肩は大変かも?(2)

 ぼくは作業用義体の拡大版で問題ないのではと単純に考えていました。肩の部分も人間とほぼ同等の可動域を持っているのですが、実際にはそんな簡単な話ではないようです。


『作業用義体は空気圧、ジェル圧、磁気駆動などを用いています。これらは人間サイズのものを動かすには有効ですが拡大しても駆動不可能です。肩にしても……』

 ファトラが内部構造まで表した3Dモデルを空中に表示させます。

『ご覧のように人工靱帯で被覆保持した二重の駆動曲面を持つ構造をしています。曲面には電離界面を施し、マグネットアクチュエータで駆動させています。例えばこの機構を22mの人型サイズに拡大させますと……』


 被覆で保持している二重構造がずれて垂れさがり始めます。人工靱帯では重量を保持するのは困難なようです。


『このように機構が崩壊します。人工靱帯の強度も足りませんし、マグネットアクチュエータもこの重量を保持できる吸着力を有しません』

 専門用語も混じりますが素人にも推測できる表現をしてくれています。

「構造力学の基本なの」

『主、構造体は大型化するほど強固な結合を必要とするものぞ。接合に関しても適用される』

「確かに常識の範疇ですよね、ラノス。技術が発達すれば、どんな理論も凌駕できそうな気になっていました」

 天才であるギナでも理論には縛られているらしいです。

「それで一から機構を組まないといけないけど、良い案が閃かないで困っていると」

「なのなの」


 彼女の機嫌も少し直ってきているようです。困っているといいながらも穏やかな表情へと変わり、ファトラの準備した軽食に手を伸ばす余裕も出てきました。


「打開策を必要としますね」

 こういうケースは創作と大差ないと思います。

「まずは基本に立ち返って、実物を検証してみるべきではないでしょうか?」

「それも考えたの」

 ぼくに思いつくようなことはギナにも思いつくでしょう。

「肩関節は主に鎖骨と肩甲骨で支えてるの。それを筋肉と腱で固めているだけなの」

『このようになっております』

「ファトラ……。こういう時はもっと簡略化しても良いんですよ」


 表示された3Dモデルは実に生々しい色や形をしています。ちょっとお食事時には見たくない類のものが目の前に映し出されてしまいました。ギナは平気でモグモグしていますけどね。


『申し訳ございません。ではこのような形で』

 色々と剥ぎ取られて骨だけになりました。

『これで可動域を確保しています』

「なるほど。これをそのまま機械化するのは難しいんですか?」

「構造はそれほど複雑ではないの。でも、これも大型化すると重量の支持が難しいの。実物を触るともっと分かりやすいの」

 そう言うとギナは背後に回ってきます。


 彼女はぼくの肩に手を伸ばしてきました。

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