第10話――フリフリロリータはハンマーがお好き? 2

「これは……、眼鏡が私を導いてくれるの!?」

 ましろは眼鏡がまるで意志をもっているかのように、自分の進むべき道を指し示していることに驚かされた。

「松原先輩は、眼鏡っ娘が襲われてるって言ってた。ということは、戦うんだよね。……変身しなきゃ。ううっ、またあの恥ずかしい格好するのぉ?」

 泣きたい気分で、ましろは両手で眼鏡を一旦顔から外した。

「……グラスチェィンジ!」

 一瞬のうちに制服から超ミニスカートのへそ出しバトルコスチュームに変身したましろは、眼鏡の示す方向へさらに走り続けた。

「もしかして、あの子?」

 ほとんど小学生といっても通じそうなほど小さな女の子が、黒覆面の集団を引き連れて走っている。よく見れば、どこかで見たことがある少女だった。

「ま、まちなさいっ! こんな小さな女の子を寄ってたかって……、あなたたちは恥ずかしいとは思わないのっ?」

「そんな超がつくほど恥ずかしい、ミニスカヘソ出しコスプレ姿の君に言われてもな……」

 黒マントの少年がぼそりと呟く。走って上気していたましろの顔が、羞恥でさらにまっ赤に染まった。

「あのー……。キミはボクを助けに来てくれたんだよね?」

「は、はいっ! すぐにもう一人、仲間が来るはずですっ!」

 郁乃はそれを聞くと、右手をすっと顔の高さまで挙げた。ましろもつられて同じように右手を挙げる。すると、ぽんっと右手同士が打ち合わされた。

「じゃあ、そいつら全員キミにあげるから、ボクはこれでっ!」

「ええええええええええええええっ???」

「いつまで漫才をしていれば気が済むんだ、君たちは!」

 黒マントの少年が業を煮やしたといった風に声を荒げた。見れば、いつの間にか覆面の男子生徒たちに周囲をすっかり囲まれている。

「もう! キミがすぐにボクを放してくれないから、こうなったんだゾ!」

「そ、そんなこと言われましても……」

「とりあえずだ! 今日我々が用があるのは、池田郁乃、君なのだ。さあ、大人しくこのコンタクトレンズをつけるのだ!」

 周囲を取り囲んでいる覆面の男子生徒(戦闘員)が、両手をわきわきさせながら、じわじわとその包囲網を狭めてくる。そして、戦闘員が一斉に掴みかかろうとしたその時。

「そうはさせない! このオレがいる限り!」

 風のように走ってきた晋太郎が、颯爽とましろたちの前に現れた。

(ああっ! やっぱり松原先輩がきてくれましたっ!)

 ましろがピンチの時には必ず晋太郎が現れる。

 ましろにとって晋太郎は、とんでもない面倒ごとをもたらした張本人であると同時に、いつでも必ず助けにやって来るヒーローでもあるのだ。

「学園戦隊、メガネンジャー参上! ましろさん、上手く時間稼ぎをしてくれてありがとう。オレが来たからにはもうだいじょうぼぁー!!」

 ましろたちを取り囲んでいた戦闘員が、総出で晋太郎に襲いかかっていた。

「まったく、懲りない人だな。君は大して強くもないのだという自覚を持った方が良くはないかね?」

 晋太郎を料理し終えた戦闘員たちは、再びましろたちを取り囲む体勢に入った。だが、晋太郎はしぶとかった。どのくらいしぶといかというと、『ゴ』のつく嫌われ者の昆虫くらいの生命力があった。叩かれても踏まれても、死んだと思っても実は生きている。

 さらにその生命力は強化服で増強されているのだ。晋太郎は素早く立ち上がると、郁乃に向けてパールピンクの眼鏡ケースを投げていた。

「郁乃! お前のその眼鏡を、ケースに入れてボタンを押すんだ!」

「なっ! あれだけボコられておいて平気で立ち上がるとは! いかん、その眼鏡ケースを奪え!!」

「「「「「コンタ――――ックっ!」」」」」

 一斉に郁乃に飛びかかった覆面の戦闘員たちは、互いの頭を強打して地面にのたうち回った。ただでさえ小さい郁乃が、さらにしゃがみ込んだからだ。

「「「「「うう……コンターック……」」」」」

「これにボクの眼鏡を入れて……このボタンを押すんだね?」

「あああっ! またしてもっ!」

 閃光と一瞬の静寂の後、郁乃はパールピンクのフリルたっぷりのワンピースに、大きなつばのリボン付きの帽子、足にはいちごのワンポイント付きのソックスに赤い靴という衣装に変身していた。背中には何故か赤いランドセルまで背負っている。

 手には何やら巨大なハンマーが握られている。その大きさは明らかに郁乃の身長を超えていた。細い柄にはまるで不釣り合いな、大きな和太鼓のようなハンマー本体がついている。

 その、とてつもなく重いであろうハンマーを、郁乃は軽々と片手で持ち上げ、ひょいと肩に担いだ。もの凄くミスマッチでシュールな光景だ。だが、ましろは一瞬あっけにとられた後、別のことに思い至った。

「あーっ! 私よりずっと恥ずかしくない格好ですっ!」

 ましろは当然の不満を口にする。なぜ自分はこんなに露出度が高い衣装なのに、郁乃は少女趣味全開とはいえ、普通の場でも着られるようなワンピースなのか。ランドセル背負って凶悪なハンマーを持ってはいるけれど。

 どうやら眼鏡の神様は、衣装の選び方には一家言あるものとみえる。ましろのスレンダーだがしっかりと育った肉感的なボディには、見る者の視線をどこに集中させるかをしっかりと計算し、可愛らしいおへそやら、すらりと伸びた太ももやらを絶妙な感じで露出させている。

 それがましろにとってセクハラ以外の何物でもないのは、言うまでも無いことなのだが、それは全能なる眼鏡の神の為すことであるから、すべては許されるのである。

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