第12話 やっかいな人
上層階にあるアッパーフロアよりも敷居が高くなく、入っている企業自体も多いため、必然的に取引先や出入りする人間の数も多くなるミドルフロア。
基本的に外からきた人は11階にある受付を通ることになっていて、当然ここで働いていれば、たくさんの人間を見ることになる。
基本的には用件のみしか話さないけど、軽く雑談を持ちかけられることもあれば、中には連絡先を渡されたり、食事に誘われたりなんて経験も何度もあった。もちろんセレブ以外の男には興味ないけど、誘われて悪い気はしない。
どっちみち念願叶ってセレブ御曹司を捕まえたので、今は全部お断りしてるけど、まともな人なら一回もしくは二回断ればあきらめる。
相手も大手企業に勤める社会人。
立場もあるし、そこまで常識の通じない人もそうそういない。
だけど、例外もいることにはいて......
「今日こそ連絡先教えてよ~」
こちらが断っているにも関わらず、何度も何度もしつこく誘ってくる人は時に業務に支障をきたす場合もあるから厄介。
あまりにもしつこい人には、内線の番号を笑顔で渡したこともあった。気分を害さないように、やんわりと、だけどしっかりと撃退する。
この仕事をしていると、本当にスルースキルが磨かれる。だけど、受付で働いて培った高いスルースキルをもってしてでも、簡単にはスルーさせてもらえない人にも時として出会ってしまう。
「やあ、久しぶり」
受付の時間を数分過ぎた頃に突然押しかけてきたかと思えば、時間が過ぎても応対して当たり前だという横柄な態度をとったその人は、何を隠そう慎吾の一番上の兄だった。
「恐れ入りますが、お約束はいただいてますか?」
「約束なんて必要なの? 俺がきたって慎吾に言ってよ」
ダークブルーのスーツを着こなしている姿はさすがだけど、しかしその俺様御曹司様な態度には人の話きいてんのかと言いたくなる。
「失礼ですが、ご用件をお伺いしてもよろしいですか?」
何を言っても、慎吾に会いにきたの一点張り。言えない用事なら、仕事中以外にすませてよ。
一応内線で慎吾に伝えると、案の定仕事中だから暗に追い払うように言われたので、やんわりとその旨を伝える。
「ま、いいや。仕事終わるまで待つから、時間つぶすのに付き合って。もう終わりだよね」
この仕事をしていれば、色々な人間に出くわすとはいえ、ここまでマイペースというか失礼な人間もなかなかいない。
この人がクソなのは知ってたけど、私の都合はガン無視ですか。セレブなら、それくらい許されるとでも思ってるの?
「まさか嫌なの?」
どこまでも上から目線な態度に、完璧に貼り付けたはずの笑顔が引きつるのが自分でも分かった。
全く……。イケメンセレブなら、庶民の女は何でも言うこと聞くとでも思ってるの?
「いいえ~、とんでもございません。喜んでお付き合いさせて頂きます」
その通りよ! 私はお金のためなら、悪魔にでも魂を売る女。
これでセレブじゃなかったら丁重にお断りしているところだけど、慎吾の兄だし、セレブだし、とにかくあまり無下にもできない。
何より……、長男御曹司だし?
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