第6話 鬼

 険しい裏山を幻次郎とサヤは登っていく。  

 所々、女の足では歩く事が困難な道を幻次郎は手を引き、時には彼女の体を抱き抱えながら登山した。幻次郎のその優しさにサヤは心ときめかせた。


「あそこだ」幻次郎が指差した先には、祠のような物があった。その隣には幻次郎の祖父がとむらったという鬼の墓。幻次郎はその墓に両手を合わせる。


「やはり……」サヤは腕に巻かれている時計のようなものに指を触れた。その途端、ほこらの近くで小さな崖崩れが起きる。「きゃあ!」サヤが悲鳴を上げる。


「サヤさん!危ない!」幻次郎はサヤの体を庇いながら祠の影に避難する。彼女を守る為に腰に回したつもりの手が彼女の胸の辺りに当たっていた。「い、いやこれは!!」源次郎は慌てて手を離した。サヤは胸を両手で庇いながら真っ赤な顔をして「大丈夫・・・・・・・、気にしないで」と呟いた。

 崖崩れが収まった辺りに目を向けると、昨夜、幻次郎達が戦ったゴーレムとよく似た機械人間が立っている。他のゴーレムと比較すると色合いが赤みかかっているようである。


「やはり、これはお父様のゴーレム」サヤは悲しげな瞳の色を見せた。

「サヤさんの父上ということは、サヤさんも鬼なのか!?」幻次郎は仰天する。

「いいえ、貴方達の言う鬼とは違う。私達は宇宙……、いいえ空の上から来たの。お父様が持ち去った、そのアズリニウムを追って」彼女は幻次郎の刀を指差した。


「それではサヤさん達は天上人ということなのか?それとそのアズ・・・・・・というのは、阿僧祇のことを言っているのか?」幻次郎は腰に備え付けた阿僧祇の柄を握りしめた。


「そう、それはお父様が研究を重ねて色々な合金の長所を凝縮して作られた宇宙最強の金属なの。でも最強の金属な為高温で焼いても、どんな力で折り曲げようとしても形を変える事が出来なかったの。それをそんな綺麗な刀に加工してしまうなんて貴方のお祖父様は一体何者なのかしら?」最強の金属ということはそれを鍛える為に打ちつける金槌よりも強いと云うことである。


「爺さまは、ただの刀鍛冶だ。爺さまはこの刀を鍛える為に、他の仕事をせず婆さまは苦労したと聞いた……」改めて阿僧祇に目をやる。鞘に収まる日本刀は、今は眠りにでもついているかのようであった。


「きっと逃亡しているうちにお父様は、時間の歪みに巻き込まれて、数十年前のこの星に迷い込んだのね。お父様の居場所を突き止める為に、あいつらは血眼になっていたけれど、それじゃあ見つからないはずだわ」


「話は聞かせてもらった!」突然、空から大きな声が聞こえる。


「また、ゴーレムが!」サヤは苦虫を潰したような顔で睨み付ける。


「そこの小僧!!今すぐ、その刀をよこせ!さもないと!」そういうとゴーレムの腹部が開いて何かが出てくる。

「げ、幻次郎!」そこには敵に捕まった咲の姿があった。

「咲!人質とは卑怯な!」幻次郎はか渾身の力でいい放つ。


「なんとでも言うがいい、そのアズリニウムの刀を地面に置いてさがれ!」咲に銃口のような物が向けられる。


「わ、解った!咲は解放してくれ!」幻次郎は阿僧祇をゆっくりと地面に置いた。

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