腕は複雑かも?(2)

「じゃあ、ジェルシリンダの真価が発揮されるのはこれからというところですか?」

 ギナをのせるよう先を促します。

「そうでもないの。次に考えている腕は超電導モーターの出番が多いの」

「あれれ」

「特に手なんかは独壇場なの」


 ファトラが基本的な仕組みを3Dモデルで投影してくれます。手に関しては、単純に曲がる構造を必要とするでしょう。そうなれば十分な回転力トルクを引き出せる超電導モーターが主役になるとぼくでも分かりました。


「手の平にはあまり駆動機を詰めこみたくないの。それよりフレーム強度と装甲厚で頑張ってほしいの」

 嫌な予感がします。

「そうしないと殴っても痛くないの。それは面白くないの」

「不穏当な発言はそろそろ聞き流してもいいでしょうか?」

「ちゃんと聞くの!」

 叱られてしまいました。

「分かりました。でも、手こそ極めて複雑かつ繊細な可動を要求される部分ではありませんか?」

「拳こそ最大の武器なの」

「いやいや、物騒すぎますから。それに、良いんですか?」

 彼女は「なにがなの?」と聞き返してきます。

「ギナは人間の動きを忠実に再現するロボットを造りたいんでしょう? 手だけおざなりにするのは沽券に関わると思うんですが」

「痛いところを突いてくるの」


 口元がふにゃふにゃと歪んでいます。引っ掛かっていながらも無視したかったんでしょうね。そこを指摘されて複雑な気分なのでしょう。

 でも、実用性を追求するなら無視していいものではありません。この開発は趣味の延長であっても、遊びで終わらせたくはないとぼくは思いはじめています。


「レリは人間並みの手先の器用さが必要だと思ってるの?」

 設計思想の根幹部分ですね。

「そこまでとは言いません。ですが、あまり複雑でない作業なら大概のことはできるくらいのスペックはあってもいいと思うんです」

「それはギナも思うの」

『それでは基準を設けたいと思います。ご意見をお願いいたします』

 ファトラがまとめを引き受けています。


 ギナの要望する戦闘可能な構造を容れるとしても、人間の肉体労働を代替する作業用ロボットが可能な作業くらいはできなくてはならないと訴えました。それには彼女も頷いています。


「手の大きさは2.3mなの。そこに必要な装甲厚とフレーム強度を落としこむと使えるスペースはこのくらいなの」

 3Dモデルの空き部分はあまりありません。

「だから関節に超電導モーターを採用するのは確定なの。ギナ的にはもっと簡略化して強度に振り分けたいくらいなの」

「いっそ棘でも付けてみますか?」

「それ最高なの」


 冗談を言ってはいけない場面だったようです。

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