36.悪い笑み

 俺たちは向かい合ってソファーに座った。

 俺は上座に座らされた。マローンに。

 まあ、仕方ないよな。ここまでしちゃったから。


 俺たちは紅茶を飲んでようやく一息ついた。

「で、お前の話を聞かせろ。」

 と俺は琢磨に促した。


 タクマの話は俺とマローンが予想した通りだった。

 周辺諸国が今のゼクウ王国を見て連合を組んで攻めてこようとしているらしい。

 先日最後通告として使者が来たが、とても飲める条件ではなくそれを蹴ったらしい。


 戦争の期日は1か月後に迫っているようだ。

「で、俺に何をさせたいんだ?」

「異邦人様のお力で、どうか我が国をお救いください。」

「却下だ。」

 拒否した俺をきょとんとした目でタクマは見ていた。


「まずメリットがない。次に今までの付けが回ってきたんだろうな、自業自得だ。いっそ国を放り出したらどうだ?」

「いえ、民のためにもそれはできません。敗戦国の民は奴隷にされて、死ぬまでこき使われます。」


「まあ、先代を殺したことでようやく奴隷のような生活から抜け出しただろうに、又奴隷に落とすのはかわいそうだな。で、俺にそれを救って何のメリットがあるんだ?」

「私が、この国がお支払いできるものは何でもお渡しいたします。ですからどうかこの国をお救いください。」


 俺はそれを聞いてマローンの方を見た。ついでマルクスも。


「よし、じゃあまず俺に王城にある王家の資産をすべて譲れ。その上で、王家は解体する。もちろん貴族もその権限はすべて奪う。その上でため込んだ私財を王家が没収する。」

「そんなことをすれば暴動がおこります。貴族たちが暴れだします。」

「うん。そうだろうな。それが狙いだ。」

 と俺は計画を話し出した。


 俺は昨日からずっとこの計画を実行するためにどうすればいいかを考えていた。

 それがさっきの貴族連中を見て憂いが晴れた。


「俺のところの部隊を使って、各貴族の資産は徴収する。それと同時に国民にはとりあえずメライト領に逃げ込むようにお触れを出せ。まあ、ヘリ使ってこっちがやるのもいいか。そしてお前たち王家も一平民として暮らせ。もちろんメライト領に来ればいい。当面ここで受け入れておこう。王国全土で何人ぐらいいる?」

「今は50万人ほどでしょうか?」

「それを全部メライト領で受け入れてやってくれ。」

「いやいや、そんなの無茶だよ。そんなに家もないし食べ物もない。」

「そこは俺が日本の皇室と掛け合ってくる。その上で一旦この領を建国させる。」

「建国?無理だよそんなの。」

「暫定政府の国王はマローンがやれ。お前が王国民を助けたいって言いだしたんだぞ。しっかりその陣頭指揮は取れ。受け入れの段取りは俺たちとマルクスさんで手配する。」


 マルクスさんはいきなり話を振られてびっくりしてた。


「そりゃ、マルクスさんにもここまで国が腐ってたのを放置した責任はあるよ。だから日本からの物資の仕分け、住居の確保に動いてもらう。」


 俺はマジックポーチからタブレットを取り出した。


「こんな形のものを大量に持ってくる。これは俺の世界でコンテナと呼ばれているものだ。」

 そう言って俺はコンテナの写真を見せた。

「これなら5段ぐらいには積み上げられる。緊急時の家としても十分使えるだろう。魔物が来ても多少は丈夫だから大丈夫だろうしな。50万人なら10万個も持ってきておけば何とかなるだろう。ただし一遍には持ってこれない。徐々にこちらに持ってくるんでうまく配置してくれ。炊き出しのためのかまどやトイレ、水浴びができるような施設。それに飲み水の確保もいるからな。井戸はこっちでも掘ることはできるから、難民で来たやつらをうまく使って作業させてくれ。あとはアメリカで大量に余ってるはずの小麦を買ってくるよ。そのための資金として王家にある金と貴族の金を使う。」


 3人は呆けながらも俺の話を聞いていた。


「で、それぞれ逃げ出してきた街の代表者を決めさせて、戸籍を作るんだ。どんな名前の何歳の男か女か。誰と誰が家族でという風に。この難民の受け入れをマローンがやれ。そしてタクマ。お前はこの難民たちがちゃんと受け入れられているかチェックし、ご飯を食べているかどうか、家があるかどうかを確認してまわれ。1軒1軒だぞ?それで足りないものがあればマローンやマルクスに聞いて、自分で持っていくんだ。もちろんお前ひとりじゃない。お前が一人ずつに声をかけて手伝ってもらえ。そういうチームを組んでいくんだ。お前も王族なんだから兵法なんかも習ってるんだろ?人が生きるのに何が必要か。よく考えて動かないといつまでたっても不満はたまるぞ。」


「異邦じ…。」

「その異邦人様ってのもやめろ。俺にはトモロウという名前がある。そう呼べよ。」

「ではトモロウ様」

「様もいらねぇ。ただの友朗だ。」

「はい。トモロウ。そのあとはどうするんですか?」


「うん。暫定政府とさっき言ったが、この領土をもとに暫定政府を立ち上げて、さっきのマローンがまとめた代表者を集めて、街の運営を行うんだ。みんなの意見を聞いて、みんなが納得するまで話し合うんだ。その上でみんなが必要としていることをやっていく。各代表者は自分の集落の人たちの意見をまとめてもってくる。まずはそこからだ。」


 俺の話を理解しようと3人とも頭を回しているのがわかる。


「それと、もう一方で兵士の鍛錬を行っていく。さっき言ったように国中の貴族と周辺国が敵になる。これは初代がゼクウ王国を起こしたときと同じだわな。そこから自分たちの土地は勝ち取っていくんだ。そして徐々に元のゼクウ国の勢力圏まで広げていく。広げたところには元の住人を優先して住まわせていく。そうやって徐々に取り返していくんだ。」


 みんなに浸透したころを見計らって次を話す。


「その間に国民全員が魔法を使えるように鍛錬するし、魔道具も量産しておく。マジックポーチも支給する。ただしこれらはマローンの方で控えておいて暫定政府が解除した時には必ず回収するようにしてくれ。もしも返さないと終身刑の罰則付きでな。売り渡したり支給したままにするのもいいが、その時に起こる問題もちゃんと考えておけよ。」


「本当にそんなことがうまくいくんだろうか?」


「うまくいくかどうかを議論するつもりはないよ。やるかどうかなんだよ。そして今のゼクウ王国はそれをやらなきゃいけない。そうしないと周辺国の草刈り場になってしまう。貴族たちの資産を奪うのも、そいつらが貴族同士で争ったり、周辺国に歯向かったりするのを狙った時間稼ぎだよ。貴族としての特権がない平民の状態で保護を求めて来たらそいつらもちゃんと保護してやれよ。多分プライドが邪魔してそんな貴族はいないだろうけどな。」

 と俺はそう言った。


「国民を救うならこの方法しかもはやないだろうな。例えば今から貴族たちに魔道具を貸して、防衛に当たらせても、魔道具のおかげで勝てても散々威張り散らすのが目に見えているからな。

 そういうやつらはもういらないんだ。

 誰でも戦うことはできる。

 自分を守るために、自分の家族を守るために。

 そうやって、初代たちは戦っていったんだと思うぞ。

 できません、やれませんじゃ死ぬだけだ。

 そうやって勝ち取ってもう一度タクマ、お前がその国民の代表になった時は日本政府に俺が掛け合うから、日本と国交を開こう。

 それ以外の国交の開き方はない。お前にさっき渡した是空日記にも書いてあるけど日本の皇室がお世話になったのはここメライト領で、ゼクウ王国じゃないぞ?

 それに俺の先祖のゼクウが作った国をここまで荒廃させた王家なんぞ、俺はなくていいと思っている。

 あとはお前がそこまでやってでも民のために生きるか。

 今の立場を維持したまま王家を続けるか。さあ、どっちだ?」


 しばらくタクマは目をつぶり考えていた。やがて考えがまとまったらしい。


「わかりました。王国の幕を閉じます。そして先ほどの計画に私も加わらせてください。」

「よし、わかった。それじゃ、庭でまとめておいた騎士たちと貴族たちをどこかで一つにまとめて放り込んでおこう。少なくとも王家と貴族どもの資産を取ってくるまではな。」


 と俺は悪い笑みを浮かべてそう言った。

 マローンは俺のその顔を見て徐に聞いてきた。


「ところでその暫定政府の名前は何にするんだ?」


 俺はにたっと笑って答えた。


「ポンタだ。ポンタ共和国が新しい名前だ。」


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