イタチと猫と龍は、まず猪に会いました。山の獣道を歩いていた猪に、イタチが声をかけました。

 一月一日のことを話すと、猪はしょんぼりした顔になりました。

「イタチ、本当にごめんよ~。あの時、門の前にきみがいたって知ってたら、順番を譲ったよ~。大事な日に遅刻したオレが悪いんだし~」

「ううん。猪の気持ちがわかって、わたしも安心したよ。ありがとう。ケガもしなかったからだいじょうぶ」

「そっか~、よかった~」

 猪に仕返しをしてしまう前に、龍に相談してよかった――と、イタチはほっとしました。

 そして、猪と別れた後、しばらくしてネズミを見つけました。

 自分の巣穴を掃除していたネズミは、猫を見るとびっくりして、巣穴の奥に隠れてしまいました。

「こら、逃げんな!」

「猫、待って!」

 ネズミを追いかけようとする猫を、龍が巣穴の前に頭を下ろして止めました。

「待てねえよ、どけ!」

「落ち着いて。話し合いに来たのに、ネズミを怖がらせるのはまずいよ」

「わたしがネズミを呼んでこようか?」

「うん、頼むよ、イタチ」

 龍が猫を落ち着かせる間、イタチは穴の横からネズミを誘いました。

「ネズミ、猫が話したいことがあるんだって。すぐ終わると思うし、顔を出すだけでもしてくれる?」

「本当……?」

 イタチの言葉を聞くと、ネズミはおそるおそる奥から出てきました。

 ネズミが穴から顔を出すと、龍が頭を浮かせて、猫とネズミが向き合うかたちになりました。

 ――だいじょうぶかなぁ……。

 少し離れて二匹を見比べながら、イタチはハラハラします。ネズミにも仕返しをしたい気持ちは、もうありませんでした。

 猫が深呼吸をして、ネズミに話しかけました。

「おい、ネズミ。おまえ、干支えとを決める競争で一番になりたかったんだってな」

「うん」

「おれだけじゃなくて牛までだましてたって知って、おれは今めちゃくちゃ怒ってんだ」

「ご、ごめんなさい……っ」

 ネズミの声と体が、ぷるぷると震えます。

「声が小さいな。この辺にいるほかの虫とか動物とかにも聞こえるように謝ったら、許してやるよ」

「ごめんなさい! おいらが悪かったです!」

 ネズミは穴からぱっと飛び出して、地面におでこがつくくらいに頭を下げました。

 猫は、ネズミをじーっと見つめて確かめました。

「ほんとに反省してんだな?」

「してるよ、もうしないよっ」

「じゃあ、牛にもあとでちゃんと謝れよな」

「わかったよぉ」

 どうにか話が済んで、イタチと龍は顔を見合わせて笑いました。

 山に冷たい風が吹いても、イタチの心はぽかぽかしていました。

 龍穴りゅうけつへの帰り道、イタチは気になることを龍に聞きました。

「ねぇ。龍はわたしたちとは違って、人間の目には見えないんでしょ?」

「うん」

「じゃあ、どうして十二支に選んでもらえたの?」

「あぁ、それはね」

 イタチと猫の真上をゆったりと飛びながら、龍は答えます。

「ぼくは、人間たちの願いから生まれて、神様に姿をもらったんだ」

「えっ、なんかすごい」

「へー、そうだったのか。そりゃあ、おれたちの誰よりもでかくなるわけだ」

 イタチも猫も、びっくりしました。

「人間たちは稲や野菜を育てたり、動物の肉や魚を食べたりするだろ。でも、その日の天気が悪いと、育つものも育たなくなる。だから神様は、ぼくに天気を操る力をくれたんだ」

「なるほどなー」

「そんな便利な力があるなら、いつでも好きなようにお天気を変えられるんじゃないの?」

 イタチが聞くと、龍は首を横に振りました。

「それはできないんだ。力を一度使うと、その日は動けなくなるくらい疲れちゃうから」

「うわぁ、大変なんだね」

「神様も『天気はなるべく自然の力に任せたほうがいい』っておっしゃってるからね」

 雨が何週間も降らなくなった時、人間たちが雨乞あまごいの舞を踊っていたのを、イタチも見たことがあります。

 ――あの後、雨を降らせてくれたのも龍だったのかも。

 人間たちの食べ物を頼りにしているイタチにとっても、それらが育たなくなるのは困ります。

 ――ありがとう、龍。

 心の中で、イタチはお礼を言いました。

「神様がおっしゃるように、人間は愚かなこともするけど、ぼくはすべての人間を愛するよ。だから、十二支になれたことも誇りに思う」

 木々の枝や葉の隙間から、陽の光がこぼれます。

 それを浴びて笑う龍を見て、イタチと猫も笑い合うのでした。

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