22.ユヒト王の不始末

「王太子と王女が何のようだ?」

 俺はその二人に問いかけた。

「この度は国王はじめ、宰相、騎士団が異邦人さまを襲撃したこと、誠に申し訳ございません。国王はこのことの責任を取って不慮の事故にあい死亡しました。」

 と言って徐に国王の首を切り飛ばした。


「おいおい。お前の父親だろう?」

「はい、確かに父ですが、その実態は腐敗しきっており、そこにおります宰相や騎士団長らと贅沢の限りを尽くし、民の不満はたまっておりました。ここで事故死したことで私が王位を継ぎ、治政に全力を注ぎますので、なにとぞご勘弁ください。」

 王太子がそう言い終わると、城の中から複数の騎士が出てきて宰相をはじめとして転がっている騎士団の首を次々にはねていった。


「王位継承のために3日ほどいただき、改めて異邦人様をお出迎え致したいので、今一度お時間をくださいますようお願いいたします。」

 そう言って王太子は深々と頭を下げた。


 こいつはなんでこうも俺にへりくだってるんだろうか?

 何らかの思惑はあるんだろうけど、このあたりで一度マローンたちとも話し合う必要もあるな。

「わかった。マローンお前の定宿に案内してくれ。腹が減った。」

 と俺は言い、マローンたちの馬車とともに宿に向かうことにした。


 さすがに侯爵様が使う定宿だけあって、どこも高級感があった。

 俺は自衛隊の隊長にお願いして、宿の周りの警戒と歩哨を頼んだ。

 その上で俺の家族とマローン一家で部屋の中に入り話を始めた。


「いったいどういうことだったんだ?あの王太子、端からあの国王を切る気満々だったぞ。何の躊躇もなく親の首をはねやがった。ひょっとして、あの一連のことあの王太子は知ってて放っておいたんじゃないのか?」

「タクマ王子はかなり聡明なお方だ。王室の過去の歴史も十分学ばれていると思う。今回の件はおそらくだが、トモロウの言う通りだろう。贅を凝らして民から搾取することしか考えなかった王とその側近たちを、一挙に粛正するチャンスをうかがっていたとも見える。」

「そこに俺が現れたわけか。一体王室に伝わっている異世界人の話ってどんなことなんだ?」

「初代ゼクウ王は異世界人、これはさっき王子が言っていた異邦人と同じ意味だが、と共に魔物を駆逐し、城壁を築いてこの地に平和な土地を確保した。それがゼクウ王国の始まりだ。その後、少しずつ城壁を広げていき、今の規模にまでなった。建国の協力をしてくれた異世界人はその後、行方知れずになったそうだ。そのため、初代国王は異世界人、異邦人には最大級の礼を持って迎えるべしと王国の貴族全員に知らしめてあった。私のところに友朗が現れた時には、そのご先祖様が現れたと同義なのだから、最大限の協力をさせてもらっていた。当然初代国王からの通達を現国王が知らぬわけがない。自分たちの所業をそういう異世界人に見せるわけにもいかず、殺害を思い立ったとしても不思議ではない。王子はそのタイミングをうまく利用したということだろう。」


 なるほどね。

 ……まだ王太子には裏がありそうだけど、それは今は置いておこう。


 そのような話し合いをしている最中に城から使いの者が現れた。

 明日早朝より、王太子の国王就任式を行うので出席するようにとマローンに対しての伝令だった。

 マローンはそれを承諾し、使者は帰っていった。


「まあ、絶妙なタイミングで入ってきたよな。もう少しで爆音で何も聞こえなくなるところだったからな。」

 俺はそう言った。

「お前は本当に恐ろしいな。あのまま王城を破壊しつくすつもりだったんだろう?」

 とマローンは俺に言った。

「当たり前だろ?お前らも含めて俺の家族に手を挙げたんだ。殺される前に殺すよ。」

 俺は当たり前そうにそう言った。

「菜月、悪いな。怖かっただろ?でも俺は家族に手を出されるぐらいなら相手を殺してでも守るよ。」

 俺は菜月とポンタの頭をなでながらそう言った。

 ポンタはにこにこしていた。

「あなたがそう言う人なのは知ってますから、もういいです。」

 と、菜月は笑いながらそう言った。

 由美も

「私の出番がなかった。」

 と俺に愚痴った。

 いやいや、人同士の殺し合いの場所にお前らを出す気はねえよ。


「それとマローン、マルクスさんも。先ほどは申し訳ない。あんたたちを疑うようなことを言って。しかし、あの状況で俺があんたたちにも敵意を向けておかないと、あんたたちも矢面に立つと思ったからあえて、ああいう言い方で確認を取ったんだ。それが、俺たちを逃がすために囮になってるんだから、まったく。」

 と俺は一連の会話について謝罪した。

「いや、謝罪はいらん。あの場であの言葉は正しい。私が同じ状況でもああいう確認の仕方をするだろう。」

「確かに。ああいう形をとらんと、友朗たちが逃げた後わしらが敵になるからな。」


 俺たちはポンタやポン吉、ポン子の遊んでいる姿に癒されていた。

 俺はこの家族を守れたことに安堵していた。


 そこにまた来訪者が来たと告げられた。

 来訪者は先ほど王太子の横にいた第一王女だった。

 俺たちは王女を招き、話を聞くことにした。

 王女は執事らしき男性とメイドを伴って部屋に入ってきた。

 この執事とメイドはボディーガードなんだろう。

「先ほどは大変失礼いたしました。改めてお詫びさせてください。」

 と王女は深々と頭を下げた。

 それを見たマローンたちと執事やメイドが驚いていた。


 俺は

「詫びなら先ほど王太子から聞いたからそれでもういいよ。」

 と気にしてないことを手を振りながら答えた。


 その答えが気に食わなかったのか、王女についてきたメイドと執事がピクリと反応した。

 俺と由美はすかさず王女の後ろにいた執事とメイドを掌底で吹っ飛ばした。

 王女を背にして、俺は

「お前らから殺気がビンビン出てるんだよ。」

 と言い放ちながら執事の手をもって後ろに捻り上げた。

 由美も同様にメイドの手をひねり上げていた。

 マローンに頼んで、執事とメイドの懐を探ってもらうとナイフがそれぞれ出てきた。

「お前ら、これ、どう見ても護身用じゃないぞ。このナイフの刃が濡れてるのは毒だろ?」

 俺はそのまま執事の肩を破壊した。

 そして拳銃を取り出し、執事とメイドの膝を打ちぬいた。

 王女はそれを見て震えていた。


「王女さんよ。お前さんの周りも相当危ないことになってそうだな。事情を話してみな。」

 と王女に促した。

 その時扉がガチャっと開いて、

「大丈夫ですか?」

 と拳銃を構えて自衛隊の隊長が部屋に飛び込んできた。

「ああ、大丈夫だよ。ありがとう。」

 そう言って、隊長に執事とメイドの二人を拘束してもらった。

 自殺の可能性もあるので猿轡もはめてもらった。

「隊長さん。相当やばいようだからこの宿にいる他のお客は全部追い出してくれないか?巻き添え食わすのも寝覚めが悪いからね。それと支配人を呼んでもらって、この宿を当分貸切るようにしてほしい。」

 俺はそうお願いした。


 するとドアの向こう側にいた支配人が部屋に入ってきた。

「誠に恐れ入ります。当宿に第一王女殿下がお見えになられたので、ご挨拶にと伺いましたが…。なるほど。本日の王城での騒ぎはお客様方でしたか。当分の間、この宿は貸し切りとさせていただきます。この国を良い方向にお導きください、異邦人さま。」

 と深々と礼をして、立ち去った。


「異邦人の建国伝説は子供も知ってるぐらいだからね。」

 とマローンは俺に教えてくれた。

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