第13話 人類滅亡まで、あと363日

 「「 「「 「お~」 」」 」」

 「旦那様、天使様をお子としてお授かりになるとは、御喜び申し上げます」


 「では、天使様はわたくしの妹ですね」「これっ、クララ」

 「奥様、そうせざるを得ません。近隣きんりん者共ものどもは、お嬢様しか見ていないのです」


 「でもナイトハルト、それでは突然とつぜん過ぎませんか」

 「そこなのです奥様、姉としても、妹としても、突然とつぜん過ぎるのです」


 「・・・じゃぁ、いっその事、クララ嬢様と一緒に生まれた事にしては」

 「エルンストっ、お前って本当に馬鹿な子だねっ」「いや、待て」「旦那様」


 「双子と言う事にしよう。だが世間の目をはばかって、妹の方を人目に触れない所で育てていたが、理由わけあって呼び戻した。どうだっナイトハルトっ」


 「旦那様っ、御明察ごめいさつで御座います。双子なれば背格好せかっこうが似通っていても可笑おかしく御座いません。又、必ずしも瓜二うりふたつにお育ちになるとは限りません」


 「出来でかしたしたっ、エルンストっ」「有難う御座いやす、旦那様」

 「天使様、如何いかがでしょう」


 ぴょこ。「私はマールエル、どうかしたしく、マールとお呼び下さい、お父様」

 「ヴォルフ、私達の娘ですよ」


 「そ、そうだな。それでは、私の事はお父様、いやいや、マール、パパと、パパと呼んでおくれっ」

 「マール、パパの所へ行ってあげて」ぴょこん!「はいっす」たた。すった。


 ぴょこん!「パパっ」

 「おー、私の娘っ、神よっ、素晴らしい子をお授け頂い事を感謝しますっ」


 「う~~~」たた。すった。

 「おぉぉぉ、クララ」「わたくしもお父、パパの娘ですっ」


 「あぁ~そうだ、そうだとも、私は掛け替えのない、二人の娘を授かった。この幸福を下さった神々にどの様に感謝すれば良いのか」

 「よろしゅう御座いました」



 「そうかぁ~、マール、お母さんとお父さんが出来たのか。でも天界のお母さんとお父さんはいいのか」

 ぴょこ。「…いないっす」「マール、おらんらしかと」


 「…そっか、悪かった」

 ぴょこん!「大丈夫っす、この時だけは、私を愛してくれた、優しいパパとママがちゃんといたっす」


 「私がパパとママを分けて上げたと」

 ぴょこん!「うん、有難うっす」「よかっ、私、お姉ちゃんやけんっ」

 肩が重いよ。両側から頭、乗せるなよ。



 「でもお名前はどうするんです。人は天使様や聖人様、ご先祖のお名前を付けますが、そもそも天使様ですし」

 「あ~そう~だな、エルンストの言う通りだ」


 「旦那様、お悩みなさる事は無いかと、いずれは天へと帰られるお方です」

 「そうだ。…マール、マールは天使様だ。人の名を与える事は出来ない。だからこの地を守護して欲しい」


 ぴょこん!「えっ、…そ、そうっすね」

 「そうかぁ、ならばこの世におどまる間、私達の一族の名であり、この地の名であるファミリーネーム、ヨランカ・ピュージンゲンを名乗って欲しい」

 ぴょこん!「分かりました。私がこの世におどまる間、私はマールエル・ヨランカ・ピュージンゲンと名乗りましょう」


 「よろしゅう御座いました。旦那様」

 「そうだっ、ナイトハルト、私達とこの地を守護して下さる天使様の礼拝堂をこの部屋の隣に造ろう」


 「では、私達も守護して下さるのですかっ」

 ぴょこん!!!「へっ、あはぁはぁはぁ~、う~~~ん、分かりました。でも私の力は大天使様の様に強くはありませんから、今ここにつどう人々を守護いたしましょう」


 「「 「「 「有難う御座います天使様っ」 」」 」」

 ぴょこ。「マールで良いっすよ。みんなそう呼ぶっす」



 「クララだけのはずが、めっちゃ増えてるな」

 ぴょこん!「あの雰囲気で断る事なんて、出来ないっす」

 「でも、パパもママもみ~んなも大喜びじゃったっ」


 「良かったな、何か綺麗きれいにまとまってるぞ」

 「良くはなかと、この時はみんな、マールに気を取られとったと」

 ぴょこ。「そうっす。クララは呪い、私は天使っす、月日が過ぎても変わらないっす」



 「旦那様、近隣きんりんの者の中に、罰当ばちあたりにも、お嬢様方の事で、良からぬうわさを流すやからがおります」

 「ああナイトハルト、私の耳にも入っている。これがクララの呪い」


 「マールお嬢様は天使様であられます。あれから数年が過ぎましたが、とても神々こうごうしい、あの時のお姿のままで御座います」

 「このままでは、魔女にされてしまう」


 「旦那様、うわさを流しているやからは、火にべる魔女を探し回っているのです」

 「マールは天使様であり、この地を守護している事を知らせてはどうか」


 「…なりませんっ、あの者達は強欲な者達ばかり、教会の地位が欲しいだけなのです。証明せよと火にべるでしょう」

 「マールの光の壁なら」


 「不浄ふじょうほのおなどに負ける事など決してありますまい、しかしそう成りますと、お嬢様達をらえ、教皇きょうこう献上けんじょうするに違いありません」

 「そんな事に成ったら、二人がどんな目に合わさられるか」



 「なっ、何でそんなはなしになるんだよ」

 「ただ神を信じるだけではなかと、政治的な力を持つ様になったとよ」

 ぴょこ。「そうっす。神の教えはじ曲げられ、彼等の都合の良い解釈かいしゃくに置き換えられたっす」


 「神様は何も言わないのか」

 ぴょこ。「あはははぁ~、神様はあきれて沈黙し、大天使様達は激おこっす」


 「大丈夫なのか」「全然大丈夫じゃなかと」

 ぴょこん!「既に七つの封印はかれ、ラッパが幾つも鳴らされたっす、残るは世界に終末しゅうまつもたらすラッパのみっす」


 「そのラッパが吹かれたらどうなるんだよ」

 「厄災やくさいが次々とはなたれ、人類はほろぶと」

 ぴょこん!「この第7のラッパの吹き手と言うのが、ラッパ大好きで、すきあらば吹き鳴らそうとするっす。この前もあぶなかったっすっ。くわえているところを見つけて、息を吹き込む寸前で取りおさえたっすっ」


 「えーーーっ、そうじゃったとぉ~、恐ろしかぁ~」

 「持たせるなよっ。しかしそれだと明日にでもほろびそうだな」

 ぴょこ。「人類滅亡まで、あと363日っすっ」「えーーーっ、一年なかとぉー」

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