4-02

「《世界連結》――《透明世界眼ナクト・スルー・アイズ》――!」


 ナクトの発動した能力は、大気、即ち〝風〟を己の視覚と連結し、全てを透かす眼とする能力――変に紳士なところのあるナクトは、普段は使わないが、今は緊急事態。

 エクリシアの状況を確認すべく、漆黒の重装だけを透かして見ると――!


「な。……なん、だと……?」


 ナクトにしては珍しい、大きな狼狽――それも、当然。

 漆黒の重装の下、エクリシアが、着ていた服――いや、それは、服ではない。


 ――もはや紐同然の危ないを飛び越した水着で、ギリッギリ大事な部分を隠しているものの食い込みまくっており、〝装備〟とかそういう次元の問題でさえない。


 重装を隔てた向こう側で――突然の一人羞恥プレイが始まっていたのだ――!


 エクリシアの鎧の下が見えているのは、もちろんナクトだけ。

 だからこそ、ナクトは彼女に、聞かずにはいられなかった。


「――どうしてそうなっているんだエクリシア!?」

「フシュウウウ……ガン、バリィ……!(な、ナクトさんに、わたし……少しでも、近づきたくて……が、が……がんばり、ましたっ……!)」

「いや分からない。俺はそんな恰好をしたコトはないし……俺がするのを自分で想像したら、何やら辛いし……でもエクリシアは、似合うな……って何を言っているんだ俺は」


「ガッ、恥ッ……死スベシ……!(で、でも、やっぱり……恥ずかしくて、死んじゃいそうですっ……た、助けてくださいぃぃぃ……)」

「じゃあ何で……何でこんなコトをしてしまったんだ……!?」


 和やかなお散歩だったはずなのに、いつの間にか修羅場だ。そこそこ物騒な単語が飛び出しているせいで、周囲のざわめきも大きくなっているし。


 とにかく、せめてこの場を離れねば、とナクトがエクリシアの手を引こうとすると。

 ぽすっ……いや鎧なので、どすっ……とエクリシアが寄りかかってきて。


「ナ、グ、ド……オォォォン……!(ナクト、さぁん……ナクト……さあぁん……♥)」

(―――なんだこれ―――)


 傍目には、漆黒の騎士に威圧され、今にも襲われそうに見えているかもしれない。

 けれど、ナクトの耳に聞こえ、眼に映るのは――甘やかな声音で囁いてくる、儚い雰囲気を醸しつつ危険すぎる紐水着を装備した、絶世の美少女――!


 ナクトの思考の死角から、襲い来る不測の一撃。この感覚には、覚えがある。そう、かつて《神々の死境》で喰らった、超強力な一発。


 半裸で迫ってきたレナリアだ――!(伝説の魔物とかはどうでもいい)


 過去の経験則により、ナクトは倒れる前に、足を踏みしめる事ができた。

 そしてそのまま、よりかかってくるエクリシア(重装)を――両腕に抱える!


「ナッ。ナン、ダト……!?(なっ。ななっ、なにを……!?)」

「―――エクリシア」

「!」


 お姫様抱っこしたエクリシア(重装)に、ナクトは凛々しい視線を向けた後、空を見上げながら真剣な声を発して。


「イザ……ユカン!(いくぞ……しっかり掴まっていろ!)」

「……了……!(……はいっ……♪)」


 その場にいる誰一人、目視する事も叶わぬ、一瞬の内に。

《剛地不動将》と、謎のマントの男は、消え去ってしまったのだった。

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