09:通信の相手

第7宇宙歴124年/ 9月10日/ 雷雨



 今日、不思議なことがおきた。

 突然、遠距離用の通信回線が誰かと繋がったのだ。


 相手は誰かはわからない。でも通信をつないできたということは、私と会話をしたいのだろう。


「もしもし」


 試しにそう呼びかけてみたが、返事はなかった。

 よくキャシーが携帯端末を手に「また悪戯電話がかかってきた!」と騒いでいるが、もしかしたらこれもその一種なのかもしれない。


「いたずらはだめですよ。それにこの回線は特殊回線なので通信料が高いですよ」


 かけられた私は良いけれど、知らない誰かは沢山のお金を取られるに違いない。

 心配になって忠告すると、声は聞こえてこないのに何故だかふっと笑われたような気がした。


 そしてその笑い方は、ウェイン中佐のものに似ている気がした。

 困ったような、ちょっと寂しそうな、あの笑顔が脳裏に浮かんでは消える。


「……中佐、ですか?」


 尋ねても、答えはなかった。

 でも間違いない気がして、私は嬉しくなる。


「中佐は、夏休み楽しかったですか? 私はキャシーと色々なところに行って、とても楽しかったです」


 答えはないけれど、聞いてくれている気がして私はしゃべり続ける。


 キャンプのことも、旅行のことも、初めて着た水着のことも全部話した。

 普段はぼんやりしがちだったのに、そこにウェイン中佐がいると思うと、私は記憶したことをすぐに引き出せた。

 でも楽しい事を沢山伝えたのに、次第に私は悲しい気持ちになってくる。


「……すごく、すごく楽しかったんです」


 でも同じくらい、ウェイン中佐に会えなくて寂しかったんです。


 その言葉は言ってはいけない気がした。

 けれど彼に会えないことも、会話がないこともやっぱりつらい。

 だから私はアンドロイドらしくない我が儘を口にしてしまった。


「……会いたいです。もう一回でいいから、中佐に会いたいです」


 駄目ですかと尋ねる前に、通信は切れてしまった。


 途端に寂しい気持ちが溢れて、私はウェイン中佐との通信を繋げようとした。

 お金がかかってもいいと思った。

 ウェイン中佐ともう一度話せるなら、なんだってすると思った。


 けれど通信は、二度と繋がらなかった。

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