明るくカラッとした爽やかさのある、青春自殺ロードムービー

 唐突に「自殺に見えない自殺がしたい」という無理難題を吹っかけてくる親友に、不承不承ながらもその手伝いをする高校生の男子のお話。
  爽やかで前向きな日常系ライトミステリ、あるいは青春もののコメディ作品です。いわゆる「人が死なないミステリ」には違いないのですけれど、同時に結構しっかりしたドラマもあったりして、いろいろ詰まった贅沢な内容になっています。すんごい完成度。
 とっても面白かったというか、読んでいて「あれっ面白いじゃん?」ってなりました。いやこの言い方だとまるで面白くないのが前提のようにも見えてしまいますが、そうでなく。読んでいる最中の体感というか、思わぬところから予想外の面白さが来るんです。
 だって自分が読んでいるのは男子ふたりのちょっとおかしな掛け合いコメディのはずで、それがもうしっかり面白いんだからそれで完成しているはずで、だからこっちはそのつもりできっちり満足しているのに、でもあれっこのお話って〝そう〟でしたっけ? というような。実はミステリだったり実は現代ドラマだったりするところ。単品のハンバーガー頼んだはずがポテトとドリンクも付いていた状態。ぜいたく!
 いやもう、すごいです。出来がいいというか隙がないというか、仮にわざと粗や不満点を探そうとしても、たぶん何にも見つからないんじゃないか、という印象のお話。こうして言葉にすると簡単そうですけど、そうそうできることではないと思います。
 お話の筋はだいたい最初に述べた通りで、仲のいい高校生男子ふたりの物語です。より詳細には、顔はいいけど頭の残念な親友と、それを見つめる主人公のおかしな掛け合い。明るく楽しくコミカルなのはもとより、こいつらのこの関係性の、文章から伝わる手触りがとてもいい。
 本当に仲良いんだなこいつらっていうのが伝わってくるのと、あと本当に顔がいいんだな彼というのと、そしてそんな顔のいい男を思う主人公の心情がこう、全然ネトッとしない形でのびのび心地よく描かれていて、その自然な友情のありようが本当にたまりませんでした。
 あと単純に陽くん(顔のいい彼)の造形もいい。タグの「残念なイケメン」というのはきっと間違いではないのでしょうけれど、でもそのイメージとは少し軸の違う一面もあるというか、なんだか信頼できるところが最高でした。いやこんなのが身近にいたら充分憧れの対象ですよね、という、「残念なイケメン」タイプの人物には珍しい信用があって、なによりそれが主人公の視点(彼を見る目)によって生み出されている、というのも素敵。
 最高でした。言うことなしっていうのはきっとこういうことだと思います。本当に最初から最後まで、まっすぐ前向きな気持ちでただ楽しんだ作品でした。面白かったです!

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