第2話 軽木の纏う諸事情01


「どうしたものか」


 僕こと司馬軽木しばかるきは半ば呆然となる。


 黒のスーツ。


 先まで黒のネクタイをしていたが、今は解いている。


 色々と疲れた。


 式が終われば、どっと疲労が襲ってくる。


 さっきまで喪主をしていたのだ。


 葬式。


 そう呼ばれる儀式。


 死者を送り、悼むためのモノ。


 さすがに十全に喪主が出来た自信は無いけど、やれるだけはやったつもりで……正直な話をしてしまえば、苦労ばかりなり。


 ちなみに。


 ――対象は両親。


 ちち義母はは


 交通事情でサクッとお亡くなりに。


 殊更珍しくもない。


 地方新聞には載るだろうけど、結局のところ、そのニュースを読んだ人間が両親らの不幸に心を痛めるか?


 テーゼだ。


 で、残されたのは……僕と、義母の忘れ形見。


司馬しばルリ』


 そう呼ばれる少女。


 僕の義妹で、少し前から唯一の家族と相成った人間。


 葬式には参加していない。


 小学生だから……というのもあるが、別の要因もないわけではない。


 ちょっとデリケートな問題なので、あまり無理もさせられない。


 それに可愛い義妹なので、何をやっても許せちゃうお兄ちゃん心。




 閑話休題。


 後は、書類の整理と遺産の清算。


 親戚一同は、さっぱり当てにならない。


「蛇蝎の如く」


 と言えるほど嫌われている。


 父方も母方も。


「南無阿弥陀仏」


 祈れば天国に行けるらしいけど、さてどうなるやら。


 とりあえず疲れた。


 遺産と保険については担当と税理士に相談するとして、今日の処は喪主でいっぱいいっぱいにしておこう。


「僕はともあれルリがね」


 心境が心配だ。


 さすがに両親に死なれると、精神にも刺さる。


 なおルリは、あまり心が強くない。


「御機嫌を取りますか」


 マイホームはルリの私室。


 その扉をノックする。


「もしもし。僕だけど」


 扉にはポップでキャッチーな掛け物。


「ルリの部屋」


 愛らしい文字で、そう書かれていた。


 カチャリとドアが開いた。


「あう……お兄ちゃん……」


 美少女が居た。


 兄の贔屓目かも知れないけど……ルリのためなら余裕で贔屓できる僕でした。


 白い髪と赤い瞳。


 アルビノ……と呼ばれる容姿だ。


 何かしら遺伝子の悪戯があったのか。


 あるいは神が設計したのか。


 ミケランジェロでも再現出来ないほど整った顔を持つ……愛らしい妹。


 ルリだ。


 年齢的には小学生。


 色々と悩むことのある多感な時期。


 そこに加えて両親の死去と来る。


「大丈夫?」


 ただ一人の家族となった僕が頭を撫でると、


「……っ」


 ギュッとルリは僕に抱きついてきた。


 丁度僕の胸元辺りの身長。


「お兄ちゃんは……大丈夫……?」


「あまり」


 安心させるために嘘を吐くべきかとも思ったけど、どちらにせよ強がりにしか映らないだろう。


「私は……怖い……」


「そっか」


 クシャッとシルクの髪を撫でる。


「お葬式……出られなかった……」


「しょうがないよ」


 本当に……しょうがない……。


「ルリはルリのペースでゆっくり歩けば良い」


「お父さんと……お母さんは……怒らない……?」


「度量の深い人達ですので」


 サクリと……けれど他に言い様もなく。


「私たちは……これから……どうなるの……?」


「ちゃんと護ってあげるからルリが気にすることじゃない」


「でも……」


「大丈夫で心丈夫」


 撫で撫で。


 ルリのためなら火の中、水の中。


「お兄ちゃんは……強いね……」


「ルリのためなら幾らでも」


「お兄ちゃん……」


「何?」


「お兄ちゃんは……死なないでね……?」


「いつかは死ぬけど」


「あう……」


「なるたけ先送りにしたいよね」


「だよ」


 抱擁の力が強まった。


 何に畏れているのか……までは把握できないけど。

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