肩は大変かも?(4)

「シリンダ機構というのは近年では廃ってしまったのでしょうか?」

 問いかけてみます。

『あまり使われんな、主よ。出力は安定して大きいのだが、精密な制御に難点のある機構なのだ』

『ええ、微細な制御あるいは機敏な動作を必要としない場面では用いられています、ですが、特にロボットなどには不向きとされていますね。社会に溶け込んでいる分だけ、障害が発生する可能性が僅かでもある機構は排除傾向になるのです』

 ラノスに続きファトラまでも否定的です。


 なるほど、そういう理由でほぼ見かけなくなったのですね。出力的に高いとされる機構とはいえ、常温超電導モーターが進化を遂げてそれに追随するほどの出力を示せば衰退傾向になるのは致し方ないかもしれません。


「待つの」

 ギナは思案げな感じです。

「シリンダは使えるかもしれないの」

『ほほう?』

『本当ですか、ギナ様?』

 彼女の人工知能アテンドであるファトラまでが驚きのニュアンスを含む声を漏らしています。

「油圧シリンダは精密制御が難しいの。でも圧力媒体を油に限定しているから制御が難しいとも言えるの」

「中身に使う液体は圧力媒体っていうんですね? でも、特殊な溶液を除けば変質しにくく加温で膨張しにくい油を圧力媒体にするのが普通なのではないですか?」

『低温で凍結しないのも利点であるな』

 そんな理由から油圧が当然という機構です。

「そこは発想の転換なの。ヒントはファトラの作業用義体からだにあったの」

『わたくしですか?』


 打てば響くようににファトラは義体をギナの傍まで歩ませてきました。彼女の説明をサポートするつもりでしょう。


「義体はかなりの動作をモーターと人工筋繊維で可動させているの。この二つはとても制御が簡単なの」

 ファトラと手を握り合って証明しています。

「でも、この二つはストローク制御と回転制御しかできないの。なので違う機構を用いている部分もあるの」

『具体的に申し上げますと手首や足首が代表例になります。この少ないスペースで360°全方向への可動および捻じれ動作まで必要とすれば、前述の二つでは詰めこむのが困難です。ですのでジェル圧駆動機構を組みこんでおります』


 3Dモデルが投影されると、そこに内部機構が浮かびあがりました。それは一見ゴムチューブのようなものに見えます。


『こちらは内部を八室に区切った耐圧シリコンチューブです』

 表示された断面には放射状に区切られた断面。

『それぞれの室に充填する圧力媒体のジェル圧を制御することで全方位への駆動が可能です。八室にしてあるのでかなりの微細な制御も実現しております。同様に仕切りの無いチューブを螺旋状に配置し捻じれ機構としています』


 ファトラが義体はそれをフレーム周囲に配置しているのだそうです。

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