第4話 これって修羅場では?

 「そろそろ着くぞ、クロン起きろ」


 俺は背中で寝ているクロンに対して、体を揺らして起きるように促した。


 「んん……あと五分だけ寝かして頂戴、リーゼ」


 「俺は、リーゼじゃないし、あと五分も寝させねーよ。早く起きろ、クロン」


 背中でぐっすりと寝ているクロンを見ると、リーゼさん? も毎日苦労してんだろうなと思った。


 「おーい! アールトー!」


 俺が、クロンの寝顔を見ていると前の方から、聞きなれた声がしてきた。ゆっくりと前へ振り向くと、今朝送っていった場所で手を振り、向かってきているラディアの姿があった。


 「これは、まずいな」


 考えろ俺、どうすればラディアにこの状態を誤解されずにこの場を乗り切れる? さっき偶々、拾ったんだよね、では納得しないだろ。というか、 知らない子を拾うほうが怪しいだろ。実は生き別れの妹ですって言うか? 駄目だ、あいつとは昔からの縁だ、すぐにばれる。くそ、いっそこいつをここで捨てるか? 幸い向こうからはこいつのことは見えてないだろ、駄目だ、降ろしている間に近づかれて、少女を置き去りにする最低な野郎という印象がついてしまう。くそ! どうすれば……。


 「ねぇねぇ、アルト後ろの女の子って誰?」


 「っは! ラ、ラディアいつの間にこっちまで来たのか?」


 俺は考え事していて、ラディアが至近距離に来るまで気づかず、驚いて変な声を出してしまった。


 「ねぇ、アルト後ろの女の子って誰なのかな?」


 駄目だ、目が、目に光が入ってない! これは、やばい早急に対処しなくては! 


 「こ、この子は、仕事中に偶々会った、女の子で決してそういう関係ではないっていうか、その、ほんとに知らない子なんだ!」


 「ふーん?」


 駄目だ、完全に信用してない! とりあえず、こいつが起きる前に俺の家に移動しよう、考えるのはそれからだ!


 「と、とりあえずもう暗いし、早く家に帰ろうラディア!」


 「んん、何よ、うるさいわね、アルト」


 こいつ、最悪のタイミングで目を覚ましやがった。お前ふざけんなよ! さっきまで完全に寝てたじゃん! そのまま寝とけよ!


 「その子は、アルトのこと知ってるみたいだけど、どういうことなのかな?」


 「ちょっと、なんなのこの女、さっきからすごい視線飛ばしてくるんですけど」


 「た、頼む、俺のことは知らない体で話してくれ!」


 クロンは、俺の必死の表情を見た後、ふっと笑い、任せてと言った。そして俺から降りると、俺の横に立ち、腕を絡ませてきた。


 「は!?」


 「ええ!?」


「どうも! 私、アルトの彼女のクロンって言います! どこのどなたか知りませんが、これから、私たちアルトの家に行く予定なの! だから、そこをどいてもらえませんか?」


 「ラ、ラディア、これはちがくてだな、その……」


 俺の言葉はラディアによって遮られた。


 「へぇ、あなたアルトの彼女なんですか、でもアルトにその気はないみたいですよ? それに、アルトはあなたのような胸も背も小さい人はあまり好きじゃないんですよ?」


 「な!? なんですって! ちょっとアルトこの女、本当にむかつくんですけど!」


 ラディアのことをクロンは睨みながら、俺に話しかけてきた。


 「あらあら、私は本当のことを言っただけですよ? それに、どうせアルトの弱みを握っているんでしょう?」


 「ま、まぁ、ラディアもそれくらいにしなよ、確かに嘘をついたクロンも悪いけど、流石に言い過ぎだよ」


 「そ、そうね、確かに言いすぎちゃったかも。ごめんね、クロンさん。ところでアルト、この子は誰なの?」


 「それについては、家に帰ったら話すよ」


 俺はラディアにそう言いながら、二人に俺の家に行くように促した。


 「さてと、とりあえず先に村長のところに例の件伝えに行くか」


 俺は、ラディアとクロンがまた喧嘩をしていなかと不安に思いながらも、村長の住む家へと歩き出した。

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