第八幕 ギルマス会議(・・その開催前・・)

 それは一通のメールから始まった。

「突然のメール失礼します。ギルド「クロスナイツ」のギルドマスター「アシュ―」と申します。

この度、CFOにおけるギルド間の繋がりを密にし、かつ今後を話し合う「ギルマス会議」を開かせていただきたいと思います。

開催日時は現時点で○月×日、22時から一時間ほどを予定しております。

つきましては、「各ギルドマスター様が、開催時間に参加できそうか否か」のメールを返信していただけたらと思います。」



このメールについて、「ボルケーノ」のギルマスであるライアスは、一人で判断することではないとし、ギルメンに相談した。ちなみに今いるメンバーはGANTZ、ギル、たかみ、エル様、Nao、Hiro・・・要するにいつもの面子である。

「どう思う?」

「・・好意的に見れば、プレイヤーイベントの一つだと思うが・・」

基本的に発言が温厚なGANTZが言うのに対し、

「「胡散臭い」」

と一蹴するのはギルとたかみ。

「ギルドの関係に詳しくない私が言うのもなんですが、ちょっとあれですね・・・」

と言うのは、入って日が浅いNao。実際、ギルドに本格的に入ったのはボルケーノが初めてという事なので、正直なところだろう。

別の切り口の質問をするのは、名前の割りに意外と常識的なエル様。

「このメールって全ギルドのギルマスに送られたのかな?」

それに答えるHiro。

「・・GLV5のところには届いていて、GLV4のところには届いていないらしいので、おそらくそこで区切っているかな。」

「「ますます胡散臭い」」

再びハモるギルとたかみ。

「良く知ってるなぁ、Hiro」

「・・昨日、一般チャットで話してるのをたまたま聞いただけ。」

「つまり、にわかとはいいがたいギルドのギルマスにだけ宛ててる訳か。・・ガチで有名な彼らしいな。」

「・・そう言えば私も聞いたことがあります。「クロスナイツ」は特に効率重視のギルドだって。」

「別に効率重視なのは、それぞれのスタイルだから否定する気はない。・・ただ、寄生とかもやってるのは個人的に気に入らないかな。」

「寄生」とはMMO全体・・ではないかもしれないが、少なくともこのゲームをそこそこやっているプレイヤー間では通じる造語である。このゲームではPTを組んで敵を倒した場合、敵のLVがPTで一番高いプレイヤーのLVより10以上、下回る場合を除いて、PTメンバー全員に各LVに応じた経験値が入る。この際、PTメンバーは必ずしも攻撃に参加しなくても良い。これを利用して、高LVプレイヤーと低LVプレイヤーがPTを組んで高LVの敵を倒すことで、低LVプレイヤーが、自分ではほぼ何もすることなくLVを上げられる、というのが「寄生」または「寄生プレイ」と呼ばれるものだ。


「・・ギルド運営には高LVプレイヤーがたくさんいた方がいいとはいえ、寄生だと熟練度は上がりにくいだろうし、なによりPSがなぁ・・・」

この「寄生」プレイをやるギルド的なメリットとしては、高LVのクエストやダンジョンに挑めるプレイヤーが増えることで、ギルド資金が潤うことが一番大きい。

CFOにおいては、ギルドに所属するプレイヤーがクエストをこなして報酬を得ると、その一割が自動的に所属ギルドの資金としても加算されるシステムとなっている。この際、プレイヤーのクエスト報酬が減るわけではない。無論、クエストの内容によって報酬は変わるが、基本的に高LVになるほどクエスト報酬ならびにギルドへの収入も飛躍的に上がるのだ。

 反面、デメリットとしてはまず、熟練度がフォーム・スキルともに上がりにくい。フォーム熟練度は「同じフォームに長時間あり続ける」ことで一見上がりそうだが、「フォーム熟練度はスキル熟練度より上がりにくく、スキルは使わないと上がらない。」のだ。ちょこちょこスキルを使っていけばよさそうだが、攻撃系のスキルは下手に使うと高LVの敵を呼び寄せてしまったり、回復系でも一部の敵のヘイトを刺激してしまうことがあり、それこそCFOにまだ慣れていないプレイヤーが陥りやすいミスとも言える。

・・なにより、「寄生」プレイの一番の問題点は「このゲームの知識及びPS、プレイングスキルが育っていない高LVプレイヤーになってしまう」ことであろう。無論、似たようなMMOを他でやっていたりして知識などは十分なので、LVアップの時間短縮のために「寄生」するプレイヤーもいる。・・が、多くのプレイヤーは「ただなんとなくLVは上がっていたけど、何すればいいの?」といった事態に陥る。そしてLVが低いうちは正直に「初心者です」と言って聞きやすいが、なまじっかLVは高いために周りにも尋ねにくい。結果、ゲームがしにくくなり、最悪インしなくなるといったケースもそう珍しくはない。


「PSが育ってないのを自覚している人はまだいいけど、そうじゃないと地雷になりかねないしなぁ・・」

 「地雷」というのもMMO、少なくともCFO内における造語だ。端的に言えば「ネチケットがない、もしくはLV相応のプレイができていないプレイヤー」をそう呼ぶ。これはプレイヤー個人の性格やゲームへのスタンスも大きいが、ゲーム内での経験を少なくする「寄生」プレイが拍車をかけるのは否めない。

「そうそう。地雷を産むような寄生は勘弁!お金なら一部上位陣だけでも寄付でまかなえるでしょ!!」

「・・ぁ~、持ってる人はめっちゃ持ってるからねぇ・・」

ギルド資金は、所属メンバーから「寄付」と言う形でも増やすことができる。ただし、ギルド資金から個人のお金に戻すことは、例えギルドマスターであってもシステム上できない。ギルド資金はあくまでギルドの運営、主なものを具体的に挙げると「ギルドLV(GLV)のアップ」、「ギルドタウンの設立および保持」、「タウンに配置する商人の雇い賃」と言ったものに使われる。

ただ、このギルド運営費というのが・・かなり高い。「GLVのアップ」と言う点だけで言っても、GLV3までなら一人でも賄えるかもしれないが、4になるには高LVのクエストを多くこなす必要があるだろうし、・・5以上に上げるには、個人では到底無理と言われるくらいの資金が必要だ。この時点からギルドメンバーからの寄付がまず必要、つまりは、本格的なギルドとして機能する必要性が生じてくる。・・「クロスナイツ」がこのGLV以上に件のメールを送ったのはこの辺にあるのだろう・・



「・・だがギルマスとして言わせてもらえば、お金の面を除いてもギルド、特にタウン運営が楽じゃないというのも事実。・・先日のBPの一件もあるし・・」

「・・確かに。」

「あれは驚いた。」

 メンバー同意の中、一人だけこの件について知らない―と言うか体験していない―Naoは素直に尋ねた。

「・・すいません。BPの件というのは何でしょう?」

「ぇ?Naoっち知らない??」

「・・Naoさんは2鯖にいたんで、知らなくてもしょうがないかと・・」

「ぁ~、あれって統合前か~。・・なら知らないよね。ごめんね。」

「いえ。・・と言うことは旧サーバー1であったことなんですね?」

「うん。じゃあ、自分が言ったことなんで説明させてもらうけど、「BrightPark」ってギルドがあるよね?GLV8の。」

 Naoはギルド一覧画面を開いて確認する。

「はい、確認しました。BPはこの略ですか?」

「そうそう。で、このギルド、以前はギルドタウンも持ってた。貴重なGLV8タウン・・これが運営に回収されたって話。」

「なっ!?」

「そう言う反応しかできないよな。」

「・・・私も似た感じだった。」

「あの瞬間はBP知ってるなら、どのプレイヤーも似たようなものだったろうな。」

「・・低レベルギルドのタウン回収はままあるけど、最高レベルのタウン回収は痛すぎる・・」

「・・なんで回収されたんですか?」

「・・当時のタウン回収される条件は「ギルドマスターが1週間ログインがない」もしくは「1週間でギルドメンバーが7人以上ログインしていない」の二つ。マスターはログインしていたから後者だろう。」

「・・・所属は50人以上いるのに、アクティブは6以下ですか・・」

「うちも30人はいるけど、アクティブと呼べるのは10人くらいだから大きな声では言えないけどね。」

「・・多分、今のタウン存続条件が「1週間で5人以上のログイン」に緩和されているのは、この件も踏まえてだろうなぁ。」

「それでも今ある15くらいのタウンのうち、いくつか消えてもおかしくないよね。」

「・・・と言うことも話すだろうし、場合によってはこちらから話そうと思うので、この怪しげな申し出は受けようと思うw」

「「受けるんかい!」」

「・・ギルっちとたかみんは、ホント仲がいいよね。」

「「様付けのキャラには言われたくない!!」」

・・・とまぁ、そんな感じでこの日の「ボルケーノ」会議は過ぎていきましたとさ・・


― それから数日後。―


前回と同じ面子が揃ったところで(ほぼ毎日揃うが・・)、ライアスは言った。

「「ギルマス会議」正式な日程決まった。・・ただ、人数が多すぎるとサーバーがパンクするかも知れないので、各ギルド3人までときた。・・・出たい人はいるかな?」

「面白そうなので是非!!」

「その日程だとINできそうにないから辞退で。」

「・・すまないけど、別件があるので。」

「ちょっとその時間は他にやることがあるんで。」

「気が乗らない・・」

「・・できれば出たいです。」

「・・・決まりだな。では、当日参加するのはエル様とNaoさんということで先方に伝えときます。」

「うぃっす!」

「マスター、よろしくお願いします。」

こうして、CFO最強と言われるギルド「ボルケーノ」の「ギルマス会議」参加メンバーが決まった。



―ほぼ同じ頃―


「「ギルマス会議」行きたい人いる?」

「時間的にログイン無理w」

「リアルで用事があるんでパスで。」

「良ければいきたいです。」

「・・迷惑でなければ行きたいです。」

・・こりゃまた、一発で決まったね。

「OK。ではクレスとミアさん、時間前にはログインお願いします。」

「わかりました。」

「よろしくお願いします、マスター。」

GLV5ギルド「ともしび亭」においても、「ギルマス会議」参加メンバーが決まった。



―「第一回ギルマス会議」開始30分前―


 「ギルマス会議」は、「クロスナイツ」のギルドタウン・・ではなく、そこにあるクロスナイツのギルドマスター、「アシュ―のマイルーム」にて行われる。だが「マイルーム」には誰でも入れるわけではない。ルームのオーナーであるプレイヤーと「フレンドあるいは同じギルド所属関係」でなければならない。

 よって、他ギルドからのギルマス会議参加者がアシューのルームに入るには、フレンド関係になるしかない。そのフレンド登録は「ウィンドウ画面でプレイヤー名を直接登録」か、「プレイヤーを直接クリックすると出てくるフレンド申請」をした後、相手が承諾することでできる。その場にいないプレイヤーを許可するには前者でやるしかないが、後者でやれれば確実で早い。

 ・・そこで会議参加プレイヤーでアシューとフレンド関係にないプレイヤーは、一旦「クロスナイツギルドタウン」に集まるようになっていた。


「ギルマス会議参加の方々ですか?「初心者支援」ギルドマスターのアンナと言います。よろしくお願いします。」

「こちらこそ~「まったり」ギルマスのほわっとです。よろしく!」

「初めまして。「NightMare」ギルドマスターをやらせていただいてますKAIと言います。宜しくお願いします。」

「・・「CCC」ギルマス。霞。今日はよろしく。」

 今現在、会議参加ギルドで集まっているのはこの4ギルドで15人ほど。参加できるのは各ギルド3人までだが、今ここにいる分への制約はない。参加しないメンバーは見送りか興味本位で来たのだろう。まずギルマス同士が挨拶した後、一緒に来ていた他メンバー同士が挨拶する。・・中には野良で会っていたり、すでにフレンドになっている人たちもいるようだ。また、ここにいるのはこの4ギルドだけではない。無所属あるいは他ギルド所属メンバーも数人いた。・・彼ら彼女らがたまたま通りかかったのか、参加するのに挨拶していないかは会議が始まればわかることだ。

「あ、もう結構集まってますね。こんばんは。ギルド「ボルケーノ」ギルドマスターのライアスです。宜しくお願いします。」


(・・うわ、空気がちょっと固まった・・)

 挨拶に対する返しの挨拶には、その相手によってレスポンスがかかる。おそらく来るであろうと身構えていても、実際に来たら気後れしたのだろう。・・このおそらくCFO最強プレイヤーに。

「・・初めまして。「初心者支援」ギルドマスターのアンナです。宜しくお願いします。」

「「まったり」ギルマスのほわっと。よろしくです。」

「「NightMare」ギルドマスターのKAIです。宜しくお願いします。」

・・・が、最後の一人は違う挨拶だった。

「・・あ、ライアスさん来た。こんばんは。ひさしぶり~」

「お、CCCも参加か~。長官さんも今日は一緒に楽しもう。」

「そう心がけます。ライアスさん。」

この会話に周囲が騒めく感。・・それを代表する形で私は聞かずにはいられなかった。

「えっと、マスターと霞さん、長官さんはお知合いなんですか?」

「ん~~・・サーバー統合前に何回か野良で会ったり、80D廻ったりしたことがあったんだよ。」

「ライアスさんには、たびたびお世話になってます。」

「なのに、統合前は同じ80だったのにもう90って、早すぎる・・」

「・・まぁ、統合後はギルドほぼそっちのけでLV上げ優先で頑張ったから。」


(雲の上の会話だ・・)

・・などとそこにいたプレイヤーの多くが思っていた頃、続いてタウンに入ってきたのは、

「こんばんは~「ともしび亭」の魚の人です。宜しくお願いします。」


(・・あ、これ、マスターの容姿に引いてる感・・)

と、私、ミアは思わずにはいられなかった。そもそも魚人族と言う種族は、・・端的に「運営のお遊びだろ」と言う人がいるくらい、なんて言うか見た目がグロい。・・おまけに今のマスターは、サングラスをかけて背中に変な飾りをつけたりして、・・・ありていに言ってセンスがない。・・・同じギルメンとしてちょっと恥ずかしいです・・・

「えと、「まったり」のほわっとです。よろしく。」

「・・・「CCC」のギルマス。霞。・・その恰好はないわ~」

あ、正直なマスターさんもいる。

「はじめまして。「NightMare」のKAIです。・・「魚の人」さんの勧誘の叫び、結構好きですよ^^ よろしくお願いします。」

「あ、嬉しいです。ありがとうございます^^」

(・・なんと奇特な人もいたもんだ。・・・とは言い切れないかなぁ。)

などと思っていると、

「こんばんは。魚さん。たびたびお世話になってます。」

「アンナさん。こちらこそいつもありがとうございます。」

・・と言った会話が。え、どゆこと?

「・・「ともしび亭」と「初心者支援」間に何かあるのかな?」

と聞いたのは、・・意外なことにライアスさん。

「あ~~っと。うちに加入希望の中で、例えば、大所帯希望だったり活動時間が昼や土日中心でCFO初心者っぽい人を、たまに「初心者支援」さんに紹介しているんですよ。」

「私も逆にあんまり人数が多くないことを希望してて、夜中心の人をたまに紹介してるんです。・・あと、魚さんのシャウトに惚れ込んだ人とか・・」

「・・後者は自分、覚えないですけど?」

「そりゃあ、言わないでしょ。その人のために」

「どゆこと!?」

「www」

などと言う会話が。う~ん、そういったことを

「・・そんなことやってたんですね。・・・お久しぶりです。魚の人さん。」


そう挨拶したのは、私、Nao。

「・・あっと、Naoさん、こんばんは。」

この返事に私は少し「おや?」となった。たいしたことじゃないんだけど・・。

・・それにしても、LVは50のまま。本当に上げないんだ、この人。


「マスターとボルケーノのNaoさんはお知り合いなんですか?」

 と、今度は「ともしび亭」のギルドチャットからの質問。ああ、忙しい。

「以前、2鯖時代に体験で入ってくれたことがあったんだ。・・まぁ、自分と対戦したら、すぐに脱退したけど。」

「対戦ですか?どちらが勝ったんです?」

「・・・Naoさん。10以上LV上の相手に勝てるかと言い訳を言わせて欲しい(;;)」

「それは^^;」

「まぁ、自分のことより、ミアさんはライアス氏に挨拶しなくていいのん?」

「あ、そうですね。」

「ん?」とちょっと違和感があったけど、私は以前、短い期間だけどお世話になったライアスさんに挨拶する。

「お久しぶりです、ライアスさん。その節はボルケーノでお世話になりました。」

「ミアさん。こちらこそお久しぶりです。」

この会話に周囲のざわめきを感じた。・・んだよね~w


「・・以前にいた方なんですね。今お世話になっていますNaoと言います。宜しくお願いします。」

「こちらこそ初めまして。ミアと言います。よろしくお願いします。」


 こうして、Naoとミアの二人は出会った。



「こんばんは。本日はお忙しい中、「ギルマス会議」に集まっていただき、ありがとうございます。」

そう挨拶したのは、「ギルマス会議」の提案者にして主催者である、GLV8ギルド「クロスナイツ」のギルドマスターであるアシュ―。

「・・早速ですが、メールでお伝えした通り、会議参加者の方で自分とフレンドでない方にはフレンド申請を飛ばしますので、承諾して「アシュ―」のマイルームに入ってください。フレンドは本会議終了後、解除して頂いても構いません。」

「もし参加者でフレンド申請が来ない方がいたら、すいませんが、私まで内緒で教えてください。参加者リストを確認した上で、該当の方のみフレンドを飛ばさせていただきます。よろしいでしょうか?」

「はい」や「了解です」と言った返事が飛び交う。そんな中、アシュ―は該当するプレイヤーを確認しては「フレンド申請」を送り、



― 後のCFOで語り草となる「第一回ギルマス会議」が始まろうとしていた ―

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