第3話 小さな幸せを運びます

「ここが、僕のお店。どうぞ」


 街中にある彼のお店は小さいけれど小洒落ていて、落ち着く素敵な所だった。看板には『Porter Bonheur〜小さな幸せを運びます〜』と書いてある。店内には花が至る所にあって、ラッピングをする為のリボンや包装紙が壁一面に綺麗に整頓されてあった。


「ここはお花屋さん、なのかしら?」


「八割正解かな。ただ、普通の花屋とは違って直接、依頼主の元に赴き話を聞く。そして花言葉を使って、彼らの心に秘めた想いを伝えるべき人に伝える仕事なんだ。そんな仕事をしている辺鄙なお店はここぐらいだけどね」


 なんて言って彼は笑った。なんだか、とっても素敵な仕事だ。私の花に対する苦手意識も少しは減るだろうか。そんな微かな期待を胸に、私は彼の後について行った。


「じゃあ、仕事内容から覚えようか」


 彼はそう言って、中央の机に置いてあったメモ用紙を私に渡した。そこには大まかな流れが整った文字で書いてあった。


「始めに、依頼の受付から。さっき言ったところと重複する所もあるけれど、しっかり聞いてね。まずは、依頼があった人の所に直接伺って話を聞くんだ。その人が何を願っているのか、気持ちを理解して汲み取ることが大切だよ。それで、その人の想いを込めた花束を僕達が心を込めて作る。ここでは、花言葉に関連して作成するからそこの知識も必要なんだ。その後は、依頼人が自身で花束を渡す方法と、僕達が代理で渡すという二つの方法がある。これは、その人の意思によって変わってくるんだ。どちらにしろ、相手に気持ちが伝わったら成功だ。素敵な笑顔を見られたらとっても達成感を感じるだろうね」


 なんて要点を掴んで彼は話した。花で誰かを幸せにする。花が嫌いな私がそんなことをしていて、良いのだろうか。


「お前なんかに花を向けるやつなんていないだろ」


 ふとそんな言葉が脳裏を過ぎった。目の前が一瞬にして暗くなり、胸がギュッと閉まるような感覚に陥る。彼は私の異変に気づき、慌てて私を支える。


「そんな仕事、私になんて出来ないよ・・・・・・」


 思わず、私の口からこんな弱気な言葉が零れてしまう。しかし彼は優しく私の髪を撫でてこう言った。


「始めから諦めていたら駄目だ。まずはやってみなくちゃね?」


 説明は午前の内に終わり、支給された制服を着て午後一番の依頼に私はついて行くことにした。隣町の外れにある女性からの依頼だ。庭には色とりどりの花が咲き誇っていて、隅々まで手入れが行き届いていた。


「こんにちは」


 彼は入口で出迎えてくれた女性に爽やかな挨拶をする。ハーフアップの髪型で優しげな雰囲気の女性だった。新米の私にも彼女は嫌な顔一つせず笑顔で挨拶をし、歓迎してくれた。私達はそのままリビングに案内され、席に着いた。


「早速ですが、依頼の内容をお伺いしても宜しいですか?」


「ええ、実は――」


 そう言って女性は話し始めたのだった。

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