週刊スキルメール

鴨川京介

00.プロローグ

 俺は玉田紀夫(たまだのりお)。

 4/1の今日からようやく高校生だ。

 今日の入学式がどれほど待ち遠しかったか。

 新しい制服に袖を通す。


 うん。新品の制服のにおいがする。


 うちの学校はブレザーだ。

 この制服にあこがれて入学を希望する生徒も多いと聞く。

 まあ、ぶっちゃけ、どこの高校もそれほど大差ないんだけどね。


 確かに学力の差はあるし、学力の差によって風紀の乱れもあるそうだけど。

 どこに行ってもおかしな奴らは一定数いるだろう。

 だから、制服にあこがれて高校を決めてもおかしな話ではない。

 よく進学校とか聞くけど、俺には関係ないな。

 どこの学校でも自分の努力次第で学力はつくだろうしね。


 まさか、進学校にしかない脳に直接記憶を書き込むような装置があるわけでもない。


 …ないよね?


 まあ、そんなこんなで俺は呉竹市立南高校に無事合格できた。

 市立高校は東西南北あるけど、どこもあまり変わらない。

 俺は家から一番近い南校を選んだだけだ。


 俺の住む町は都会にまだなり切れてない半分田舎が残る都市近郊の町だ。

 電車が東西に走ってて、俺の住む町には3つの駅がある。

 自宅から一番近いのは呉竹駅だけど、繁華街なんかのショッピング施設が集まるのは呉竹東駅。

 運動公園やプールなんかの施設があるのは呉竹西駅の周りにある。

 呉竹駅の周辺は市役所やいろんな企業のオフィスビルが立ち並んでいる。

 俺の家と呉竹駅を結んだちょうど真ん中あたりが南校になる。


 俺の家族は父、母、妹の4人家族だ。

 呉竹市の南側にある元農家の畑と土地をサラリーマンである父さんが購入してここに移り住んできた。何でも格安で譲ってくれたらしい。農家の後継者問題ってやつ?

 結構広い畑があるけど、今は休耕地って感じになっちゃってる。


 俺が小学校の3年の時に引っ越してきたから、もう6年になるのか。

 ここ2年ばかし畑はお休みしている。父さんの仕事が忙しくなって、アメリカに単身赴任してるんだ。父さんは商社マンだそうだ。実際どんなことしてるのかは知らない。

 だから、そんなに広い畑が耕せなくて、母さんが家の裏のあたりだけで野菜を作っている。

 特にどこかに売りに出すということもないので、自分たちで食べる分だけって感じかな。

 たまの豊作には友達の家におすそ分けしている。結構評判はいいそうだ。

 一番評判が良かったのがサツマイモだったそうで、今年は半分以上の畑がサツマイモになっている。


 父さんはここの畑を使って将来ビールを作りたいそうだ。

 地ビールってやつ?

 よく小学生の時には「お前が二十歳になるころには完成させて乾杯しよう。」といっていた。

 正月に母さんに隠れてちょっと飲ませてもらったけど、苦くって飲めたもんじゃないね。大人ってよくあんな苦いものをおいしそうに飲むよな。


 妹は3つ下で今日から中学生だ。

 朝食を食べている時にも、やたら制服を見せたがって俺の周りをうろちょろしていた。

「かわいいね。よく似あってるよ。」

 とほめたら、真っ赤になっておとなしくなったけど。

 まったく、その真っ赤になったのも含めて可愛いんだが。

 妹は昔から何かと俺に付きまとっていた。

 何をするにも「にいちゃ、にいちゃ。」とそれはそれはかわいかった。

 それが小学校5年生ごろからだんだんと俺にまとわりつかなくなり、生意気なことも言うようになった。

 もっとおしゃれしろだとか、寝癖がついてる、カッコ悪いだとか。

 何かしら文句を言ってくるようになった。

 …反抗期なんだろうな。

 母さんや父さんの前ではそんなことないのにな。


 …さて、これで俺の現在状況の確認は終わりだな。

 とりとめもなく、節目の日にざっと今までのことを思い返してみた。


 う~ん。可もなく不可もなく、人畜無害?

 自己評価としては結構平凡である。


 俺は朝食をとって、妹と一緒に家を出た。

「「行ってきます。」」

 と二人そろって母さんに言った。


 妹が小学生の頃はよく手をつないで学校の前まで行ってたんだが、最近は少し離れて歩いている。

「兄ちゃん。今日は入学式で学校早く終わるんでしょ?」

 と歩きながら話しかけてきた。前を向いたままで。

 俺は少し後ろを歩きながら

「そうだな。入学式だけだしな。」

「友達できるといいね。高校生になったんだからボッチは卒業しなきゃ。」

 と俺を応援してるんだか、ディスってるんだか。

「ああ、そうだな。美香も友達できるといいな。」

 と、俺も妹の美香に言い返してやった。

「何言ってんの。私は友達いっぱいいますからね。」

 と自慢げにそう話す。

 それきり黙って歩いて行くと、やがて俺が通ってた中学校が見える。

 妹とはここまでだ。

「じゃあね。」

 といって妹は中学校の方に行った。

 あとからお袋が入学式に行ってやるはずだ。

 妹も入学式だからな。


 俺はそのまま大通りを抜けた。

 東西を貫通している国道だ。

 そこを過ぎてしばらく行くと一人の女の子が道端に立ってた。

「おはよう。」

 と俺は声をかけた。


 幼馴染になる護摩木しおりだ。

 なんでも先祖は宮司だったらしい。

 それでそんな名前なんだとか。

「おはよう、のりたま。」

 としおりは挨拶を返してきた。


 のりたまは俺のあだ名だ。

 玉田紀夫だからのりたま。実に分かりやすい。


「ああ、おはようごましお。」

 俺はあいさつし返してやった。

 護摩木しおりだからごましおだ。


「ごましお言うな。しおりで呼んで。」

 といつものセリフを言う。

「じゃあ、俺のことものりたま言うな。」

「じゃあ、タマチャン?のりちゃん?」

「ああ、どれでもよくなってきた。」

「じゃあ、のりたまね。」

 俺はいつものやり取りとはいえ、ちょっと疲れた。

 高校生にもなってこのやり取りを続けるのか…。


 しおりは傍から見れば結構スタイルがいい女子高生に見える。

 顔も美人だ。長い黒髪もいつもきれいだし。

 俺の初恋の人だからな。


 あったとたんに一目ぼれして、好きだと告白したが、2秒も持たずにいやだと逃げていった。

 あの小学3年生の日は忘れられない。

 それから俺はとにかくいやだといわれないように、あまり近寄りすぎず、遠すぎず、で一緒に遊んでいる。

 高校生になってまでいやだって言われて逃げていかれたら、俺立ち直れる気がしないからな。

 この距離感がちょうどいいんだろう。

 高校にはもっと美人もいるかもしれないしな。


 うん、そうだ。

 俺は新しい恋に生きるんだ。


 俺の決意表明に合わせたように、ポケットのスマホがブルブルとバイブして着信を知らせてきた。

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