11.先代様も伴って日本へ

 俺たちはまずあの家が何なのか話を聞くことにした。


「あの家は元領主館で、初代の領主が住んでいた家だ。家族も増えて、使用人も増え、来客も多くなってきたことから、ここの領主館を建てて、あちらはそのまま来客用の迎賓館として置いてあるのだ。もう何代も前からなので、あの家にまつわる不思議な話は伝え聞いているが、まさか本当だったとは…。」

 と、元領主館についての話をしてくれた。


 なんでも、初代のメライト家の領主は一人でこの土地をまとめたのではなく、『来訪者』と共に、この町を作ったらしい。

 その来訪者の名前も古い文献には残っていたのを見た記憶があるという。

 そして、いつの間にかその来訪者はあの館から消えて、その後現れることはなかったらしい。

 その来訪者は薬草を探しに来てここにたどり着いたという話だ。


「それって、どう考えても朝峰一族の話だよな。」

 と、妻の菜月に問いかけた。

「う~ん。結婚式を挙げた神社に初代からまつわる古い文献が残っているとは思うけど…。そういえば、先祖が今の土地に入ったのは帝(みかど)に献上するための薬を作るために薬草を探していたって話は聞いたことがあるよ。」

 と菜月は思い出しながら話をした。


 やはり、どこかで通じているようだ。


「じゃあ、なんで今まであの祠が発見されなかったんだろう?」

 俺はそうつぶやいた。

「俺と友朗には見えて、なっちゃんには見えなかった。小百合には白い霧に見えたもの。…恐らくだが、この世界にある魔法と関係しているのかもしれんな。そして、それは俺たちの世界では『気』と呼ばれているものに似ているのかもしれん。」

「つまり、優秀な気の使い手が減ったために、祠のことがわからなくなっていった。そしてこちらに誰も行かなくなったということ?」


「恐らくそうじゃろう。もしかしたら、朝峰家とこっちのメライト家で婚姻関係を結ぶこともあったのかもしれんが、それは調べてみんとわからんな。」

「なるほど。……それじゃ、どっちにしても一度帰って源蔵さんたちに来てもらった方がよさそうだね。できれば神社の文献の写しでもあればいいんだけど。それとこちらのメライト家の方の文献も探してもらう必要があるね。」


「その上で、ポンタのことだな。どうするか…。」

「メライト家の皆さんにもうちに来てもらったら?」

「それでもいいんだが、マローンさんはあくまで領主という立場もあるしな。そのあたりはどうなんだろう?」

 じいちゃんがマローンさんに問いかけた。


 マローンさんは先ほどの執事のセバスを見た。

「本日一晩でしたら、私どもも同行させていただきますが、大丈夫だと思われます。失礼ながら、トモロウさんたちを見させていただいたところ、おじいさまでこの国では比類ないほどの魔力量を持たれています。そして、トモロウさんはその倍以上かと思われます。」

 どうやら鑑定で俺たちのことも見ていたようだ。

「物腰、話し方、礼儀…。こちらの世界とは違うので一応に比較することはできませんが、ひとかどの人物とお見受けいたします。おじいさまは特に武の達人かと思われます。」

 そう言われて、じいちゃんはまんざらじゃなさそうだ。


 早速メライト家の騎士団から騎士団長と騎士団員2名。それに執事のセバスとメイドが4名。メライト家からはマローンさんと奥さんと娘さん。それに先代のおじい様とおばあさまが急遽迎えに行かれて集まってきた。


 騎士団長はマルコス・ミレアム、騎士団員はフットとシャリー、執事さんはセバス、メイドさんたちはメイド長がマリア、メイドがリサ、マーゴ、リリーとそれぞれが名乗ってくれた。

 先代領主はマルクス、先代の奥様がシャーロット。

 まだ、先代さんは状況がよくわかっていないようだが、先祖代々受け継がれてきていた初代の家の秘密がわかったと聞いたらしく、かなり興奮した面持ちだ。

 先代の奥様はにこやかにその様子を見ている。


 早速俺たちは初代の家である迎賓館に行き、その一番奥の部屋にあった鏡の間に進んだ。


「この部屋は…鏡があったので、使用人の控室か衣装部屋かと思っておったのじゃが…。」

 と先代様がつぶやいた。

 俺はポンタを抱き、菜月の手を引いて、鏡の中に進んでいった。

 その姿に驚いた声が上がったように聞こえたが、俺たちはすぐに石の祠の前に姿を現した。

 そこで菜月にポンタを任せて、俺だけ戻っていくことにした。


 戻った先では鏡に手をついたりしている騎士団長がいた。


「これは…体に魔力を循環させることで、あちら側に抜けれるようですな。しかし、残念ながら私では無理なようです。」

 何度か試してみたらしい。

「俺が手を引いていけば大丈夫だと思います。ではまず騎士団長から行きましょうか。そうだな、マルコスさんとシャリーさんも一列で手をつないでみてくれませんか?俺一人で何人まで連れていけるか見てみたいんで。」

 そう言ってマルコス、フット、シャリーの順で手を数珠つなぎにしてから、俺がマルコスの手を引いて鏡の中に入っていった。

 すると、マルコスだけが石の祠の前まで来た。フットとシャリーは置いてきてしまったようだ。

 俺はもう一度戻って

「では今度は俺の両手にそれぞれフットとシャリーがつないでもらえますか?」

 そうしてフットから鏡の中に進んでもらった。

 すると今度は3人とも無事に石の祠の前に出た。


 なるほど、2人は大丈夫そうだな。

 そこからは二人ずつ俺が手をつなぎ、順次祠の前まで連れて行った。


 そして、全員がそろったところで、

「では俺たちの家までご案内しますね。俺の後についてきてください。」

 と言って、俺はまたポンタを抱きかかえて、先導して家に向かった。


 工房の前で源蔵さんと貴美子さんが俺たちのことを心配して山の方を眺めていた。

 そこに大勢を連れて戻ったので、二人とも慌てていた。


 由美が走ってきて

「どうしたのこんなに外人さんいっぱい。」

 と驚いていた。

 確かに外人さんだよな。

 俺は

「源蔵さんに言って俺の家のリビングで全員が座れるようにしてもらえるかな?」

 と由美だけ先に返した。

 マルコスやフットとシャリーは山の中や周りを警戒していたが、抜刀はしていなかったために、そのまま進めた。

 領主とその夫人、先代と奥様、スフィアと菜月、セバスたちという具合に並びながら順次家に入っていった。

 俺は来客用に大量に買ってあったスリッパを出して、靴を脱いでもらい、スリッパに履き替えてもらった。


 俺はリビングで、源蔵さんを義父だと紹介し、同様に貴美子さんも紹介した。

「いや、トモロウよ。この人たちが何話してるかわからんのだが…。」

 そこで、執事のセバスさんにお願いして、源蔵さん、貴美子さん、由美、それに親父とお袋に翻訳魔法をかけてもらった。


 領主のマローン夫妻と、先代のマルクス夫妻、それに娘のスフィアにソファーに座ってもらい、うちの両親、祖父母、それに源蔵さん夫婦はテーブルがあると邪魔なので椅子だけにして、それに座り、ソファーとイスが対峙したような格好になった。


 メイドさんたちはキッチンに行って、さっそくお茶の用意をしてくれた。

 執事のセバスさんは領主の斜め後ろに控えていた。


 早速両者の紹介を俺が行った。

 ポンタはポン吉とポン子とごろごろしている。


 そしてお互いにこうであったであろうというポンタの誘拐事件の顛末を話しした。

 ちなみに犯人はまだ捕まっていないそうだ。

 それって危ないんじゃないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る