第34話 5−12

「Y1、ターゲットワン。ロスト」

 第一会議室でオペレータオートマタの報告を聞くなり、猫山美也子は座っていた椅子から立ち上がった。頭の中は真っ白になった。しばらく会議室の壁の優人と<カミーラ>が爆発した後の空が映し出された主画面を見つめ、それから一言、

「嘘、でしょ……?」

 と絞り出すように叫んだ。

 そして何度か瞬きした後、もう一度画面を見て、

「ねえ、死ぬわけ無いでしょ、こんなことで優人が! 死ぬわけないじゃない! そうでしょ、ねえそうでしょ!? ねえ! ねえ!」

 そう叫びながら周りに問いた。応えるものは誰もいなかった。誰もが黙っているのを見るともう一度椅子に座り込み机に突っ伏すと、

「うっ、ううっ……!!」

 大声で泣き始めた。

どれくらい泣いていただろうか。彼女の肩を、叩くものがいた。

「うっ、うっ……!」

 彼女が泣いていると、もう一度肩を叩かれた。

自分は今悲しいのに。人が死んだのよ!?

そう不快に思い、

「何よ!?」

 肩で手を持ち上げるように動かし、その手を振り払った。

 その時だった。以外な。しかし聞き慣れた声が頭の上から飛んできた。

「何だつれないなあ。幼馴染がこうやって慰めてやってんのに」

 彼の声に、美也子の頭はもう一度真っ白になった。

 死んだはずのあいつの声が聞こえる。

 体を慌てて起こし、ふっと振り返ると、

「ばっかだなあ。俺が死ぬわけ無いじゃん」

 須賀優人が、満面の笑みで彼女のそばに立っていた。

 美也子は驚愕した顔でがたん、と音を立てて立ち上がると、なにか言おうとして口を動かした。しかし口をぱくぱくさせるだけで、なかなか言葉が出ない。

 彼女はなんとかようやくのことで、

「ね、ねえ、なんで生きてんの!?」

 そう問いを絞り出した。

 優人はけらけらと笑いながら、美也子に説明し始めた。ご丁寧にホログラム画像つきである。

「あー、外で出撃したほうね。あれ、ユイリーの<クラフトビルダー>とここのラボの自動工場で作った、俺の予備のボディ端末なんだわ。それをネットから操っていたというわけ。いやー、こんなこともあろうかと作っておいたのが役に立ったわー。あ、<カミーラ>のほうね。人格OSや超技術データなどまるごと俺のギアスペースにコピーしたからご安心を。公言通りあいつを助けてやったからな。なー、俺ってすごいだろ? だろ?」

「……あたしの涙を返せえええええええええええええええええ!!!!」

 美也子は激怒のあまり優人の顔面を拳骨で殴った。

 優人は勢いよく吹き飛ばされ、そのまま床に落ちた。

 それでもすぐに立ち上がりながら、

「なんだよお前、人が無事生還し……」

「あたしの気持ちがわかってたまるかよおおお!!!!」

 文句を言おうとした優人に向かってみぞおちに一発食らわせた。

「お、お前な……」

 腹を抱えてくの字に折れ曲がった優人にぷいと背を向けて、

「もう、知らないっ!!!!」

 美也子はぷすっとした顔で腕を組んだ。

 その瞬間、第一会議室にいたものは全員爆笑した。


 優人に背を向けながら、美也子も、小さく舌を出して微笑った。


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