第7話 メイド情報

 普段は決して御手洗会長に逆らわない副会長の片桐先輩だが、ごねた。そりぁそうか。


「あんまりです。これでは僕が我がままで身勝手で情けない小心者では、ありませんか」


 パチパチパチその通り。まさしく、そういう人物を想定して書いたのだ。


「片桐。あなたは異世界召喚とかに詳しくないから不満に思うかもしれないけれど、これは外せないテンプレなの」


 御手洗会長。たぶんその説明では片桐先輩は、納得しないと思います。


「これは、あなたにしか出来ないのよ。それとも私にやれとでも言うの?」


 勇者カタギリには、シナリオを半分にする事でなんとか了解してもらった。その際、どのシナリオを削除するかは、おまかせだ。生真面目な人だから、やると言ったらやるだろう。


 行方不明になるか、追放される具体的なシチュエーションは訓練が始まってから検討することになった。


「では、また明日」


 二人は来た時と同様、音を立てずにスルリと出ていった。


 俺はベットのクッションを確かめるように横になった。


「さて、職業未定を見てみるか!」


 ステータスを開くつもりだったが、思った以上に疲れていたのだと思う。


     *     *


 気づくと朝、メイドのマリヤさんに起こされた。寝落ちしたようだ。


 朝食は部屋に、お膳が運ばれてきた。お膳である。なんと、ご飯とみそ汁それから焼魚と海苔。


 旅館か! と、突っ込めそうなメニューだ。


 俺とすれば、ここは硬くて食べられない黒パンと野菜くずの薄い塩スープ。食べ終わった後に、あぁこれはパンをスープにつけて食べるんだった……というのをやりたかったが。まあ、美味しく頂きました。


 マリヤさんに聞いたら、異世界からの召喚は、かなり昔から行われていて、日本の風習が根付いているそうだ。


 日本の風習だけですか?!


 別皿の調味料には醤油やマヨネーズまである。そういうのは、もう済んでいるということだ。


「この後、バーンハイム子爵様からのお話がございます」


「うん、何時から?」


「10時からと伺っております」


「えっ?! 今、6時過ぎだよね」


「はい」


 マリヤさんは、にっこり笑って返事した。バーンハイム子爵の都合だそうだ。貴族とはそんなものだということなのだろう。


 このマリヤさん、俺の職業未定と低ステータスのことを聞いたらしい。昨日の緊張はどこへやらだ。馬鹿にした態度を隠そうともしない。言葉遣いは丁寧だったが、いわゆる慇懃無礼というやつだ。


 昨日の可愛げなんぞ微塵もありぁしねぇ。


 もちろん、お付き合いを申し込まれたら即座に、お受けしますが何か?


 聞けば、俺のステータスは一般人と比較しても相当低いらしい。


 レベルアップしても期待出来ないと、騎士達が話しているのを聞いたそうだ。メイド間では、周知とか。


 マリヤさんが出て行った後、俺は呪詛のように繰り返す。


「成り上がり、パターン。成り上がり、パターン!」

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