17.ゼクウという国について

 みんなには先に領主館の方にいってもらっておいて、俺は異世界ゲートを調べてみた。

 何度か行き来しているうちにどうやら俺の身体から気を吸い取っているように感じる。


 つまり、何らかの形でこっちの世界でいう魔力をゲートに流し込んでやれれば、異世界を渡ることができるのだろう。そういう道具は作れるのだろうか?


 早速領主館に赴き、セバスさんに聞いてみた、すると

「それでしたら、魔道具がいいのかもしれませんね。魔道具工房をご紹介いたします。」

 と俺を魔道具工房の親方に引き合わせてくれた。


 俺はさっそく作ってほしい魔道具の機能を伝えると注ぎ込む魔力の量にもよるけど、魔石が嵌った指輪を作ればそのゲートのカギになるかもしれんということで、さっそく作ってもらうことになった。魔石とは魔獣が死んだときに残す魔力が固まったもので、その魔石から魔力を取り出すことで、様々な魔道具を作っているそうだ。


 俺も時間ができたらぜひ挑戦してみたい。

 銀貨3枚ほどで指輪を作ってくれた。

 銀貨10枚で金貨一枚なので、暫定的に銀貨一枚千円というところだ。

 だから、この指輪は3千円ということか。

 魔石はゴブリンの低級な魔石を使っているようだ。

 まずはこれでやってみよう。

 菜月がチャレンジしてくれることになった。

 俺は万が一のことを考えて、俺が先に日本にわたり、菜月が単独でこの指輪を使って渡ってこれるかを試すことになった。


 結果、無事渡ってこれることは確認できたが、一度わたると今度は戻ってこれない。

 つまり1回のゲートで1個のゴブリン魔石が必要になるようだ。これは効率が悪いな。

 この魔力が抜けた魔石に魔力をつぎ込むことはできないんだろうか?

 俺はゆっくりと指輪の魔石に向かって気(魔力)を流していった。すると加減が難しいのかパリンと魔石が割れてしまった。

 う~ん。魔石に魔力の補充は無理なのかな?


 俺は菜月と手をつないでメライトに戻り、魔道具工房にもう一度向かった。

 魔石が割れた指輪を見せて、

「もう少し魔力保有が大きいものはないですか?それと魔石に魔力の補充ってできないんでしょうか?」

 と尋ねた。

 すると魔力補充のための魔道具が別にあるらしく、それは金貨2枚で販売してくれた。

 念のため指輪の魔石を大きくしてはめなおしてもらった。

 今度の魔石はグラスウルフのものだそうだ。草原狼?

 この魔石もよく取れるものの一つだそうだ。

 俺は菜月を連れてもう一度迎賓館に戻り、何度か行き来してもらった。

 すると2往復半までは持つようだ。

 早速補充のための魔道具を使って魔力を流し込んだ。

 どうやらこの魔道具で魔力を一定に保つことができるようだ。

 充電したものを再度使っても同じく2往復半使えることが分かった。


 俺は魔道具工房にもう一度戻って、指輪を20個、魔力補充器をもう一台注文した。

 今日の夕方までには作ってくれるそうだ。又取りに来よう。

 俺は代金を支払ってお願いして、領主館に戻った。


 さて、これでこちらの世界と日本との行き来がだれでもできることになった。

 ようやく鍵替わりから解放されそうだ。


 それにしても…あの魔道具、俺も作って見たいな。

 モノづくりを趣味としている俺にはとても魅力的なものに写った。

 早速俺はマローンに魔道具作りについての文献がないか聞いてみた。

 するとあるそうだ。早速それも貸してもらえることになった。

 領主館ではみんなで翻訳作業をしていた。

 俺がお願いしていたんだよね。


 源蔵さん夫妻は薬術関係を、親父とお袋は錬金術関係をそれぞれ取り掛かっていてくれた。

 由美と菜月は辞書作成のためにあちこちを歩き回りながらスフィアに物の名前を聞いてはメモしている。


 さて、俺はこちらの文字の文法的なものをまとめていこうと思う。

 言葉の組み立ては日本語と同じようだ。

 実は地球上で日本語と同じ文法を持つ言葉はシュメール語しかないそうなんだが…。

 てにをはにあたる言葉や、代名詞、動詞、形容詞、修飾語などをポンタの相手をしているイザベルさんから聞きながらメモしていっている。

 基本的な会話と文献が読める知識があればいいので、取り急ぎはざっくりとまとめていった。


 執事のセバスやメイド長のマリアにも協力してもらって、礼儀作法やあいさつの仕方などをスマホで録画しながら、解説してもらった。

 これで後でみんなで学ぶことができそうだ。

 そして基礎知識。この国はゼクウ王国というそうだ。

 国王の名はユヒト・ホシ・ゼクウといい、45歳だそうだ。

 国王夫人はサラ・ホシ・ゼクウ。40歳だそうだ。

 ちなみにマローンのメライト家の爵位は侯爵だそうで、上から王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵となっている。それぞれに準という称号もあり、これは例えば準伯爵などで「扱いは伯爵相当」ということらしい。つまり伯爵の爵位はないが、国としての扱いは伯爵として扱うということだそうだ。

 爵位には領土を与えられ、毎年の給金も国から支給される。一方で税収の3割程度を国に治める必要がある。程度というのはその土地によっては作物であったり、鉱物資源であったり、海産物であったりいろいろと変わるらしい。


 マローンって結構えらいんだな。


 俺は性格もあったし、ポンタの親ということで初めから構えて、対等に付き合おうとへりくだった態度は一度もしていない。

 先代への敬意はもちろん払っていたけどね。

 うちの家族みんなそんな感じだ。

 これからはある意味家族づきあいするんだからそれぐらいでちょうどいいよね。

 俺はセバスに言って、後日になるが、領主館と迎賓館にいろいろと機器を設置したいと申し出た。どうやら昨日先代と当代が話し合って、迎賓館には先代夫妻が住んで管理することが決まっているようだ。数日後には引っ越してくるらしい。

 それなら、その引っ越しの前に機器の設置を行いたいので、引っ越しは10日ぐらい後にしてもらうようにお願いした。セバスはさっそく当代と話をして、先代に引っ越しの日の変更を申し入れてくれていた。

 荷物置いちゃってから家の中にいろいろと設置するのは大変だからね。


 ああ、それと大事なことを忘れてた。

 この領主館まで水路が引けないか相談してみた。

 水力発電機のことを説明し、水の力でモーターを回して電気を作るということに驚いてはいたけれど、これも当代の許可をもらってさっそく水路を掘ることになった。

 近くの川からはある程度の高低差があるようなので、幅50㎝程度で深さ1mほどの水路を作ってもらうことにした。

 迎賓館の方にも同様な水路の設置をお願いした。

 それぞれ相当な敷地があるので、この際だから池も作るそうだ。

 ポンタに水遊びでもさせたいのだろう。

 これで注文した水力発電機を5機ずつ設置できそうだ。

 排水は地下水路に放流するようだ。

 この町には下水道が完備されている。

 しかしその末端は川にそのまま放流されているようだ。


 俺は治政に関することなので、直接マローンに面会を申し出た。

 マローンは快く会ってくれ、下水道の処理施設を作るように進言した。

 これは一度浄化したものを放流しないと河川は汚れて、病気が蔓延しかねないし、海では赤潮が発生する恐れもある。栄養過多になってしまうからだ。

 現在の放流先の手前に浄化施設として大きなため池を3つほど作り、そののちに放流するように進言した。


 後日、このあたりの本を日本で買ってこよう。

 他にも何かないかと聞かれたので、上水道(現在は井戸を使用している)、それに手洗いの奨励、入浴のための大衆浴場を提案しておいた。


 乳幼児の死亡率を聞くとかなり悪いらしく、60%に上っていた。

 ポンタも必死で探したが、半年を過ぎるころにはあきらめられていたのは、これが原因のようだ。

 病原菌の存在やそれが食べ物や口から感染する感染症などもおおざっぱではあるが説明して、それらの予防のためにも手洗い、入浴の推奨を改めて進言しておいた。

 これはそれなりの大きさの土地が必要なこともあり、いったん保留で、今後検討していくことになった。

 俺はまた、古本屋巡りをしなきゃいけないなと覚悟した。

 そのほかにも街道の整備、河川堤防の整備など公共事業と考えれば多岐に渡る。

 これらを学習する文官が必要なので、それらの選定も行ってもらうようにした。


 そして次に商館だ。

 俺たちが日本の製品を売るための店をどこかに構えたい。

 その商会はマローンとの共同出資という形をとって、利益は折半するということで合意した。

 昨日持って帰った商品は今査定を行っているところだという。

 近日中に値付けができるだろうと聞いた。


 俺たちはそろそろ夕方が近づいてきたので、日本に帰ることにした。

 きょう一日で膨大な量の資料をみんなが作ってくれていた。

 俺はこれを日本に帰ってからまとめなきゃだな。

 当分はこんな日が続くんだろうな。


 俺は忘れずに魔道具屋によって頼んでいた商品を引き取っておいた。

 その時に何か魔道具製作がよくわかる本がないかと尋ねたら、いくつか出してきてくれた。これらは魔道具協会というのがあって、そこで編纂していて販売しているらしい。


 俺は魔道具協会の場所を聞いて早速それらの本を買い求めた。魔道具屋にはなかった本もあった。日常的に注文の多い本しかもっていなかったからだろう。これにはレシピも書かれていて、製作方法も載っている。


 これは興奮するな。早速読み解こう。

 こうして俺たちはそれぞれに指輪を持たせて、残りをセバスに預けて日本に帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る