第6話 軽木の纏う諸事情05


 帰途の途中。


 スマホが鳴った。


 ライン。


「なんならこっちで支援するぞ」


 とは久遠のコメントだった。


 うーん……友情万歳。


 正義超人ではないけど、友情パワーはこの際テンションの問題に活を入れてくれる。


 とはいえ、何と返すべきか?


 表向きこっちの不幸を笑い飛ばしておきながら、SNSで心配してくれる他称ツンデレ友人は、何かとイケメンさんだ。


「何とかなるよ」


 僕の方は、てきと~な返事。


 生きていくのは大変だけども、そこは僕の大変であって久遠の大変ではない。


「俺は良いけどさ」


 嘘吐け。


「誰が駄目なの?」


「四谷。かなり心配げ」


「いい友達だね」


「否定はせん」


 どうやら同意見の御様子。


「ただな」


「良い人過ぎるのがね」


「てかお前はどうなんだ?」


「それこそ何が?」


「青写真というか」


「絶望一色かな」


 さすがに四谷には言えないけど……まぁ久遠になら在りだろう。


「お前様の友達甲斐のない……」


「心配をかけてるのは謝るよ」


「ズレてんだよなぁ」


 何がでしょ?


「辛くなったら言えよ」


「これ以上があるなら想定は一つだけど」


「まぁな」


 わかられちゃってるらしい。


「四谷にも平気だって言っておいて」


「超嘘つきじゃねえか」


「それで安穏が買えるなら安いでしょ? ローコストで保障掛けられるんだから、ソッチの方が良いと思わない?」


「おまさんはほんなこつ」


「方言になるほど?」


「心配してんだよ。知ってるだろうけども」


 うん、知ってる。


「何にせよ今すぐ死ぬわけじゃないし。今すぐ死ぬ人間に比べれば、まだしもこっちの方が幸せだと思えるね」


「極論を持ち込むな」


「むにゃ~」


「話を有耶無耶にするな」


 とは言われましても。


 久遠の指摘が的確すぎて反論のしようがない。


 両親を亡くして妹と二人。


 親戚も頼れないし、お金も無いし。


 けど友情に金を持ち出すと十中八九破綻する。


 それは久遠も知っているはずだ。


 あえて……か。


 あるいは、別の意図が有るのか。


 そこまで深くは、突っ込まなかった。


 やぶ蛇になっても困るし、小火が大火になっても……さらに困る。


「ま、嬉しいけどね」


「それだけか?」


「他に何も要らないよ」


「友情万歳」


 ご尤も。


 友情の有り難みは信用問題なので、冬の寒い日に入る風呂のように、困っている時ほど身に染みる。


「司馬が辛いのに助けられないってのも……」


「そこは僕の問題だから」


「四谷にもそう言ったのか?」


「どうだったかなぁ」


 四方山話は憶えていない。


 多分ロクな事は言っていないでファイナルアンサー。


「一応そっちでフォローしといて」


「俺より司馬の領域じゃね?」


「なして?」


「コレを本気で言うしな~」


「何か問題でも?」


「色々とあるんだよ。わざとじゃないだろうな?」


 色々と……ね。


 しかし少し首を傾げる。


 はて?


 わざと?


「初七日はどうするんだ?」


「仏事を営む暇がない」


 真理だ。


 南無三宝。


「このままだと死体で発見されそうなフラグを感じるんだが」


「ルリが居るから孤独死は無いよ」


「トラウマを植え付けるぞ」


「それはそうだね。困ったな」


 切実な問題だ。


 ルリに泣かれるのは宜しくない。


 その意味でなら、確かに僕は意地でも死ねなかった。


「もし困ったら何でも言え」


「陳情?」


「就職先を融通するくらいなら名刺切っていいぞ?」


「その友情に乾杯」


 久遠グループで働けるなら、ソレも良いかもしれません。

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