第18話

 取りあえず私はどうしたら良いのかな……

 難しく考えずに訊いてみますか。


「あの、ウィルに力が有るのは分かりました。それで、私はどうしたら良いんですか? 何かする事とか、しなくちゃいけない事とかありますか?」


 リアムは苦笑しつつ私を見る。


「特に無い。瞳を瞑っていれば済む話だ。今からウィルに力を使ってもらう。眼を閉じて静かにしていればすぐに終わる」


 成程と納得し、直ぐに目を閉じた私に、リアムが声を掛ける。


「少し眩しく感じるかもしれないが、大丈夫だ。光が収まったら眼を開けてくれ。それでもう言語に不自由する事は無いだろう」


 それを聞いてホッとしつつ、時を待つ。

 瞼の裏に焚火の光だろうものを感じつつ、静かにしていた。


「ウィル、頼む」


 リアムの落ち着いた澄んだ声が聞こえた。

 何か巨大なモノが動く気配を感じ、恐々と待つ。

 すると、この世界に来た時よりずっと暖かくて優しい光を感じる。

 それは一瞬の事で、直ぐに収まってしまう。



 もう、目を開けても良いのかな……?



 不安だからリアムに訊いてみる。

 まだ終わっていなくて目を開けた事で失敗とかは彼に申し訳ないから。


「リアム、もう眼を開けて良いですか?」


 彼の安心する優しい声がした。


「ああ。もう大丈夫だ」


 それで安堵の息を吐き、目を開ける。

 パチパチと瞼を開け閉めして、身体全体をスープを零さないようにしつつ確かめた。



 結果。

 特に何か変化が有る訳じゃなかった。

 痛くもないし、むず痒くも無い。

 本当にちょっと瞼が眩かっただけだ。



 あの、この世界に来た時に感じた、全身が焼けこげるんじゃないかと言わんばかりの眩さとは全然違う。


「どこか不調はあるか? 何か変わった所は?」


 リアムが心配そうに訊くものだから、安心して欲しくて笑顔で答えた。


「平気。どこも変じゃないです。あれだけで良いんですか?」


 そう、あの光をちょっと感じただけでもう言葉で不自由しないというのは不思議で仕方がない。


「そう、あれだけだ。ウィル、後は寝ても良いから」


 ウィルは最初に伏せの体制になった所に戻り、額の三つ目の瞳も閉じてしまい、どうやらリアムの言葉通り寝てしまう事にしたらしい。



 あ、忘れてた!

 そうだ、お礼、言わないと!


「リアム、ウィル、ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げてお礼を言うと、リアムは苦笑しつつ


「本当にきちんと躾けられているんだな。ちゃんとした家の子だと良く分かる」


 そんな事を言われてしまい、ちょっと戸惑う。



 家は普通だと思っていた。

 父は開業医だったけど、大病院って訳じゃなくて、地元密着型の入院施設も無い小さな個人病院経営だ。

 代々そうで、身内も医者関連ばっかりだけど、それが普通だったから違和感も無かったしなあ……



 同じ学校に通う人はもう凄い人達ばかりだったし、家は普通という認識だ。

 幼稚園から小学校まではエスカレーターだけど、中等部からは女子高になってしまう学校の為、途中から学校が変わるのも代々そこに通うのも私の身内では当たり前だった。

 それで中等部から聖東学園に通うのも男女ともに決まりだったし……



 妹のほうが優秀だったから、家を継ぐのは妹かとも言われていたけど、特に不満は無かった。

 向き不向きって絶対あると思うから。

 私は血とか凄く苦手だし、だから医者に向かないと言われればそうなんだし。

 精神科医ってガラでもないし、内科医になるにしても実習とか絶対無理だよ、うん。



 それに親が医者だといっても特に医療知識がある訳じゃないから……

 お父さんは色々教えてくれていたりしたけど、そういうのを熱心に聞いていたのは妹で、私じゃない。

 応急手当も私はチンプンカンプンで、さっぱりだ。



 そこで、リアムを見てみる。

 リアムの服装は、ファンタジー映画に出てきそうな出で立ちで、ローブって言ったかな、アレを纏っていて、皮のブーツが見える。

 旅慣れている感じはするけれど、服は清潔そうで綺麗だし、きちんとした人に見えた。



 そんなリアムから見て私はちゃんとした家の子に見えるらしい。



 こちらの世界が良く分かっていないから、どういう感じなのかはさっぱりだけど、考えてみれば日本の教育水準って元居た世界でも良い方だったと思う。

 だって先進国だ。

 治安も良かったし、福祉関係も最低では無かったと思うんだよね……



 そんな国の、普通の家の子な訳だから、良く見えるって事なのかな……



 きっとそういうことなんだろうと納得し、リアムの言葉を受け入れようと思う。

 だけど、注釈を入れたいと思ったから言葉にする。


「あの、私は普通の家の子です。特別な訳じゃないです。本当に普通なんです」


 うん、私的には普通だと思って生活してきた。

 別段おかしな事もなかったし、いじめにあった訳でも無くて、平平凡凡だと思っている。

 ――――容姿も普通だしね……


「そうなのか? ならミウの居た国は教育水準の高い国だったんだな。それがこちらに来たというのは、おそらく大変だろう。人間は人間として教育されなければ獣と一緒だ。そういう連中には注意した方が良い」


 リアムの真剣な忠告に、思わず不安なってしまうのを抑えきれず、スープ皿を落としそうになってしまった。

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