第2話 まじゅうが あらわれた

2020/10/30に大幅に改訂しました。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「「「ははっっっ!!」」」


 村人たちは突然膝を突く、

 やせ衰えた大地に手をつき、俺に向かって頭を垂れた。

 その姿に、俺は呆然としていると、先ほどの老人が口を開く。


「知らぬこととはいえ、とんだご無礼いたしました、大魔王グランドブラッド様」

「俺のことを知っているんだな」

「はい。ブラムゴン様から。大魔王様は、我々と同じ人族だと……」


 お喋りなヤツがいたものだ。

 とはいえ、ある事情からヽヽヽヽヽヽ大魔王である俺が、人族であることは魔族全員に周知されている。

 1人ぐらいお喋りなヤツがいてもおかしくないだろう。


「ブラムゴンというのは、魔族だな」

「はい。この暗黒大陸の領主をされている方です」


 すごいな。

 大陸すべてを治めているのか。

 とはいえ、日差しも分厚い雲に阻まれ、植物も満足に生えないやせ細った土地だ。

 こんな領地をいくらもらっても、領主としてやりにくいだけだろう。


 とりあえずブラムゴンの所には、後で挨拶するとして、現状の把握が必要だ。

 どうやら、魔族に教えてもらったマナストリアのことは、かなり脚色が加えられているようだからな。


「なあ、爺さんは?」

「ここで村長を務めております」

「名前は?」

「いえ。そんな! 恐れ多い」

「ああ……」



 そうだったなヽヽヽヽヽヽ……。



 俺は村長から話を聞くことに。

 マナストリアに住む人族に何があったか。

 この暗黒大陸とはどんな場所なのかをだ。


「今から100年前になります」


 魔族と人類は激しく争っていた。

 人類側には、他種族つまり獣人、ドワーフ、エルフ、そして精霊が加わり、驚異的な身体能力と魔法を操る魔族に対抗した。

 それでも魔族に適わず、人類側に与したすべての種族が、暗黒大陸に半ば幽閉された。


 文明を失い、戦う意志すらくじかれ、今この村にあるのは、燃えくずしか残っていない。

 村長は自虐的に話を結んだ。


 人類にとっては悲しい話だ。

 だが、魔族と関わりある俺には少々複雑な思いがあった。

 人類を淘汰した魔族たちもまた、神々の侵攻にあって、懸命に戦っていたことを知っているからだ。


 種として生きるか死ぬかの戦争に人類は負け、一方で魔族は勝った。

 魔族としてのプライドを捨て、俺みたいな人間を召喚してでも、勝利を目指したのだ。

 そんな魔族たちが、悪いとも言い切れない。


 だからといって、この人たちがこのまま死んでいいことにはならない。


 それにな。

 俺はケモ耳も、エルフ耳も見たい!

 異世界に来て、まず初めに魔族と出会って、そのファンタジー感に興奮したけど、やっぱ獣人とエルフ、ドワーフは王道パターンだ。


 その種族のことを教えてもらうためにも、まずは目の前の人族を救わなきゃな。


「状況はわかったよ、村長」

「あの……。大魔王様、わしらは――――」

「大丈夫。とって食おうとか思っていない。むしろ助けてもらって感謝してるぐらいだから」

「あ、ありがとうございます」


 また平伏する。


 ははは……。

 なんか調子が狂うなあ。


 とりあえずまずは村の食糧事情だな。

 1度ブラムゴンに会って、相談するか。

 大魔王の俺の話なら聞いてもらえるだろうし。

 だが、まずは手っ取り早く食糧を確保しないと……。


『『ううううううううう~~』』


 すぐ近くからうなり声が聞こえた。

 振り返ると、2匹のデスジャッカルがこちらに牙を向けている。

 どうやら仲間の仇を討ちに、早くもやって来たらしい。


「ちょうど良かった」


 くるりと振り返る。


「大魔王様!」


 声をかけたのは、先ほどの子どもだった。


「大丈夫だ……」


 2匹でもなんの問題もない。


 【言霊ネイムド】――――大岩。


 先ほどの要領で俺は大岩を生成する。

 今度は全身を押しつぶすのではなく、デスジャッカルの頭だけを潰せるように岩の位置を調整した。

 これが辺り、うまくデスジャッカルの頭だけを潰す。

 当然、2匹のデスジャッカルは即死だ。


「すごい!」

「魔獣を全く相手にしていない!」

「さすが大魔王様だ」


 村人たちは感心しきりだ。

 俺として、あまり大したことはやっていないんだけどな。

 岩の自重で魔獣を押しつぶしているだけだし。


「大魔王様、そのお力は――――」

「【言霊ネイムド】のことかい」


 【言霊ネイムド】はマナストリアに召喚された際に得たスキルだ。

 名前をつけたものを、別のものに変換することができる。

 ただしなんでもって訳じゃない。

 まず無生物に限ること。さらに複雑な形状の物、加工された物は変換できない。


 小石を鉄の塊に変換はできるけど、鉄の剣には変えることはできない。

 車やミサイルと言った2つ以上の部品がついている機械なんかも不可能だ。

 あとは、自然現象だろうか。

 つまり火や風を起こしたりすることはできない。


 意外と制約が大きいスキルなのだ。


 けれど、【言霊ネイムド】にはもう1つ能力があるけどな。


「なあ、村の中で解体が得意な人はいるかい」

「兄者、兎の解体ならできるんじゃない?」

「ば、馬鹿! 余計なことをいうなよ」


 男の兄弟が言い合っている。


「悪いけど……。この魔獣を解体してくれないか。肉は食糧になるし、毛皮は防寒着になる。寒い日には暖かいぞ」

「肉……」

「肉を食べられるのか?」


 兄弟は目を輝かせる。

 魔獣といっても、その肉は貴重な蛋白源だ。

 牛や豚には劣るけど、何も食べないよりは遥かにいい。

 俺も魔王城にいる頃、よく食べてたものだ。


「ああ。これだけあれば、みんなで食べられるよ」


 というと、村人たちの顔が華やいだ。

 早速、魔獣の解体を始める。

 その横で、俺に感謝の言葉を告げる村人たちが続出した。


「食べる時はよく焼いた方がいい。あと、誰から海の方へいって、海水を汲んできてくれないか。塩を振れば、その臭味を抜けておいしく食べられるぞ」


 アドバイスを送る。

 早速、村の若い人間が海の方へと走っていった。


 家屋は寂れきり、子どもの悲鳴しか聞こえなかった村がにわかに騒がしくなる。

 その様子を見ながら、俺は「よし!」と拳を握った。

 もっとみんな絶望していると思っていた。

 けれど、ここにいる人たちはまだ生きたいと思っている。


 なら、俺のもつ1つの【言霊ネイムド】を使って、育成すればヽヽヽヽヽきっと村人も村も、きっと蘇るはずだ。


 その未来を感じて、俺は身震いする。

 あれ? そう言えば今思ったけど、この村には若い女がいない。

 じゃあ、俺を助けてくれたあの少女って一体……。


「なあ……。この村に黒い髪の――――――」


 質問した直後、村人の様子が一変する。

 俺の方を向いて固まっていた。

 いや、違う。

 村人たちは、背後を見ていたのだ。


 俺は振り返る。

 そこに立っていたのは、巨大なガマガエルのような姿をした魔族だった。

 柔らかな喉元を震わせ、その魔族はこう言って笑う。


「大魔王グランドブラッド様でいらっしゃいますね」

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