第20話

 ええと、ウェリタス教、だっけ?

 それについて訊いた方が良いのかな……



 知らないと困る、よね……

 だってこっちでは知っていて当たり前の知識なんだろうし。

 うん、訊こう!


「あの、リアム、ウェリタス教って……?」


 リアムは目を丸くしてから肯く。


「そうか、知らないのは当たり前だろうな。どう言ったら良いか……」


 悩みだしたリアムに申し訳なくなった。

 兎に角何か言わなくちゃと口を開く。


「ご、ごめんなさい! あの……」


 リアムは苦笑して、言葉に詰まった私を見る。


「気にしなくて良い。当たり前すぎてどう説明するか悩んだだけだから大丈夫だ。スープが冷めない内に少し飲んだ方が良いな。その間に考えるから」


 そう言われ、ホッと息を吐き、手に持ったスープをゆっくり何度も噛んで飲み込んだ。

 ああ、美味しい!

 落ち着くし、お腹も温まる。



 視線を感じてリアムを見て、頬が熱を持った。


「あの、そう見詰められると、照れるのですが……」


 そう、リアムが優しい顔で見ていたのだ。

 こんな格好良い人にあんな温かな視線を向けられた事がないからだ。

 言い聞かせて、息を吐く。



 リアムはちょっと驚いた顔をしてから、また優しく笑った。


「すまない。幸せそうに食べるなと思ったものだから。ああ、それでウェリタス教についての説明だな。ウェリタス教の始まりは、もうそれこそ神話の世界だ。世界を創りたもうた主の血を引いていらっしゃる方を教主としている。教主は一般的に教皇と称し、神聖ウーヌス帝国の皇帝も兼ねていらっしゃる。だから神聖ウーヌス帝国の人間は特別視されるし、帝国人もそれ以外の人間を差別する傾向があるな。ここまでは良いか?」


 ええと、世界を創った主、つまり神様だよね、その神様の血を引いているのが教皇で、帝国の皇帝も兼ねている、と。

 だからだろうけど、ウーヌス帝国? の人は大事にされるけど、他の人を差別したりしちゃう訳か……



 あれ? それって帝国に行ったら私、困るんじゃ……


「ミウ? どうした?」


 私の顔色が変わったからだろう。

 リアムが心配そうに私を見る。


「あ、あの、帝国人以外を差別するなら、私が行っても迷惑をかけるんじゃ……」


 リアムは苦笑した。


「大丈夫だ。きちんとした帝国人の紹介があれば他国人でも平気だから。それでも多少の面倒事には遭うかもしれないが、私が何とかする。紹介した人間の顔に泥を塗るような行為をする人間は嫌われるからな。そう心配はいらないと思う。ミウは属性検査や神職の選定も受けていないし、帝都でしっかり調べてもらった方が良いとも思うしな」


 うわ、また知らない単語が出てきましたよ……

 本当に世界が違うと色々違うんだなあ。

 国が違うだけでも全然違うんだし、当たり前っていえば当たり前だよね。


「あの、属性検査って何ですか? それと神職の選定って?」


 疑問は兎に角聞かないと始まらない。

 知らないで知ったかぶりする方がよっぽど問題だ。

 自分で調べられたら調べたいけど、便利なネットは無いだろうしなあ……

 人に聞くしかないと思うんだ。

 本で調べようにも、どういう本で調べたら良いかから聞かなきゃいけないんだから、サクッと疑問は聞いた方が良いと思う。

 そこから本で調べたら良いんじゃないかなと。


「ああ、そうだな、先程の話の続きにもなるんだが、教会では、八歳になったら魔法の属性検査と、神職の才能があるかどうか調べる選定があるんだ。神職の才能がある人間が教会に勤める事になるし、その為の教育も受ける事になる。魔法も属性で色々違うから教育も違うしな。ウェリタス教の宗教施設は教会だ。そこに神父やシスターがいて、冠婚葬祭、属性検査に選定と色々生活の中心になっている。どんな小さな村にも教会はあるな。日曜は必ずミサが教会で朝にあって、それが終わってからが休日だ。こんな所だろうか……分からないことがあったらまた聞いていくれ」


 肯いて答える。


「ありがとう。大体分かりました。えっと、教会が本当に重要なんだね……ミサに出ないと、問題だったり……?」


 リアムは難しい顔になった。


「そうだな。かなり問題になる。兎にも角にもミサには出席を推奨するな。シビュラ大陸の人間でないのなら行った方が良い。彼等はその強さで文句を言われないだけだから、普通の人間には耐えられないだろう」


 成程と思ってから、首を傾げる。

 リアムは何かとんでもない事を言っていた様に思うんだけど、なんだっけ……?



 何かすごく大事な事の様に思ったんだけどな……

 そう、何か自然に、私の常識を破壊する様な事を当たり前の様に言っていたと思うんだけど……


 神父やシスターって言葉は何となく馴染みがあるから、それはまあ、大丈夫。

 仏教とは違うって分かったから。

 といっても私そんなに仏教に詳しいかって言われると、疑問符しかないんだけど……



 それで、リアムの言葉をもう一度じっくりゆっくり考えて……



「……――――あ! そうだ、魔法!」


 そうだよ、魔法!

 魔法の属性検査って言ってたんだから、魔法があるって事だよね。



 ――――私、使えるの……?

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