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「欄悠……どういうこと? まさか、あなたも……」


 戸惑う紅華の顔が、次第に青ざめていく。


「どうもこうも」


 欄悠は、紅華から離れるとため息混じりに笑った。



「せっかく君と結婚して蔡家の財産を好きに使えるようになると思ったのに、相手が皇帝じゃ、他の求婚者たちにやったみたいな妨害もできやしない。あーあ。恋愛ゴッコもこれで終わりだ。君に取り入るためにかけた金も時間も、全部無駄になったよ」


 愛し合っていると信じて疑わなかった恋人の豹変に、紅華は声も出せずに立ちすくむ。


「だいたい、後宮には俺の姉が淑妃として入っていること、知ってるだろ? 俺が後宮と面倒起こすと、姉の立場も悪くなるって考えなかったかよ。今後はもう、一切俺と関わらないでくれ」


 それだけ言うと、さっさと紅華に背を向けた。



「あ、そうだ」


 だが、数歩歩いて、呆然とする紅華のもとに戻ってくる。


「欄悠、やっぱり……」


 ぱ、と紅華は笑顔になる。


 きっと今までの言動は、欄悠の冗談だったのだ。悪い冗談だが、謝ってくれたのならしかたないと許してあげよう。



 けれど欄悠は、表情も変えずに、紅華の頭にあったかんざしを抜き取った。結っていた髪がふわりとほどける。


「これ、返してもらうね。君を釣るためならと思って奮発したのに、結局無駄になっちまった。せめてこれだけでも返してもらうよ」


 そして今度こそ、振り向かずに去っていく。



 突然のことに頭が真っ白になっていた紅華には、たった一つだけわかったことがあった。


 彼だけは違うと信じていた。他の婚約者のように、家の財産目当てではないと。紅華だから愛してくれていると。


 それがすべて、計算された嘘だったと、紅華は悲しくも悟ったのだ。



「……っの、大嘘つき!」


 気が付いた時には、紅華は自分に向けられた広い背中に飛び蹴りをくらわせていた。


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