15 これから

 終わったあとはなにもかもが元どおりで、騒ぎがあったことが嘘みたいだった。

 避難してた人たちも家に帰って、花袋も特に後遺症とかなくエクスプレッサーから戻れた。風博にいも、意識を取り戻して。

 まあ、平和がおとずれた、というわけで。

「花袋〜〜〜、よかったよぉ、ごめんね〜〜〜」

 ボクは泣きながら花袋に謝ってた。

「もういいよ、私もひどいこと言ってごめん」

「……へえ、そんなことがあったんだ」

 パトリスちゃんと月湖ちゃんは、結ちゃんから事情を聞きながらボクらを見る。

 二人は、舞鳥町でアサンブラージュが出たってニュースを見てきたから、事情を知らなかったのだ。

「まあ、誰しも隠しごとぐらいあるから、直陽はこれから気をつけないとね」

「パトリスちゃんの言うとおりです……」

 これはもう、反論できない。

「それに、そうやって無理やり誰かの役にたとうとしなくても、直陽は魅力的だと思う」

「そうかな……ボク、個性うすいし、花袋の説得だって、吹瀬さんがいなきゃだめだったし」

「けど、何回もエクスプレッサーになった花袋に呼びかけてたし、花袋の秘密を知ろうとしたのも、自分のためだけじゃなくて、花袋のことを考えてもいたんでしょ? 誰かのことを思えるのって、それだけでじゅうぶん個性だと思うよ」

 パトリスちゃんにそう言われて、驚く。

 ボク、いいとこあったんだ。ちゃんと、胸をはれることがあったんだ。

「それが空回りするところはダメだけどな、直陽はもっと自信を持っていいと思うぞ! なんたってオレの友だちなんだからなっ」

 月湖ちゃん、それほめてるの? けなしてるの?

 まあ、いい意味として受けとっておこう。

「……で、花袋」

 結ちゃんが花袋の顔をのぞきこんで言う。

「相貌失認のこと、あたしたち知っちゃったんだけどさ。そのことで、なにかあたしたちにこうしてほしいとか、助けてほしいこととかない? なにもサポートがないままじゃ、いろいろ大変でしょ」

 たしかに。顔がわからないなら、ボクらとのコミュニケーションは人一倍つかれるだろう。

「うーん、一応、声や服装とか、髪型でなら区別はつくんだ。だから、話しかけるときに名のってくれたり、わかりやすい格好してくれたら嬉しいかな……。むずかしいと思うけど」

「なるほど、顔以外の外見で特徴を出せばいいんだ」

「じゃあじゃあ、アレが役にたつんじゃないか!?」

 そう言ったのは、月湖ちゃん。ふんふんと鼻息を荒くしながら言葉を続ける。

「アレ?」

「そう、昨日買ったやつだよ!」

 月湖ちゃんがそう言って上着のポケットから取りだしたのは、昨日みんなで出かけたときに買った、色違いの花のキーホルダーだった。

「これをわかりやすいところにつけたら、みんながそれぞれ誰かわかるだろ」

「いいね。どこにつけよっか」

「……これ、ゴムにつけて、髪しばる?」

「それだ! それがいい!」

 なんとなくつぶやいた言葉に、月湖ちゃんが反応して賛成する。

「おお、いいね。家に帰ったら早速やってみるよ」

「チーム感出ていいね〜、頭ならわかりやすいし」

 みんなの反応もいい感じで、ほっとする。

 明日の入学式にまにあうように、やってみよう。

 あんまり器用じゃないから、できは心配だけど……。

「いやあ、大変なこともあったけど、チームとしての仲は深まったね」

 結ちゃんが笑いながらうなずく。ふり返ると、この数日、すごくいろんなことがあった。

 バランサーになったり、花袋や仲間に出会ったり。

 ……あ。

「そういえば、花袋はなんでボクの世話を焼いてくれたの? 最初助けて、それっきりでもよかったのに」

 前から思ってた疑問だ。花袋は中学生のとき、人づきあいでいい思いをしてないのに。

「あー、それ? あのね……」

「なになに?」

 花袋が、ボクの耳に口をよせて、こしょこしょ耳うちした。

「……なにそれえっ! あはは!」

「もう、笑わないでよ。はずかしいな」

「どうしたんだ二人とも! オレも聞いていいか?」

 飛びかかってくる月湖ちゃんに、やれやれと首をふるパトリスちゃん、慌てて月湖ちゃんをとめる結ちゃん。

 とびきりの笑顔で笑う花袋。

 この五人なら、うまくやれそうな気がしてきた!

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