちも戦く。

 歓喜は一転して、悲鳴に上がり、腰を抜かす者が続出した。


 だが、ブラムゴンが見ていたのは、少女や村人たちじゃない。

 その怒りの矛先は俺に向けられていた。


「げぇっ! げぇっ! げぇっ! なんだその弱っちぃステータスは!!」


 不気味な笑いと一緒に怒声を放つ。

 一方、俺はポリポリと髪を掻いた。


「やっぱ生きてたか。魔蛙族は体力あるなあ」


 ま――。これぐらいで魔族が死なないことはわかってたけどな。


 実は魔族の名前は、ほとんど俺が付けている。

 それはつまり魔族にも、潜在能力ステータスがあるということだ。


「我が輩のステータスを見るがいい!」


 ブラムゴンは自分のステータスを開いた。

 中空に光の文字が浮かび上がる。




 名前   : ブラムゴン

 レベル  : 6/6

    力 : 121

   魔力 : 55

   体力 : 200

  素早さ : 185

  耐久力 : 153


 ジョブ  : なし


 スキル  : 大跳躍LV5 毒吐きLV5




「どうだ、我が輩のステータスは!」


 ルナとブラムゴンの数値の差は圧倒的だ。

 どうやら、村人たちは数字を読むぐらいの教養はあるらしい。

 両者の数値の差は明らかだった。


「そんなことよりも、どういうつもりですか、ダイチ様」

「どういうつもりって……。お前の方こそどういうつもりだ? エヴノスに何を聞いていたのか知らないけど、俺は褒賞としてこの暗黒大陸をもらった。ここにあるものすべて、大魔王である俺のものだ。むろん、ここにいる村人も俺のものだ。なのに、お前ときたら、俺の所有物を奴隷にするは、挙げ句の果てセクハラまで強要するなんて、一体どういうつもりなんだ?」


 俺は鋭い視線を送った。

 だが、その程度で引き下がるほど、ブラムゴンはもはや冷静ではない。

 大魔王といえど、人族の俺を今にも一飲みせんとばかりに、大きな口を開いた。


「我が輩は、エヴノス様よりこの暗黒大陸の監視を仰せつかった身。その魔族に危害を加えるなど……」

「監視者なら尚更だ。その態度……。まさか大魔王である俺に危害を加えようというわけではなかろうな」


 我ながら偉そうなことは言ってるな、とは思ってる。

 けど、これぐらい上手うわてにでないと、魔族に舐められるのだ。

 長い魔王城生活が、ここで生きていた。


「ぬぐぐぐ……。屁理屈を――」

「屁理屈じゃねぇよ。単なる事実だろ」

「わかりました。そこまで言うならば、ここは退きましょう。元々あなたがここに来た時点で、我が輩は本国勤務を言い渡されているので」

「栄転だな。おめでとう」


 俺はパチパチと小さく拍手を送る。

 だが、ブラムゴンは挑発と受け取ったらしい。

 ますます目くじらを立てて、俺を睨む。


「本国勤務になったら、このことはエヴノス様にご報告させていただく」

「勝手にしろ。お前が怒られるのがオチだぞ」

「それはどうかな!」


 ん? なんだ? 今の自信は……。


 ブラムゴンは最後に一睨みする。

 印象的な眼差しだった。

 まるで俺に呪いをかけるような。


 だが、この程度では俺も動じない。

 なんせ俺は、ブラムゴンより遥かに怖い魔王様とここ数年相手をしていたんだからな。


「なあ、ブラムゴン。エヴノスに会ったら伝えてくれよ」

「我が輩を伝言係にするおつもりか?」

「どうせ俺のことを報告するんだろ? 報告する方があいつも喜ぶだろうよ」

「ふん。聞くだけ聞いておきましょう」


「ありがとう」


「はっ?」


 ブラムゴンは思わず聞き返した。

 構わず俺は話を続けた。


「俺にこの大陸をプレゼントしてくれて感謝する。ここは俺にとって宝の宝庫だ」

「宝の宝庫? ゲッゲッゲッ! 何を言っているのですか? ここは宝物庫でもなんでもない。ここは墓場ですよ、大魔王様。エヴノス様がどういうつもりで、あなたをここに送ったのかわかりませんが、我が輩に言わせれば、あなたは厄介払いをされたのです。それがわからないのですか?」

「俺の世界にはこういう言葉がある」



 住めば都のコ〇モス荘!



「コス〇ス……荘…………?」

「あ。いや、そっちは忘れてくれ。つい勢いで……。こほん。……つまりは、どんな場所でも住み慣れてくると、居心地がいいってことさ」

「ふん! こんな岩と土しかない大陸……」

「そうだな。けど、ここには人材がいるヽヽヽヽヽ。しかも優秀な」

「まさか――――。人族をお育てになるつもりか!!」

「そのまさかだよ、ブラムゴン」


 そして、俺は手を伸ばし、指を1本立てた。


「ブラムゴン……。1つ言っておくぞ。人族は必ず強くなる。魔族よりもな」

「ふん。馬鹿め! その減らず口、今度来た時には利けないようにしてやる。


 ぴょんとまさに蛙のようにブラムゴンは跳び上がる。

 そのまま村の近くの川へと飛び込んだ。

 かなりの激流なのに、すいすいと泳ぎ、西の方へ向かう。

 このまま海も泳いで本国まで戻るらしい。


 さすが蛙だな。

 ところで蛙って、海を泳げるんだろうか。


 暗黒大陸から遠ざかっていくブラムゴンを眺めながら、ルナは尋ねた。


「さすがダイチ様……。ブラムゴン様にあそこまで言い返すなんて」

「ずっと魔族に囲まれて暮らしていたからな。それに俺の側にいたのは、魔王エヴノスだ。ブラムゴン程度じゃ、全然ビビらないよ」


 でも、最初はおっかなびっくりだったなあ。

 魔族社会はまさに弱肉強食だ。

 一旦退くと、どんどんつけ上がられる。

 俺も何度もやられた。

 その都度、エヴノスやアリュシュアに助けられたものだ。


 今の俺があるのは、そうした経験と2人のおかげと言える。


「待ってろよ、エヴノス。神界を追い返した魔王軍よりも強い人材を集めて、お前をびっくりさせてやるからな」


 ニカッと歯をむき出し、俺は西の方を向いて笑うのだった。



 ◆◇◆◇◆  魔王 side  ◆◇◆◇◆



「えっう゛のしゅ!!」


 玉座に座った魔王エヴノスは、盛大にくしゃみを吐き出す。

 その膝の上に乗っかったアリュシュアは、顔にかかったエヴノスの唾液を愛おしそうに舐め取った。


「どうしました、エヴノス様? 風邪でも引かれましたか?」

「魔王である我が、風邪など引くはずがない。これは誰かが噂をしているのであろう」

「まあ……。もしかして、ダイチでしょうか?」

「あり得るな。今頃、暗黒大陸に着いた頃合いだろう。あやつの呪う声が聞こえてきそうだな」

「それは大変……。そろそろベッドに参りましょう」

「そうだな」


 2人は立ち上がる。

 エヴノスはアリュシュアを抱えたまま、魔王の間を出て行くのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


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