勇者召喚の生贄にされた奴隷の俺が勇者になったらクズ王がマジギレした話(クズ王の来世はミミズで決定)

鏡銀鉢

第1話 勇者召喚のための生贄にされたら俺自身が勇者になった

「サトリ、お前には生贄になってもらう」


 朝、奴隷部屋から、王様の謁見の間まで引っ張ってこられた俺は、奴隷頭の男にそう言われた。


 周りには、豪華な服や鎧に身を包んだ人たちが並んでいる。


 きっと、大臣とか、隊長とか、そういう肩書の人たちだと思う。よく知らないけど。


「待ってくださいお頭、生贄ってなんですか? それにどうして俺が、何かミスをしてしまいましたか!?」


 わけがわからず、俺は両手を両足を縛られ、赤絨毯の上に転がされたまま、奴隷頭に尋ねた。


 普段、俺に仕事を命令して、ことあるごとに難癖をつけては殴ってくるお頭は、得意げに鼻を鳴らした。


「貴様も、世界中で魔獣の活動が活性化し、一体で小国をも滅ぼすと言われる災害獣が出現しているのは知っているだろう? その解決のため、四大大国の一つである我がフリューリンク王国で、異世界勇者召喚の儀式を行うことにした」

「勇者、召喚ですか?」


「そうだ。千年前、今と同じように世界中に魔獣と災害獣が溢れた時も、異世界から勇者を召喚して、世界を救ってもらったと言われている。この度、学者様がたが古文書を解読し、その儀式を再現する運びとなったのだ」

「でも、それでどうして俺が生贄に?」


「古文書によれば、生贄は若者、だが若すぎない者が望ましいとされている。サトリ、お前は奴隷の中で一番若い、今年で15歳だ。子供でも大人でもないお前は、生贄に最適なのだ。異世界から勇者を召喚し、この世界を救うための、人柱となるがいい」

「嫌だ!」


 ほとんど反射的に、俺は絨毯の上でのたうちながら叫んだ。


「お願いです。今まで以上に働きますから! 頑張りますから! だからどうか殺さないでください!」

「口を慎め、陛下の御前だぞ! 本当ならば貴様どころか、この私でさえ、一生この部屋に、いや、陛下に拝謁などできないのだぞ! 身に余る幸福を感謝するどころか不平を言うとは何事だ!」


 視線で、長い赤絨毯を追っていくと、短い階段と玉座がある。


 その上には、金ぴかの王冠を被ったおじさんが座っている。


 きっと、あの人がこの国の国王、クレイズ王だろう。


 冷たい眼差しで、俺のことを無言で見下ろしてくる。


 その威圧感が怖くて、まるで俺は命を握られているように委縮してしまう。


 謁見の間に集まった人たちが、口々に囁いた。


「やれやれ、なんて見苦しい。自分の立場が分かっているのか?」

「奴隷の分際で。いや、頭の悪い奴隷だから理解できないのだろう」

「所詮、奴隷など喋る家畜。獣に人のことわりなど通じんよ」

「ほんと、生き汚い。連れてくるときにさるぐつわでもしておけばいいのに」

「言ってやるな。こんなことぐらいにしか役に立たない哀れな存在なのだ」

「くくく、前世、どれほど魂を汚せば奴隷に生まれるのやら」

「これ以上アレを見るのは不愉快だ。さっさと殺せ」


 貴族や王族、神官や騎士であろう人々の言いように、いくつもの想いが生まれて、だけど言葉にすることができなかった。


 あえて一言で言うなら【りふじん】の四文字だろう。


 お頭は憤慨しながら、声を荒立てた。


「まったく、これだから下賤な輩は嫌いなんだ! 頭の中は自分のことだけ。貴様は世界のために自らが犠牲になろうという崇高な志はないのか!? 世界を救う糧となれる。これは、とても名誉なことなのだ! そんなこともわからないのか!?」

「そんなに名誉なことなら、俺みたいな奴隷じゃなくて貴族の子供から選ぶべきなんじゃ」

「黙れぇ!」


 お頭は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「奴隷頭よ」


 王様が口を開くと、お頭は背筋を伸ばして固まった。


「いつまで手間取っておる。奴隷の了解を取る必要などない。疾く儀式を初めよ」

「ははっ! サトリ、貴様はおとなしくしていろ!」

「ぐっ……」


 お頭の鉄拳が、俺の頬を打ち据えた。


 これが最後だからか、いつも以上に力もこもった拳の痛みは凄かった。


 頬に鋭い痛みが走ったまま抜けなくて、内側から金づちでゴンゴンと叩かれているような痛みも響く。


 その一発で、俺の反骨心は挫けてしまう。


 絨毯に横たわったまま、熱い涙腺から溢れる涙を我慢することもできず、悔しくて歯を食いしばった。


 ――くそ、くそっ、なんで、どうして俺がこんな目に……。


 物心ついた時には、もうこのお城で働いていた。


 一番年下の俺は、他の奴隷たちからも、こき使われた。


 面倒な仕事、辛い仕事はすべて『こういうのは下っ端の仕事だ』と言って押し付けられて、自分のミスは俺のせいにして、代わりに俺が罰せられた。


 なにかにつけては『下っ端の分際で』、そう言って、同じ奴隷からも殴られた。


 家来の人が家族の話をしているのを聞くたび、城下町を歩く親子連れを見るたびに思った。


 どうして自分は、ああいうふうに生まれなかったんだろうって。


 やがて、神官風の格好をした人たちが、俺を取り囲んで、呪文を唱え始めた。


 赤絨毯に光のラインが奔って、魔法陣を描いていく。


 それで、自分の死を悟った。


 この魔法陣が発動したら、きっと俺は死ぬんだ。


 ずっと辛くて、苦しくて、いつか幸せになれるのか。


 ここじゃないどこかで、楽しく暮らせる日が来たらいい。


 そんな風に思いながら頑張ってきて、でも、そんな未来はなかった。


 魔法陣の光が激しくなって、謁見の間に無数の蛍が飛んでいるように、淡い光が躍る。


 みんな、感嘆の声を上げ、俺に、いや、魔法陣に見入っている。


 ――生まれたくなかった! ただ不幸なだけの毎日で、苦しむためだけの人生なら生まれたくなかった! 生まれたくなかった!


 視界が白い光に覆われて、王様や大臣、偉い人たちの姿が見えなくなると、俺は自分の全てをぶつけるように、心の底で叫んだ。


 ――神様でも創造主でもなんでもいい。この世にそういうものが存在するなら……なんで俺を作ったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!



「それはね、ワタシたちに会うためよ」



 背後からの甘い囁きに、俺はハッとして上半身を起こした。


 首を回して背中越しに後ろを振り返ると、黒い人影が立っていた。


 その左右に一人、また一人、青や金色の人影が立ち上がっていく。


 影は俺を取り囲むように次々現れ、とうとう俺の正面には赤い人影が立ち上がって、俺は完全に包囲されてしまった。


 影が輪郭と厚みを増していく。

 全身に炎をまとい、赤くて長い髪は風も無いのに揺らめいて、怪しく宙を漂っている。

 血の色をした瞳は人のソレとは違っていて、宝石のように輝きながら、狼のように鋭い視線だった。


 周囲から、悲鳴が上がった。


 みんな、突如現れた六人の威容に怯え、腰を抜かしている。


 玉座の王様も、無表情を崩して、顔が引き攣っている。


 でも、俺にはそんな余裕はなかった。


 だって、炎の人影の腰がくびれて、その下が大きく張りだして、胸元が、どんどん大きく膨らんでいくから。


 ――え? なにこれ、いや、おっぱいがあるから女の人なんだろうけど。でも、え、おっぱいって、こんなに大きくなるものだっけ?


 食事の少ない女奴隷よりも、食事に困らない貴族の女性のほうが胸が大きい傾向はあるけど、炎の女性が揺らすおっぱいは、比較にならないぐらい大きかった。


 膨らんでいる、というよりも、ボールがふたつ、くっついているみたいだった。


 ――これがいわゆる巨乳、いや、豊乳というものなのか。


 しかも、炎が消えた今、その豊乳を包むのは、踊り子の衣装にしか見えない、ブラジャー一枚きりだった。


 深い谷間が、丸見えだ。


 ――すごい、本当にすごい。おっぱいってこんな、すごい。とにかくすごい。これはなんだろう? どういう状況だろう? 俺、死ぬんじゃなかったっけ? わけがわからない。


「えっちだなぁ。キミ、おっぱい好きなの?」

「あ、ごめ、ッ……」


 女性に対して失礼だったと、俺はすぐに謝ろうと顔を上げて絶句した。


 俺を見つめていたのは、全身の血が沸騰するような美少女だった。


 軽く、魂を吸い取られたような虚脱感で、全身から力が抜けていく。


 生命力に溢れた、白くてみずみずしい肌に、エネルギッシュで愛らしい瞳、貴族様のドレスに使われるどんな布地や繊維よりも艶やかで滑らかな長い髪。


 彼女を目にして、恋に落ちない人はいないだろう。


 世界三大美女を決めるなら、まず最初に彼女の名前が挙がり、残りの二人をどうするか、という議論が始まるだろう。


「もう、見過ぎだってば。でも、ボクを怖がらなかったのは気に入ったよ。ボクは炎の精霊イフリータ、だけどキミは、リータって呼んでいいよ」

「え、は、はい!」

「そしてぇ」


 リータの視線が、俺の後ろに向いた。

 振り返って、俺はまた絶句した。

 そこには、リータに負けず劣らずの美少女が、五人も立っていた。

 俺を取り囲むように佇む彼女たちは、次々に口を開いた。


「自分は水の精霊、ウンディーネであります!」

「わたしは土の精霊、ノームなのです」

「あたしは風の精霊、シルフよ!」

「私はヴァルキリー、癒しの精霊よ」


 そう言って、彼女が俺の頬に触れると、お頭から殴られた痛みが嘘のように消えた。


「そしてワタシが闇の精霊でみんなの姉、リリス。ワタシたち六人が、アナタを世界最強にして最高の【勇者】にしてあげるわ」


 リリスの一言に、謁見の間は騒然とした。


 俺は、絶句したまま固まり続けた。


 ――俺が、勇者?


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 本作を読んでくださり、ありがとうございます。

 本作は予告なく、【タイトル】【キャッチコピー】を変えることがあります。

 本作を続けて読みたいと思ってくれる場合は、フォロー、または作者の名前、【鏡銀鉢】での検索をお願いします。

 

 また、本作とは別に、

【立場逆転・島流されたらスクールカーストが崩壊しました】

【美少女テロリストたちにゲッツされました! 修学旅行中にハイジャック!?】

 という作品も投稿しているので、飛沫潰しに読んでいただければと思います。

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