第20日-3 ピンチ!
「さて、何処へ行ったものか……」
怪しいと目をつけていた(らしい)地下室で興味深いものは見つかったものの、せっかく忍び込んだんだから、もっと確定的なものが欲しい。できればカミロに繋がるような。
「資料を探すなら、居室のほうでしょう。しかし、オーパーツを見つけるのであれば、実験室のほうが可能性が高い。欲しいのは資料ですが……」
「オーパーツを探そうぜ。まずはものを見ないことには、話にならない」
ここで所持しているオーパーツが〈クリスタレス〉か、それともただの〈スタンダード〉か、その見極めができていないのだ。これが分かるだけでも、捜査は大きく進展する。
「ミツルくん、案内頼むよ」
『間取り図からして、二階北西部の実験室が怪しいと思われます。通路を挟んだ向かい側には『準備室』と書かれた部屋がありますし、実験室、準備室ともに窓がない』
「外から見られるのを拒んだ造りってか。行ってみようぜ」
ミツルによれば、二階には従業員が何名か残っているとのことで、俺たちは奴らに見つからないように一階を大きく回って西側に行き、それから階段を上っていくことにした。……え? どうしてミツルくんそんなことを知ってんだって? それは、彼がこの建物の監視カメラを覗き込んでいるからだそうだ。まったく恐ろしい。
辿りついた部屋は、実験室とは思えない、防火扉のような重そうな金属の扉が設置されていた。扉の表には『使用中』と書かれたマグネットが貼られている。だっつーのに、リュウライはその扉を開けた。そっと中を覗き込む。しかし、身体を半分潜らせたところで舌打ちし、すぐに扉を閉めてしまった。
「駄目です。動作実験をするような場所なのでしょう。部屋の隅に台がある他は、だだっ広いスペースがあるだけの部屋です。幸い中に誰もいませんでしたが、調べている間に誰かが来たらすぐに見つかってしまいます」
俺はドアを開けてる間に誰かに見つかりやしないかとひやひやしていたんだがね。
「……んじゃあ、こっちは?」
向かい側の準備室の金属扉を指差す。
「……入ってみましょう」
ドアノブに鍵穴が設けられていたが、鍵はかけられていなかった。リュウライが実験室のときと同じような慎重さで扉を開け、今度はすっと中に身体を滑り込ませた。リュウライのOKを確認して、俺も後に続く。
「これは……」
リュウライのペンライトで照らし出された光景に驚く。さっき行った資料室のようにメタルラックの立ち並んだ部屋。棚の上に乗るものを見ると思わず呻きが漏れた。一見、骨董品。だが、同じものを見慣れた俺らには一目瞭然。
どれもこれも、オーパーツだ。ここにあるのが当たり前だと言わんばかりに、堂々と鎮座している。
「ずいぶんと、あるな」
棚はこの部屋に七つ。一つ五段から六段。大小様々、隙間の大きさも様々だが、空いている段はないようだった。
棚を埋め尽くすだけの数が、ここにある。
「これ……大問題だぜ」
ざっと見て百近い違法品がこんなところにあるわけだ。今すぐにガサ入れしたいレベル。こんなにたくさんのもの、
だが、後悔している暇はない。
パシャ、パシャ、とリュウライの手元が光る。この有り様を撮影しているようだ。
俺はする事もないので、そのオーパーツ一つ一つを観察してみた。といっても、見た目はちょっと変わった道具。研究者じゃない俺が、見ただけでどんなオーパーツなのか判断できるわけもない――
――のだが。さすがにオープライトがないやつは、俺でも見分けがついてしまう。
「リュウ、〈クリスタレス〉があるぜ」
俺の手招きに応じて写真撮影をやめたリュウライがこそこそとこちらへ来たので、手に持っていたものを渡す。メイが持っていたような卵型の器具だ。こういう風に同じものが見つかることもたまにある。もしかすると、オーパーツが作られた時代には、こういった量産品も多くあるのかもしれない。……時間操作系のものが量産されるっていうのは一体どういう状況なのか、気になりはするけれども。
「〈クリスタレス〉があるということは……」
「カミロと繋がりがあるかもな」
「マーティアス・ロッシとの関係もあるかもしれません」
RT理論、〈クリスタレス〉、両方に関わりがあったらしいもんな。……とはいえ、どうしてそこまで死んだ人間にこだわるんだ? 普段のリュウライなら、必要なら調べるが基本無関心のスタンスを取る気もするんだが。
「他にも何か……」
ないものか、と二人して辺りを見回したとき。
外からなにやら話し声が聞こえた。リュウライの指示に従い、屈み込んで棚の陰に隠れる。緊張から握りしめた手に力を込めて……そこで俺は、とんでもない失態に気がついた。
不覚にも手にした〈クリスタレス〉を戻し忘れて、ずっと握ったままでいたのでした!
がちゃり、と部屋の扉が開く。ひいぃ、という悲鳴をとっさに飲み込んだ俺は偉いと思う。
入ってきたのは、研究員らしき男二人だった。なんとまあ真面目なことに残業していたらしい。……まあ、向かいの実験室が稼働中だっていうし、夜に仕事をするってこともあるんだろう。お疲れなことで。俺も、ペナルティの高い無賃自主残業中ですけど。
さて、困ったことにこの研究員二人、話しながらこちらにやってくる。俺らは身を屈めたままこそこそと点対称の位置となるように動いていくわけだが……。
「あれ? ないなぁ」
よりによってその研究員は、俺が持っているオーパーツが置いてあった場所を覗き込んでそう言うのだから、背筋が凍った。
「またあの人が持っていきましたかね」
「そうかもな。夜しか来ないからなぁ、あの人」
あの人って誰だろう、と思いながら、必死に祈る。どうかこちらに気が付きませんように。三年ぶりくらいに真剣に神様に祈った。
「どうします? 三○五、行きますか?」
「……いやあ、止めとくよ。邪魔するとあの人怖いし。朝になったら返してくれるだろ」
研究員たちはお気楽にそう言って、あっさりと出ていってくれた。何も持ち出さなかったようだ。だったら来るんじゃねーよ、とも思うわけだが、とにかく――
「……危なかった」
オーパーツを置き、床に両手を付いて息を吐く。
「でも、お手柄です。怪しそうな場所、聞き出せましたよ」
リュウライくんの優しいところは、こういうときに俺を罵倒しないところだ。俺がこのオーパーツを握りしめていることに気付いたときに、「スタンガンで気絶させたろか」って目で見ていたことは不問としておく。
「行ってみんの? その三○五」
「夜しか来ない研究員……気になりませんか?」
そりゃ、なるけれども。
夜にしか来ないとなると、ここで働いていることをばれたくない、ばれたら困るような立場の人間だという可能性があるわけだ。例えば、何処かでっかい企業のそれなりのポジションの人間とかね。
「中に入って貴重な資料が手に入れば万々歳。そうでなくても、顔や身元が分かれば充分な手掛かりになります」
そうは言うけれど、不安は往々にして付き纏う。さっき実験室を覗き込んだとき、偶然職員は居なかった。準備室で隠れた俺たちが、俺がポカしたのにもかかわらず見つからずに済んだのも、幸運の女神様の賜物だ。果たしてこれから先、その幸運に見放されずにいられるだろうか。
しかも、出ていった彼らの話によると、今間違いなくその人物ここにいる。これまで以上に鉢合わせの危険があるわけだ。
だけど。
「慣れていますから、大丈夫です」
何故か身を乗り出し気味にリュウライは言う。らしくない安請け合い感。えらい気合が入ってるみたいだが、なんかあるのかね。
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