第12話 旧型怪人ガラケイダーの最期

「へんしーん」


 今日の舞台も駅前広場。


 いつものように俺は、変身前にテーブルを広げ、カップうどんにお湯を注ぎ、戦いが終わってから食べる準備をした。


 今日の怪人は旧型だ。頭がガラケーの形をしている。奴は俺が正義のしるし赤いスカーフを首に巻くのを見届けると立ち上がった。


「うえへへへへへ、わしはガラケイダーだー」


 だーだーうるさいヤツめ。パカパカケータイの弱点は開閉パカパカするときのヒンジの部分だ。へし折ってやる!


「さあ来い!怪人め!」


 その時だ。


「帰れっ、怪人め」


「お前はガラケーだからペイ払いが出来ないだろ!」


「メッセージアプリも使えないだろ!」


「そうだそうだ!」


 善良なはずの市民がガラケイダーに罵声を浴びせ始め、不穏な空気が流れた。


 この前の戦いで、新型怪人が市民に手を出したせいで、怪人に対する風当たりが強くなっているのだ。


 でもこれはいじめだ。言葉の暴力だ。そして俺は正義のヒーローだ。虐めを許すわけにはいかない!


「やめろ!みんな冷静になれ!」


「なんだと!お前は怪人の肩を持つのか!さては怪人の仲間だな!」


 善良な市民たちは石を拾って俺と怪人に向かって投げ始めた。なんで駅前広場にこんなに石が落ちてるんだ?!


「ヒーローは悪くない、悪いのはわしの仲間だ」


 ガラケイダーは俺をかばって市民の前に立ちふさがった。


 ビシッ


 ガラケイダーの画面が割れた。なんということだ!これはやり過ぎだ!やめさせなければ!


 だが俺は正義のヒーロー、善良な市民を攻撃するわけにはいかない。


「来いっ、採石場に行くぞ!」


 俺はこの場を離れるために、ベスパの後ろにガラケイダーを乗せて走り出した、その時だ!


 ウー ウー


 いつものお巡りさんだ。


「おい!待ちたまえ!原チャリの2人乗りは禁止だぞ!」


「お巡りさん、怪人は道交法適用外って『第3話 橘のおやっさん』の中で言ってたじゃないか!」


「怪人?では、まずはこいつが怪人であることを証明したまえ」


 いや、お巡りさん。どっからどう見ても怪人でしょ?こいつが怪人じゃと思うならそれを証明してくれよ。


「君は何を言っとるんだ。そうではことを証明するのはむずかしいが、そうでことを証明するのは簡単だろ」


 消極的事実の証明は難しいという話か?なんかうまく言いくるめられてるような気がするぞ。


 その時だ!


 ブオーンと非力なエンジンをブン回す音がして、遠くから軽トラがやってきた。


 中から黒タイツの人型ひとがたが2人出てきたのを確認すると、お巡りさんは、


「ほらみろ、怪人であることを証明するのは簡単だったな」


と言って帰って行った。


 お巡りさんが居なくなった途端、卑怯な…いや、善良な市民たちが再び石を投げ始めたので、黒タイツは早く早くと怪人を荷台に載せ軽トラに乗り込み、俺はベスパに飛び乗って採石場に向かった。


 採石場に着くと、ひと足先に来ていた怪人たちが揉めていた。どうやら怪人がひとりでどこかに行こうとしているようだ。


「もういいんだ。ついて来るなっ、ヒーロー。どのみち交換用の部品が無いからわしはもう修理が出来ないのだ。もういいんだ…もう、いいんだ」


 ひび割れた画面に映るガラケイダーの表情は、とても安らかに見えた。


 そして怪人は走って俺たちから離れて行った。追いかけようとすると黒タイツがダメダメと俺を引き留めた。その時だ。


「わしの時代は終わったあ」


 ドーンっ


 採石場の小石を巻き散らかしながら、ガラケイダーは「秘密戦隊ゴレンジャー」第46話の機関車仮面の名台詞をパクり爆発して散っていった。


 俺も黒タイツもしばらく呆然と立ち尽くした。


 時代に合わなくなりつつあった旧型怪人ガラケイダー。自らの立場を嘆き自爆した。なんて残酷な最期だ。


「おい、黒タイツ!」


 黒タイツはビクッとした。


「使えそうな部品を拾い集めるぞ」


 黒タイツはうんうんと頷いた。俺は部品を拾いながら言った。


「帰ったら産神博士に伝えておけっ!旧型怪人を使い続けられるように、修理用の部品を作り続けろと」


 黒タイツはペコペコとお辞儀をして軽トラで去っていった。表情はわからないが、その後ろ姿は泣いているように見えた。


 黒タイツに貰ったガラケイダーの部品を持って、俺は橘のおやっさんのスナックに行った。


「それは何だい?」


 それは携帯を振動させるためのモーターと振動子だった。


 電圧を調節して電池に繋ぐとブーンと震えた。


 それは、まだガラケイダーが生きているかのようだった。


「ガラケイダーの奴め」


 その日から俺は、街の中でまだ大切にガラケーを使っている人を見ると、俺をかばってくれたガラケイダーに思いを馳せるようになった。


 時の流れは残酷だ。


 日々技術は進歩し、新しいものが開発され古いものが消えていく。


 そして時の流れは人々の心も変えていく。


 怪人に敵意を向け始めた善良な市民たち。恐ろしい悪の秘密結社「優しくしてね」は大勢の民衆を敵に回してしまったのだ。


 街には不穏な空気が流れ始めた。頑張れ!正義のヒーロー!悪の秘密結社と民衆の板挟みになって戦い続けるのだ!


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