第27話 5−5

「あー、ケツの肉が取れるかと思った……」

 振動する狭い降下用コンテナの中、手で尻の美肉を掻きながらアヤネはぼやいた。

「ふっふーん、あんた人間大砲嫌いなのねー。今度マスターに申請してアレ購入してもらおう」

 そういう下卑た笑い声がスピーカーから響いてくる。

「アンナ、あんたねえ……!」

 アヤネがアンナと言うオートマタになにか言おうとした瞬間、

「降下地点に到着! 各自展開用意!」

 別のガールズギアの声が飛んできた。

「了解っ」

「りょかーい」

 アンナとアヤネの、他のガールズギアからも応答が続く。

 降下を続けていた黒色のオートマタ降下用コンテナは、下部に収められていた着陸用ギアが足を伸ばし始めると、中央にある着陸用ロケットエンジンが猛烈な勢いで噴射し始めた。

 と同時に、上部から飛行ドローンが切り離され、周囲の警戒を始める。

 ランディングギアが道路にしっかりと足を下ろすと、コンテナに割れ目が生まれ、外側へと開いていく。

中から武装したガールズギアが一体出てきて、銃を構えながら外へと降り立つ。

 そのような黒いコンテナがいくつも道路上に降り立ち、内部から同様にガールズギアが降り立つ。そして各自支援できる距離で展開する。

 そこは首都内の、シノシェア日本本社にほど近いとある駅前だった。いくつかの路線の視点になっているここは、いつでも人通りの多い華やかな街であった。しかし。

 今や駅前周囲は大混乱を極めていた。人間やまだハッキングされてないオートマタたちの大集団が彼女の目の前から後方へと一斉に走っていく。それは激流にも似ていた。

「ゾンビだー!!」

「逃げろー!!」

 悲鳴に近い声を上げながら走って行くものもいる。中にはその様子をスマホやカメラなどで撮影していきながら避難していくものもいるが、それを咎めるものはいない。

「こちらガンマリーダー、現場へ到着。送れ」

「こちらダンジョンマスター。ガンマリーダー了解。ターゲットはそちらに向かって侵攻中。直ちに迎撃せよ。交戦規定はなし。オールウェポンズフリーだ。すぐに予備の武器弾薬コンテナなども到着する。存分に暴れてこい。送れ」

「こちらガンマリーダー。了解。滅茶苦茶にしてくる。終わり」

 リーダーのガールズギアがそう通信を送るやいなや、遠くのビルとビルの間からぬっ、といくつもの不気味な影が現れた。その影は人間の形をしていたが手をだらんとぶら下げ背は曲がり、顔も常人のものではない奇妙な表情をしている。

「カミーラちゃん、あんなに操れるなんてね。彼女、マスターが言ってたように特殊機でしょうね」言いながらアヤネは長ものの銃を構えた。「さて、いっちょ暴れますか」

「目標はドローンからの各個配分に従え。兵装は長期戦に備え弾薬よりレーザーを主に使用せよ。……さて、諸君始めるぞ」

 隊長機がまるで運動を始めるような口調でそう言うと、各ガールズギアの視覚映像にTDボックスとシーカー・ダイヤモンドが表示され、戦術ドローンから送信された目標配分に従って、それらが目標のゾンビオートマタに重なる。シーカー音が甲高くなる。

 物理的なものではないのになぜか心臓の鼓動が早くなったようにアヤネは思えた。

 その「鼓動」が最も高くなった時、隊長機が叫んだ。

「撃ち方はじめ!」

 その命令に従って彼女らは電子的なトリガーを引き、一斉にゾンビの群れに向かって斉射した。


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