第13話 修行

「おりゃあ!」


「甘い」


「ほげぇ!」


手にした氷の剣――命名アイスソードでカティに切りかかる。

だがそれは容易く躱され、足を払われてすっ転んでしまった。


こっちは素人だと言うのに、全く酷い女もいたものだ。

彼女は手加減という物を知らないのだろうか?


「声に出てるわよ」


勿論態とだ。

アピールすれば、次から優しく指導して貰えるんじゃないかという下心をふんだんに込めて。


「それも聞こえてるわよ」


自分に嘘を吐けないと言うのも困った物だ。

まあ俺は神に選ばれた男だからな、清廉なのも仕方がない。


「清廉な人間は、下心で他人をコントロールしようとはしないわよ」


……都合の悪い分は無視するとしよう。


「……」


いかん、これも声に出ていた様だ。

……ま、いっか。


実は今、カティに訓練を付けて貰っていた。

幾ら万能の焼き肉のタレが使えるとはいえ、所詮は一介のイケメンでしかない。

これから先、冒険者としてやっていくにはある程度体も動かせないと駄目だと思い、カティに訓練を頼んだのだ。


ピクミンに頼むと滅茶苦茶されそうだから。


「取り敢えず、武器が長すぎるわ。素人のあんたに長剣なんて無理なんだから、ショートソードか短剣位の長さにしなさい」


むう……俺の愛剣、アイスソードさんにケチをつけてこようとは。

まあ一々言うまでもないと思うが、この剣は焼き肉のタレで出来ている。

凍らしたタレを剣状にしたのがこのアイスソード(タレ)だ。


これで切りつけると、相手の傷口にタレの成分がしみ込んで激痛を……等という効果は勿論ない。

切れ味も別に鋭い訳でもなく、更に凍っていて冷たいので素手で持つと凍傷になってしまう。

その為、今の俺は分厚い手袋の上からこれを握っていた。


「って!只の欠陥品じゃねーか!」


勢いよく剣を地面に叩きつける。

アイスソードとかかっこよくね?という思いから現実から目を逸らしてはいたが、完全にゴミです。

本当にありがとうございました。


「これを使いなさい」


カティは自分の手にしていた短剣――にしては少々長い気もする――を俺に投げて寄越す。

俺は手にした短剣を、激辛デスソースのタレ塗れにする。

この短剣で傷つけられた物は、たとえ小さな掠り傷でも激痛に苛まれる事にな――っふぼぉっ!?


「人の短剣なにべとべとにしてんだ!」


「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!!目が!!めがぁ!!!!」


カティに思いっきり蹴り飛ばされてしまった。

不意打ちの蹴りは事態は大した事無い。

問題はその勢いで飛んだタレ(激辛)が、俺の目に入ってしまった事だ。


「ほげぇぇぇぇぇぇ」


目が焼け付く様に痛い。

というか熱い。

これがデスナイフの持つ無限の可能性。

俺はとんでもない武器を生み出してしまったのかもしれない。


ってそんな事はどうでもいい!


イタイイタイイタイ!

アツイアツイアツイ!


神様ヘルプ!


そうだ!俺には神から授かったタレがある!

甘くて冷たいタレで中和だ! 


「ぎゃあああっす!」


「あんた何やってんの!?」


アイス状のタレを目にすり込んだら、今度は「キーン」と目の奥が凍り付きそうな痛みに襲われてしまう。

結局、その日は一日中目がひりひりして訓練にならなかった。


結論。

目を大事に。

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