異世界で最強の装備は、全裸でした ~装備至上の世界で、俺だけの最強装備《世界》を全裸だと勘違いした美少女たちが、服とコンプレックスを脱ぎ捨て迫ってくる~

初美陽一

第一章 偽りの希望たる《姫騎士》、真なる《最強全裸》と邂逅す

1‐01

 プロローグ



〝最強の装備〟とは、一体、何だろうか?


 例えば、眼前の敵を討ち屠る、強力な武器。

 天地を斬り裂く、無双の宝剣。

 視界に入る総てを貫く、究極の剛槍。

 森羅万象、遍く物質を打ち砕く、破壊神の斧。


 或いは、どんな攻撃も寄せ付けぬ、頑強な防具。

 巨人の一撃さえ受け止める、剛健なる鎧。

 竜の炎ですらも無効化する、至宝たる盾。

 如何なる事象をも跳ね返す、神々の法衣。


 若しくは、それぞれの属性を極めた、神秘の宝具。

 存在するもの皆、悉く灰燼と化す、燃え盛る炎の魔杖。

 時に守護する清流の如く、時に荒れ狂う濁流の如し、水を支配せし法器。

 自由自在に飛び回り、触れるものを気まぐれに切り裂く、吹き荒れる風の鉤爪。

 動かざるは山の如く、一たび動けば破壊の権化、大地を制する武神の兜。


 光の神器――解き放たれし閃光は、遥か彼方まで消滅させる。

 闇の魔具――何もかも、何もかも、全て呑み込む、闇黒の力。


 ――いいや、違う。それでもまだ、最強には至らない。

 最強、それは始原にして至高、一をして全たらしめる、唯一無二の装備。



 真の最強――〝最強の装備〟、それは――!




 第一章 偽りの希望たる《姫騎士》、真なる《最強全裸》と邂逅す



 青年の名は、ナクト。姓はない、ただの〝ナクト〟だ。

 物心つく前から、恐らく生まれた頃から、彼はずっと一人だった。、およそ十八年、〝この地〟で過ごし続けている。

 ただ、ナクトの住む〝この地〟は、あまりにも――尋常とは、かけ離れていて。


『――Grrrrr……』


 地の底から響くような唸り声を発するのは、ナクトを見下ろす巨大生物……いや、果たしてそれを〝生物〟と表して、良いのだろうか。

 天を覆わんばかりの巨躯、大木のように太い手足。牙は全てを磨り潰す大槌、爪は全てを斬り裂く刃、表皮を隙間なく覆うのは――人類が失伝して久しい、強靭なる金属。

《ダマスカス・ゴーレム》――遥か昔、対敵した重装兵の大隊が、鎧など無きが如く引き裂かれ、傷一つ与えられず全滅してしまった、そんな伝説を体現する怪物だ。

 その規格外の化け物を前に、ただ一人の青年に、成す術などなく。


『Grr……Wooow……!』

「……マズイな」


 唸り声を漏らすゴーレムを見上げ、ナクトがそう呟くのも、当然。陽光を遮るほど深く生い茂る樹海の中で、巨大樹を背にし、逃げる事も叶わない。

 しかもこの強大な化け物を前に、大きなマントを羽織っているナクトの手には、武器の一つもないのだ。

 いや、仮に武器を持っていたとして、それが何になるというのか。

 今まさに襲い来る、この圧倒的強者を討ち倒すには。


『GuuuOooooooN!!』


 それこそ――〝最強の装備〟でもなければ、不可能――!


「風よ、吹き荒れろ」

『ぐ、ぐおーん!?』


 ……ナクトが片手を振り上げると、其処にだけ嵐が吹き荒れ、烈風がゴーレムの巨体を周囲の樹々ごと軽々と吹き飛ばしてしまった。

 先程の威容はどこへやら、ゴーレムは『ごれむっ、ごれむーっ』と叫びながら逃げ去っていく。それ、ゴーレム的な鳴き声なの?

〝マズイ〟とは、一体何だったのか……いやいや、あれほどの力を発揮したのだ。

 きっとナクトも、それ相応の代償を支払って――!


「アレは、マズイ……ゴーレムは硬くて、食えるトコがないからな」


 味の問題、それだけだったらしい。


 ナクトは今まで、ここで――人類不可侵とされる〝危険領域〟で、サバイバル生活を送ってきた。先程のような規格外の怪物に襲われる事も、日常茶飯事である。

 大した出来事でもない。何の変化もない、いつもの日常だ――と、踵を返したナクトが住処へ帰還しようとした、その時。


『――……きゃ、ああっ……あっ……!』

「……ん? 今の声は……」


 この〝危険領域〟でのサバイバル生活で五感が研ぎ澄まされているのか。まるで《世界》と一体化しているかの如く、獣でも怪物でもない声を、ナクトは正確に捉えた。


 間違いない、今のは人間の――女性の悲鳴だ。


 けれど、この樹海は深く、あまりにも広大。先程のような怪物が当たり前に跋扈する場所で、たとえ位置が分かったとて、助けに間に合うはずもない。

 残念だが、諦めるしかないだろう。それこそが、人類不可侵とされる〝危険領域〟における絶対の掟、弱肉強食、自然の摂理で――!


「よし、飛んでいくか。――《神渡りの風ゴッド・ウインド》」


 ……巻き起こった旋風が、ふわり、ナクトの体を浮かせた直後、一瞬で姿が消える。


 そう、この〝風を自在に操る能力〟こそ、この〝危険領域〟において、今までナクトが無事でいられた理由――……


 ………なのだろうか?

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