第12話――フリフリロリータはハンマーがお好き? 4

 数体の『生ゴミ』を処理し終えた後、ましろと郁乃、それに晋太郎の三人は、その変身を解いた。

「「「グラスチェィンジ!」」」

 閃光とともに、ましろと郁乃は仁正学園の女子の制服に、晋太郎も見た目は変わらないが男子の制服へと、一瞬で衣装替えを終える。

「さて、晋太郎ちゃん、ボクにはキミに聞きたいことが山ほどあるんだけど、答えてくれるよね?」

 郁乃はパールピンクの眼鏡の奥から、晋太郎の瞳をじっと見つめて言った。その瞳には『嘘は一切許さない』という強い想いが込められている。晋太郎もその気持ちはよく分かっているのだろう。

「嘘は言わないし、冗談で誤魔化す気もない。だから、どんなに荒唐無稽な話をオレがしたとしても、それは真実だと信じてほしい。いいかな」

「うん。晋太郎ちゃんはバカだし、頼りになりそうでならない優柔不断男だけど、それでも嘘だけはつかないからね。ボクは信じるよ」

 中庭に設けられた花壇の縁に腰掛け、晋太郎はゆっくりと語りはじめた。

「半年くらい前の話だ。オレの夢の中に、眼鏡の神が現れた。神は言われた。あらゆる眼鏡を愛しなさいと。この話、何度かしたよな?」

 郁乃は晋太郎の横顔を見たままコクリと頷いた。

「何度も何度も聞いたよ。冗談か、はたまた晋太郎ちゃんが壊れたか。そのどっちかだと思ってたけどね」

「夢の中で眼鏡の神と話すうちに、こう言われたんだ。『お前は眼鏡に選ばれし者。邪悪を払う三人の仲間を集め、眼鏡をないがしろにする者たちから、眼鏡を愛する少女たちを守れ。それぞれの仲間は、《新生と転生の力》、《創造と破壊の力》、《慈愛と癒しの力》を持った戦士である』と」

 そこまで話すと、晋太郎はましろと郁乃に、すこし自嘲するような微笑みを向けた。

「冗談みたいだろ? あるいは郁乃の言うとおりオレの頭がどうかしてるか。でも、翌朝起きたオレには、不思議な力が備わっていた。邪悪を感じる能力と、変身する能力。そして、眼鏡の想いを感じる力だ。君たちのその力も、眼鏡に選ばれし者の力なんだ」

「ちょっと待って。『邪悪を払う三人の仲間』って言ったよね。それはボクら以外にもう一人『眼鏡に選ばれし者』がいる、っていうこと?」

 郁乃の問いに、晋太郎は黙って頷いた。

「じゃあ、早くその仲間を見つけて、力を解放しなきゃいけないんじゃないの? 眼鏡が教えてくれるんだよね、その仲間の存在も」

 郁乃が心太郎に問いかける。仲間がいるなら、早く見つけなくてはならない。ましろや郁乃が晋太郎に救われたように。

「ああ。でも、普通にしているだけじゃ分からないんだ。さっきの郁乃みたいに、コンタク党の連中に襲われたり、その身に危機が迫らない限り……」

「ということは、どうしても私たちは後手に回らざるを得ないっていうことですね」

「ああ、そういう事になる」

 晋太郎はこくりと頷いた。

 ましろの思った通りだった。つまり、コンタク党の魔の手から一般の眼鏡っ娘たちを守りながら、同時に仲間を捜さなければならないのだ。

「考えても仕方ないよ。ボクたちは自分に出来ることしか出来ない。それにさ、よくゲームなんかでもあるじゃない。仲間は必然的に出会うように出来てるものだよ。気楽にいくのが一番さ!」

 郁乃がにぱっと、まるで向日葵の花のように笑った。その笑顔を見て、晋太郎もようやく心から笑えたようだ。

「ところで、ましろちゃんやボクのあの衣装、一体誰の趣味なんだい?」

 郁乃が意地の悪そうな笑みを浮かべて晋太郎に問う。

「ああ、それは……眼鏡の神様の趣味だよ。男の服には興味無いみたいでね。オレだけ制服のデザインのまま、ってわけさ」

「ふむふむ。ましろちゃんはパンツ見えそうな超ミニスカに、オーバーニーソックス。ボクはフリルふりふりのかっわいーワンピに、でっかいハンマーか。ランドセルにはちょっと納得いかないけど、なんていうか、いい趣味してるね、眼鏡の神様」

「っていうか、セクハラですっ!」

 ましろは顔をまっ赤にして主張する。あの衣装を着ることで、どれだけ恥ずかしい思いをしているかを『セクハラ』の一言に託して。

「そう? ボクは気に入ったな、あの衣装」

「郁乃さんはまだいいですっ! 私なんか、あの格好で、戦い方は素手で殴る蹴るなんですよ! ……もうお嫁に行けません!」

 がっくりと肩を落とすましろ。郁乃はそれを見て、ポンポンとましろの背中を叩いた。

「大丈夫だよ。きっとそういう需要も世の中にはあるから」

「慰めになってません!」

 まだクラブ説明会の終わっていない人気のない中庭で、ましろは心の底から絶叫した。


      ***


「『眼鏡に選ばれし者』の力があれほどのものとは……。そして、奴らにまた新たな仲間が加わってしまった」

 放課後の生徒会室、会長の道明寺由隆は悩んでいた。

「仕方ありません。彼らがあれほど野蛮な手段で我々に対抗してくるとは、私にも予想外でした。会長の責任ではありません」

 自分たちが一人の女の子を寄ってたかって追いかけ回したことは、どうやら忘却の彼方に消え去っているらしい。

 ショートカットのクールな女生徒、石橋いしばし百合香ゆりかの言葉に首を振ると、由隆は机の上に置いてある液晶モニタをのぞき込んだ。そこには『眼鏡に選ばれし者』の有力候補者のデータが表示されている。

「奴らは、眼鏡を通して互いの心を通じ合わせる事も出来るようだ。手間取ってはすぐに奴らが駆けつけてしまう。何とかして、何とかして奴らが来る前に、ターゲットから眼鏡を外させ、コンタクトを着けさせなければならない」

「次からは、より迅速に行動することとしましょう。ところで、次のターゲットはお決まりですか?」

「うむ。少々手強い相手だが、『眼鏡に選ばれし者』である可能性が極めて高い生徒だ。戦闘員の補充が済み次第、直ちに作戦にかかる」

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