故郷に帰りたい

けんじ

勇者の帰還

 魔王を討伐し、奴が操っていた魔物が穏やかになった世界を足を引き摺りながら、

帰らなければならない事に少し辟易してる。


最後の言葉「我が子を頼む」とだけ伝え満足げに笑顔で死にやがった。


 呪いも受けたのか、俺の見る風景は全てが灰色に変わってしまった。

 体は、呼吸や鼓動はどうなのだ? 

目を瞑り胸に手を当てる。静かに鼓動を感じる。

 

 

 ふと記憶が揺れ、何かの思いが溢れる。

「その手を離さないで、君が君で居ることが大事なんだ。」

誰かが必死で叫んでいる


 そこから、時が止まる。

黒いモノが心の奥から吹き出し、迫ってくる。

歩かなきゃ 走らなきゃ 黒いモノに覆われ喰われる。


 魔物に喰われる人々、瓦礫と屍ばかりの崩壊した都市。

共に行動し、協力しあった仲間の死。


人間の軍隊による妖精狩り、魔族の村や都市を焼き討ち。屍ばかりの村や街、


全ての人の魔族の仕打ちを忘れる事が出来ない程、人々の痛みも悲しみも脳に刻まれていく。

 

 涙が勝手に頬勝手に小さな呻き声がを伝う。悲しみがあ゛ぁぁぁぁぁぁ精神を支配し、嘆きが体を何故だっ何故なんだつ蝕む。

苦しみが続き自らを無くしてしまったように感じた後、全てが俯瞰の視点に変わる。

いくつもの意識が同時に見える。感じる。

痛みが哀しみが喜びが一気に雪崩れ込む


 あれは誰だ? そして、俺は何処だ?

今、思考してるのは俺なのか?

他の誰かなのか?

本当は俺は別に在るんじゃないか?

あぁ、意識の波に、溺れそうになる。


誰かに手を掴まれる。温もりが伝わってきて安心する。


「その手を離さないで、君が君で居ることが大事なんだ。守り抜いて!君と言う小さな灯りを! 」

耳元で誰かが必死で叫んでいる。


無くなったものは取り戻せずとも、

守る事は出来る。


どちらを守るべきなのか? 

俺が選ぶものは?

温もりは手に感じている。

何度も何度も

「その手を離さないで、君が君で居ることが大事なんだ。守り抜いて!君と言う小さな灯りを! 」

と何かが叫び続ける。

記憶が定着すると、何が起きたのかがやっと全てわかった。


地上全てを守る為に、先代の魔王は俺の心に種を植えた。

いつか来る災厄の犠牲を最小限にするには、

全ての生きている者たちで協力しなくてはならない。


奴は結局魔族の勇者で、どれだけ苦しみ、哀しみ、嘆いたのかわからないが、この記憶を受け継いだ犠牲者だったわけだ。


俺の資質を見抜き、まんまと我が子を植えつけ嬉々として逃げたのだ。そりゃ満足げに笑うわけだ。

余計な仕事を押し付けやがって! くそっ!




真なる勇者は王にも神にも魔王にも仕えず、

弱き者を守る者ならば、

魔族も人も関係なく守る者なのだ。


魔王であり、勇者である存在になった私に


 魔王の参謀だった者は言う

新しい魔王よ。どういたしますかと?


現在の人の王との対話が必要だ。

軍を下げ再編成せよ。



真なる勇者として、俺は人が王達と交渉する為に

そして、全てを守り白黒の世界を

彩り鮮やかな世界へと戻す為に

帰還するのだった。




























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