塞の神様


 言われた通り参拝したりしながら、壱花たちは境内の中を見て回っていた。


 階段のところに立ち、今来た道を見る。


「山の中に突然、広くて立派な道がと思ったんですよねー」


 あちこち欠けた古いコンクリートの道がずっと続いている。


「昔はお正月やお盆に縁日とか立ってたのかもしれませんね」

と壱花はその道の両脇に並ぶ屋台を想像した。


 この辺りも昔は若い人や子どもがもっと住んでいたのかもしれない。


 今はあやかしばかりだが。


 階段を下り、その参道の方に向かおうとしたとき、参道の脇の大きな木の根元に昔の陶器などが捨てられているのに気がついた。


「ゴミ捨て場になってるのか?」

とそれを見た冨樫が訊いてくる。


 そういえば、冨樫にはさっきの男は見えていなかったのかもしれないが、敢えて突っ込んで訊いてこなかったな、と思いながら、壱花は言う。


「だったら、さっきの宮司さんが片付けてるんじゃないですか?


 物を集めるのが好きなさいの神様とか居るらしいですよ。

 それで、みんなそこに、いろいろ物をお供えするけど、知らない人が見たらゴミに見えるとか」


 塞の神とは、道端や辻、村との境などに祀られていて、旅人を守ってくれたり、疫病が村に入らないよう見張っていてくれたりする神様だ。


「そういえば、古い石みたいなのがあるな」

と倫太郎は木の根元のうろになっているところを覗き込む。


 苔むした丸い石があった。


「なんの神様かわからないですけど、神様なのかもしれませんね。

 人がそう信じたら、神様になりますもんね」


「でも、この急須とか割れてますが。

 割れたの供えてもいいんですかね?」


 罰当たりじゃないんですか、と上から覗いて冨樫が言う。


「供えているうちに割れたのかもしれないぞ」

と割れた茶色い急須を見ながら倫太郎が言ったそのとき、車が出で行く音がした。


 あの宮司さんだ。


 窓からこちらを見て、ぺこりと頭を下げながら、この参道とは違う道を通って去っていった。


「おーい、そこの者共。

 早く来いー」

と階段の上から、さっきの男が手招きする。


 それを見ながら壱花は呟いた。


「……あやかしに、こっち来いと手招きされると、彼岸から呼ばれてるような感じがありますね」


「とか言いながら行くなよ」

と言いながら、倫太郎も付いてきた。






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