第31話

 周防は瑞貴の意見を聴いた後、無精髭の生えた顎を摩りながら大きくため息を吐いた。

 瑞貴の意見に全面的に賛成ではある。

 ただ問題もあるのだ。


「だとして、どうやる? 俺としては死の穢れも気になってるんだよな。死体を完全消去したとしても穢れは残る。コレは此処でも変わらないと思うんだよ。殺しをしない事にはゲームクリアとはいかない。だが殺す事で穢れは溜まる。後々それを主催者に利用されるんじゃないかとも思ってる訳だ」


 それに瑞貴は何でもない事の様に案を出す。

 彼女が居てくれてよかったと思いながら。

 あの持ちは本当にこういう状況では必須なのだ。


「俺なら完全消去も可能です。斧研先輩も出来ますし、すぐにでも終わらせて塔の攻略に出たいですね。時間的にもう始まっています。最後に攻略した場合のペナルティーには危険以外感じません。それと穢れは心配ありませんよ。適任者がいます」


 聖羅へと視線を向けた瑞貴に、瞳を瞬かせたけれどすぐさま彼女は肯いた。


「浄化は任せて下さい。死の穢れの浄化は一族の中でも得手としていましたから」


 実際は、生贄に選ばれるレベルで浄化能力も一族一の聖羅だ。

 本家の瑠那以外では劣る相手はいない。


「仁礼。他に穢れの探知機能もあったはずだ。使えそうか?」


 瑞貴の言葉に瞠目してしまった聖羅だったが、瑠那の側にいたのだからと納得し肯いた。

 これを使えるのは一族でも限られた者のみ。

 部外者が知っているとは思わなかったのだ。

 この力は秘儀の一つとされていたから。

 中でも聖羅は浄化が得手であることから、一族でも特にこの力の適性が高かった。


「確かにあります。今使ってみた方が良いですか?」


 瑞貴がチラリと死体の全てへと軽く視線を向けた直後、死体が跡形もなく消失した。

 血や汚れ一つなく、まるで最初からソコに何も無かったかのように。


「先ずは浄化を頼む。これだけ死んでいると何が呼び寄せられるか分からん」


 聖羅は静かに肯き、死体のあった場所だけではなくこの空間自体に知覚を広げる。

 閉じられた空間であるからこそ、やはり聖羅の予想通りこの空間自体が汚染されていた。

 この程度は特に疲労も感じずに実行できると目算し、すぐさま浄化を実行する。


 温かな白い光が空間全てを一瞬で包んで瞬時に消えた。


「流石だな。助かった。続けて申し訳ないが穢れを調べてもらえるか?」


 生き残った全員が空気が清浄になった事が分かるほどに澱みが消えている。

 誰かが死ぬ前からどうやらこの空間は汚染されていたらしい。


「なあ、丹羽。この空間、最初っから汚染されていたのか?」


 斧研が戦々恐々と口にすると、瑞貴は片方の眉を上げて肯いた。


「そうだな。仁礼が居て助かった。さもなければ知らず知らずに汚染が染み込んでいただろう」


 風早はげんなりとうずくまる。


「ここのは仲間に出来ないのかなー。仲間欲しい……人間は良いからそれ以外欲しい……でもそれ以外って元人なのかな……元々人じゃないのプリーズ!」


 瑞貴は面倒そうに風早を見る。


「意外といるかもしれん。その階層のボスクラスは狙い目かもな。元人かどうか見極めて教えようか?」


 風早の顔が輝いた。

 彼には瑞貴の後ろに後光が見える。


「ありがとうー! やったー!! 流石丹羽!!!」


 叫んでいる風早にサクッと肯いてから聖羅へと視線を向ける。


「仁礼、どうだ?」


 聖羅は自らの脳内に展開されている状態に首を傾げる。

 基本的に穢れには頼まれなければ近づかない。

 だから皆避けているのかとも思ったのだ。

 だが、普通の人が穢れに敏感かと言われるとそうではないのも知っている。

 何らかの能力持ちでさえ穢れに無頓着な存在も多いのだ。


「あの、一つとても大きな穢れている存在がいます。それに劣るけれど十分穢れている存在は一つ目と反対の場所にいるんですけれど、そこへ向かって複数の穢れたおそらく人でしょうけれど、それが向かっていますね。とても大きな穢れの前にも十分穢れた存在がいて、その存在は複数の人達が向かっているのより微妙に多く穢れている、と思います。他にも複数で動いている穢れた人達が散見されますが、一つとても大きな穢れの所には誰も向ってはいません」


 聖羅の話を聞いた瞬間、斧研が声を上げる。


「大きな穢れってボスだろ! ただ隠されてるっぽいね。門番的なのもいるみたいだし間違いないって。さてどうしたもんだろ」


 真宮も肯き口を開く。


「全員で行くか? ここを手薄にする訳にもいかない。かといってボスに向かう人員も厳選しなければ。強敵であれば弱い者が足手まといにもなるだろうし……といって置いて行ってまた襲撃される可能性も無いとは……」


 苦悩している真宮に、軽い調子で鬼ケ原が声をかける。


「そいつは俺に任せろ。どうせだ、全員で行くのをおススメしとく」


 瑞貴と斧研、神崎以外が目を見開く中、鬼ケ原は親指を立てて豪快に笑顔を見せた。

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