第29話 勇者ヨシキ

 突然、木のカップが勇者ヨシキに向かって飛んで来た。


「いてぇ! 誰だこんな事しやがるのは?」



 真っ白いツンツン頭の髪と赤い目をした女性がいつの間にやらオレ達を庇うようにして立っていた。


広範囲回復魔法エリアヒール


 彼女の放った魔法により、オレ達の体力が完全に回復した。


「助かったニャ」


「アナタは?」


「おう、アタシはこの町の近くに住むジギーってんだ。たまたま通りかかっただけなんだが見過ごせなくて余計なことしちまったかな?」


「いえ、ありがとうございます」


「ホンマにありがとう!」


「うむ、これでもう一度戦えるな」


 ジギーさんとオレ達を囲むように勇者ヨシキ達がジリジリと距離を詰めてくる。


「弱い者イジメはそろそろ終わろうか」


「何だとお前オレが誰だか分かってんのか白いブス女」


「知るわけないだろお前がどこの馬鹿だかなんか」


「聞いて驚けオレ様はこの世界を救う為にこの地に召喚された最強の勇者ヨシキ様だぜ」



「ハア、お前が勇者だって? 随分と安っぽい勇者だね。なんだどっかの店で勇者のバーゲンセールでもやってんのか?」


「何だと、無礼な! 不敬罪で引っ捕らえるぞ」


「ヨシキ様、そのような無礼な亜人風情など斬り殺してよろしいですわよ。わたくしが許可いたしますわ!」


「嗚呼っ理解出来ないわ? どうして私達の様な聖教国貴族とこんなゴミみたいなホムンクルスのような生き物が同等の扱いだなんてこの国はなんて愚かで狂ってるの? ヨシキ様! 彼女にしっかりと身の程を教えて差し上げて」


「「そうだやれ~亜人には粛清を!」」


 勇者ヨシキは右手を引き左手でジギーの胸ぐらを掴んみ、剣を突きつけたその瞬間、勇者ヨシキの身体が空中を舞い地面に落ちた。


「背中いてぇ!」


「「きゃあ、ヨシキーっ!」」


 勇者ヨシキの取り巻きの1人、騎士風の女が前に出てサーベルで斬りかかって来た。


「この下郎がよくもわたくしのヨシキを!」


 だがジギーはそれをあっさりかわす、かわす、かわす……何度も


「何で、何で……当たらないの?

 うわああああ!」


 全力で斜めに振り抜いて来たがすでに背後に回り足をかけてそのまま手刀で首から落とした。


空気重圧魔法エアハンマー


 背後からもう1人の取り巻きの女が風魔法で攻撃して来たがすぐに体を反転し女の襟を掴みそのまま地面に落とした。


 勇者ヨシキは仲間が倒されたのを見てすぐに立ち上がった。


「てぇめえ!こんな事してタダですむと思うなよ俺のサリアとルナリアに怪我させやがって絶対に許さないぞ」


火炎弾魔法ファイアボール


 魔法士の女が魔法を唱えた。

 炎の球がジギーに向かって飛んで来たが彼女は体を転換しながらあっさりと炎の球を投げ返した。


「オイオイ馬鹿野郎!こんな街中で炎属性の魔法なんか使っちゃ危ねぇだろうが、ホラっ返すぞ」


「ウソ…きゃあああ勇者様助けて!」


 魔法士の女に炎の球があたり彼女の体が燃えだした。


水飛散魔法ウォータースプラッシュ


水投弾魔法ウォーターシュート


 回りの魔法士達が必死に消火したが魔法士の女はプスプスと黒焦げになってしまった。


「貴様あぁ、俺のルシアーネアまで……許さんぞ」


 勇者ヨシキは拳を強く握り始め、ジギーを睨む。


「俺は絶対にお前を倒す!

 正義と皆の為にお前を倒す!」


 剣を持った女の方も立ち上がりだし、


「そうよみんなの力を一つに」


「みんな! 俺にちからを貸してくれ!」


 勇者ヨシキの取り巻きの女供や騎士達が手をかざすと勇者ヨシキは光り輝き出した


「これが信じる者の力、愛の力だ。行くぞ」


「イヤ……それただの吸収ドレインだろ」


 ジギーはそのヨシキの姿を見て呆れ果てる。


 ヨシキと剣を持った女が同時に斬りかかって来たがその瞬間2人ともジギーに投げ飛ばされた。


「コレが勇者?ハァっ三流お笑い芸人の間違いだろ

 あとなぁっ お前らは自分達の価値観にもっと疑問を持った方がいいぞ」


 剣を持った女がジギーを指差して睨みつける。


「卑しいホムンクルスごときが………こんな亜人風情が偉大なる聖教国貴族の私達にこんな事………絶対あってはならない! アンタ絶対許さない!パパに言い付けてやる」


「あとそこの逃亡奴隷、今回は引くが次は必ず

 お前をつかまえてやるからな!」


 そう言い残して彼らはどこかへと去って行った。



「それで、お前らはこのあとはどこかへ行く予定とかあんの?」


「とりあえず冒険者ギルドへ行こうと思います。

そのあとは今晩泊まる宿を探そうかと……」



「だったらウチへ泊まりに来なよ。美味いご馳走も用意しておくからさあ!」


「おー、ええな楽しみやね♪ ほんならワイらも美味しい酒と魚なんか持って行くわ」


「いいねえ、楽しみにしてるよ」


「今晩が待ちきれないニャー♡」


「うむ、そうだな」


突然の申し出にとまどうオレをよそにヨッシーが

勝手に承諾した。


しかもなんか妙に打ち解けてるし……

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