40.しゃべるたぬき

 ゼクウ王国崩壊からポンタ共和国成立まで半年ほどの出来事だった。

 もっともそれなりに治安が安定して、混乱も収まったのはあと半年必要だった。


 俺はその間もちょくちょく家には帰っていた。

 菜月の妊娠が気になっていたからだ。

 特に異常はなく、すくすくと成長しているようだ。


 イザベルさんも日本で検診を受けているし母子手帳も作ってもらえたらしい。

 ポンタもすくすく成長しており、最近は何かとよくしゃべるようになった。

 俺やじいちゃん、親父、源蔵さんが冬も近くなって囲炉裏端で酒を飲んでるとポン吉ポン子を伴って一緒に囲炉裏端に来る。

 目当ては酒のあてと、やっぱりあったかいところが好きなようだ。

 タオルケットはいつも置いてあるので、胡坐をかいてる俺たちの膝に潜り込んでうつらうつらするのが好きなようだ。

 風邪ひくといけないから寝たかなと思ったらベッドに連れて行こうとするのだが、すぐに目を覚まして、イヤイヤする。

 仕方がないので、タオルケットや毛布を掛けて一緒にいるのだが、そこまであったかいと今度は俺の方も居眠りしそうになる。

 寝言でよくとうちゃ、かあちゃといっている。

 どんな夢を見ているのだろう。いつも楽しそうだ。


 ポン吉、ポン子は源蔵さんが酔ったときに面白がっておちょこで酒を飲ましてやったら気に入ったらしく、囲炉裏端に誰かいたら必ず寄ってくるようになった。

 俺はそんな状況を見てふと気まぐれにポンタとポン吉に翻訳魔法をかけてやると、何やらおいしいおいしいと言い出した。


 翻訳魔法は言葉を翻訳するのではなく、頭で考えていることが伝わりやすくなる魔法だ。

 なので動物の考えていることがわからないかなとやってみると成功したのだ。


 これはみんなが驚いた。


 俺はポン子とポン吉の首輪に翻訳魔法が常に発動するように魔道具化して、つけてやった。

 元々ポンタを守っていたのもあったし、俺たちが言うことを理解している節があったが、やはり相当頭がいいようだ。

 最近ではよくポンタとポン吉とポン子が話しているのを目にする。

 ポン子とポン吉はどうやら自分たちはポンタのお兄ちゃん、お姉ちゃんの気でいるようだ。

 ポンタが危ないことをしようとすると、先回りして止めていたり、泣きそうなときはなだめたりしていた。洋子さんがそれを見てしきりにスケッチしていた。

 また新作ができるのかもしれない。


 そんなある日朝峰神社の宮司さんが尋ねて見えた。

「友朗さん。先日言っておりました朝峰神社への訪問はいつごろ来ていただけますでしょうか。」

「ああ、そうでしたね。放っておいたようで申し訳ないです。近頃メライトの方で戦争が続いていて、バタバタと忙しかったもので。」

「いえいえ。それは存じておりました。そんな忙しい中で来訪をせかすのはなかなか心苦しいのですが、実は神社の地下の宝物庫の扉が日に日に光って見えるようになっているのです。」

「え?そういえば宮司さんも気の鍛錬をされてましたよね。つまり、何らかの魔力がその宝物庫にあるということなんでしょう。わかりました。明日にもいかせていただきます。」

 と約束し、宮司には帰ってもらった。

 俺はじいちゃんにも相談し、翌日じいちゃんと由美もついていくことになった。


 翌日、俺はじいちゃんたちと源蔵さんたちを伴い朝峰神社に行こうとしていた。

 そこに母さんやばあちゃんたちも行くと言い出した。

 それならと朝峰家と星野家両家で参ることにした。


 朝峰神社では宮司さんをはじめとして数人の巫女装束の若い女性たちが出迎えてくれた。

 まず本殿で全員がお払いしてもらい、家族の無病息災を祈願してもらった。


 そのあと、俺とじいちゃんがまず宮司の案内で、神社の地下にある宝物庫に案内された。

 俺は神社に到着した時から感じていた魔力が、確かにこの宝物庫を中心に出ていることを感じていた。じいちゃんも同じように感じていたようだ。

 宮司は宝物庫のカギを差し入れ扉を開いた。

 しかし、鍵は開錠したのだが、扉は引いても押しても開くことはなかった。

 長い年月でさびているのかもしれんと宮司さんは言いだしたが、俺はふと思いつき光の祠と同じようにゆっくりと魔力を扉に注いでいった。

 すると、光の祠と同様、中に転移できたのだ。

 そして内側から扉を開くと宮司とじいちゃんがそこにいた。

 変則的な扉の仕組みだが、一度中に魔力を持ったものが入らないと開かない仕組みになっていたのだ。

 そして改めてLEDライトをつけて、宝物庫の中を照らした。

 俺の予想通り、ここには様々な文献と共にあの(・・)鏡があった。

 そう、転移の鏡だ。

 ここにある鏡は丸いもので直径は1mほどのものだった。

 実はこの丸い鏡を見たのは初めてではなかった。

 俺は是空王国の宝物殿の中身をすべて収容し、そのほかにも王城にあるものを片っ端からマジックバッグに収容していた時に同じ鏡がある部屋を見つけていたのだ。


 そう、おそらくはゼクウ本人がそれを使って日本へ帰ったであろう鏡だ。

 問題はなぜその鏡がここ朝峰神社に奉納されているかということだ。

 その謎を解くカギはここにある文献が教えてくれるのだろう。

 俺は宮司の許可を取り、宝物庫にあるものをすべて新品のマジックバッグに収容していった。

 宝物庫の中は魔力に満たされていて、宝物庫自体も魔道具だと感じていた。

 その証拠に中にあったものは1,000年は経っていただろうに、全然劣化した形跡が見れなかったからだ。


 俺たちは本堂に戻り、朝峰神社の宝物庫にあったものを一つずつ置いていった。

 そして最後に丸い鏡を取り出し、本来ならゼクウ王国にあった丸い鏡も俺の腕時計から取り出した。

「こっちの鏡はゼクウ王国にあったものです。ゼクウが日本に帰った時に使ったものだと思います。問題はなぜその片割れの鏡がここの宝物殿にあったのかということです。」

「それはつまり…。」

「そうですね。これらの文献を調べれば謎は解けるでしょうけど、おそらくは朝峰家も星一族の末裔だった可能性があります。俺はなぜ朝峰家が皇室の命令で薬草を探し回っていたのかが疑問でした。皇室と朝峰家の接点がないためです。しかし、今回の一連のことを考えると星是空という人はもともと皇室の関係者だったのかもしれませんね。もしくはゼクウが異世界にわたったことも皇室は知っていたことになるかもしれません。ひょっとしたら是空自身の異世界への転移も皇室関係者だから行えたということも考えられますね。すべてはこれらの文献を解読してからですね。」

 俺はそう言って100を超える書物を見ていった。

 そのうちの一つを宮司が取ろうとしたのを俺は止めた。


「宮司、ちょっと待ってください。これらは先ほど私がマジックボックスに手を触れずに納めました。もしかするとゼクウの指紋や髪の毛なんかも挟まっているかもしれません。一度このまま皇室経由で指紋採取などを行ってもらいませんか?もしうまくDNAが採取できたら、先ほどの仮説も検証できるかもしれません。」


 俺がそう言うと宮司は手を引き、俺は再度宮司の許可をもらってそれらをマジックバッグに収めていった。


「白手袋でもはめてざっと検査して、体毛が挟まっていないかなどを検査して、どれか1冊の本とともに鑑定してもらいましょう。あの宝物庫自体が魔道具化してあったようで、ほとんど経年劣化はしていないようです。もしかしたらゼクウが日本に帰ってきてから開発した魔道具や魔法、薬の作り方や魔道具の作り方も、あれらの本に書いてあるかもしれません。それをそのまま宮内庁の手に渡すのは少々危険だと思います。申し訳ないですが、宮司にも私の家にしばらく通ってもらって、これらの本の目録を作っていただけませんでしょうか。」


「わかりました。確かにここでそれらの作業をするのはいささか防犯の面でも心もとない。重要な機密は一か所に集めておいた方が管理もしやすいでしょう。私の妻や娘たちも古文書の解読を手伝ってくれていたので古語についたあはある程度分かると思います。目録作りに協力いたします。」

 と承諾してくれた。


「それと、ここの宝物庫を研究させてもらいたいのです。1,000年もの時を超えて、保存する技術。おそらくマジックバッグと同じような時空魔法が使われていると思うのですが、その謎の解明と、なぜそこまで長期間動いていたのかを調べるためです。」

「確かにその技術があれば皇室にあるだろう国宝なども劣化せずに後世に伝えることも可能でしょう。ぜひ解析なさってください。」

 俺は宮司の許可をもらい、宝物庫を調べることにした。


 じいちゃんに宝物庫に入っていた資料をマジックバッグごと託し、みんなで家に帰ってもらうことにした。

 俺はそれから丸一日かけて、宝物庫を調べ上げた。


 するととんでもないことが分かった。

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