第4話――眼鏡の聖戦士現る? 4

「大丈夫ですか? オレが来たからにはもう大丈夫。コンタク党の好きにはさせません!」

 銀縁眼鏡の奥の瞳が柔らかな光をにじませる。ましろは自分の心臓が胸の中で跳ねるのを感じていた。

(……あの人だっ!)

 入学式で、ただ一人生徒会長にたてついた、勇気ある男子生徒。その人がいま、ましろを守るために立ちはだかっている。

「さて、コンタク党ども、この『眼鏡に選ばれし者』である松原晋太郎が相手になってやる! どこからでもかかってうぼぁー!!」

 格好いいセリフを吐いていた晋太郎が、一瞬にして覆面姿の生徒たちにフクロにされる。ましろは呆然とそれを見ているしかなかった。やがて、覆面姿の生徒たちの蹴りが止まり、ボロボロになった晋太郎が姿を現した……はずだった。だが不思議なことに、制服も眼鏡もまったく破損していない。

「フフフ、なかなかやるじゃないか。だが、お前らの横暴もここまでうぼぁー!!」

 再び覆面生徒たちの攻撃が始まる。晋太郎は何とか起き上がり反撃しつつ、ましろの方へ向かって何かを放り投げてきた。放物線を描いてましろの手に落ちてきたそれは、ワインレッドの眼鏡ケースだった。両手で受け取ったましろに、晋太郎の声が飛ぶ。

「君の眼鏡を、そのケースにいれてボタンを押すんだ! 早く!」

「えええっ? はは、はいっ!」

 ましろは言われたとおり、眼鏡ケースを開くと、自分のかけていた眼鏡を外し、その中に納めた。ケースの表には小さなボタンがついている。

「ぬっ!? い、いかんッ!! 戦闘員A! その眼鏡ケースを奪え、早くッ!!」

「コンターック!」

 だが、覆面生徒(戦闘員A)の手が届く前に、ましろはケースのボタンを押していた。

 突然、眩い光がましろの身体を包み込んだ。全身になにか暖かな、そしてとても大きな力が漲っていく。

(これは、この力は一体なに?)

「いま君は身体の中に溢れる新たな力を感じているだろう? それこそが『眼鏡に選ばれし者』……、メガネンジャーの力。君は君の持つ本当の力に目覚めたんだ!」

 ましろが閉じていた目を開く。顔にはたった今ケースにしまったはずの、ワインレッドの眼鏡が装着されていた。それだけではない。服装が、変わっていた。

 一見すると学園の制服のように見えるが、上着やスカートの丈はギリギリまで短くなり、やたらと肌の露出が多くなっている。かわいらしいおへそも丸出しだ。手には指の出る革の手袋と肘ガードが、脚にはいつの間にかオーバーニーソックスと膝ガードがついている。

「なにこれ! なんで私、こんな恥ずかしい格好してるのっ!?」

 思わず自分の身体を抱きすくめるようにするましろと、その際どいスカートからいけない布地を覗き見ようとする覆面戦闘員たち。戦闘員たちの目は、興奮で血走って真っ赤だ。

「ええい! 貴様ら、よこしまな事に神聖なるコンタクトレンズを使うな!」

「コンターック! 確かに白と水色の横縞でした!」

「やかましい! 粛清してやる!」

「コンタ~~~~ック~~~~~~っ!」

 黒マントの少年が戦闘員の一人を思いきり蹴り飛ばす。肩で息をしていた少年は、きっとましろの方を向き直ると、さっきまでの慌てようが嘘のように、冷たい雰囲気でましろの眼鏡の奥の瞳をにらみ据えた。

「ふん……。塚本ましろ……。自らの持つ真の力に目覚めてしまったか。そうなると、我々としても対抗手段を講じなくてはならんな。今日のところは挨拶だけにしておこう。だが、次はないと思え!」

 そこまで言うと、少年はマントを翻し昇降口の中へと去っていった。側らに黙って立っていた少女もその後を追う。気づけば、戦闘員たちも居なくなっていた。

 ましろは、戦闘員に蹴られて顔だけボロボロになっていた晋太郎のところに駆け寄ると、ポケットからハンカチを出して唇の血を拭った。

「うっ!」

「ご、ごめんなさいっ! 痛かったですかっ?」

「いや、大丈夫だよ。それより、君が無事に力に目覚めてくれてよかった」

 顔は腫れ、唇は切れて血が出ているのに、何故かまったく曲がりも壊れもしていない眼鏡の奥で、晋太郎の目が微笑んでいる。そのワイルドなのに優しげな光に、ましろの鼓動は高鳴りっぱなしだった。それと同時に大きな疑問もあったのをましろは思い出していた。

「そ、そうですっ! 私の本当の力って、『眼鏡に選ばれし者』って、『メガネンジャー』って一体何なんですか!」

「言葉の通り、全能なる『眼鏡の神』に選ばれし戦士のことだよ」

 ましろは、ぽかーんと口を半開きにしたまま、晋太郎の言葉を聞いている。

「君は、眼鏡の神が認めたこの学園の眼鏡っ娘を守る戦士の一人なんだ。もう一人は、このオレというわけ」

「ででで、でも、ななな、なんで私なんですか! それにこの微妙に露出度の高い衣装はなんなんですかっ!」

「ああ、それは眼鏡の神様の好みなんだ。君が選ばれたのも、君の衣装のデザインも」

「も、もとの制服に戻してください!」

 すると晋太郎は「そんなことか」と肩をすくめた。

「『グラスチェィンジ』って言いながら、眼鏡を外してごらん」

「……グラスチェィンジ」

 一瞬眩い光がましろを包んだかとおもうと、ましろの服はまっさらの仁正学園の制服に変わっていた。

「あ、眼鏡の戦士の力が使いたい時は、眼鏡を一回外してから『グラスチェィンジ』って言ってかけ直してね」

「は、はぁ……」

 こうして、塚本ましろは学園の眼鏡っ娘を守る正義のヒロインに、半ば無理やり任命されてしまったのだった。

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